第十九話 ゆいの気持ち
ゆかとゆいの特別な力でまー君は素直な気持ちになって思っていることをそのまま口に出してしまっているのだが、ゆいを拒絶してゆかを受け入れようとしているという事を知って一番動揺していたのは、ゆいではなくゆかだった。
「ちょっと待ってよ。私じゃなくてゆいちゃんの間違いなんじゃないの?」
「間違いなんかじゃないよ。俺はゆいちゃんよりもゆかちゃんの方が良いなって思っただけだから」
「それはおかしいよ。私は別に何もしてないし、ゆいちゃんの方が可愛いところもたくさんあっていいと思うよ。私なんかよりも全然いいと思うけどなぁ」
「感じ方は人それぞれだと思うよ。俺はゆいちゃんは何となく怖いなって思っちゃってるし、そういう意味でもゆかちゃんは安心できると思うんだ」
「そう言われたら仕方ないよね。私よりもお姉ちゃんのほうがお兄ちゃんと仲良くなるのにふさわしいと思うわ。ここは涙を呑んでお兄ちゃんの気持ちを受け入れて私はおとなしく身を引くことにするよ。お姉ちゃんは私の分まで一杯頑張ってね」
「二人とも変なこと言わないでよ。そんなことするわけないでしょ。私はいつだってゆいちゃんと一緒じゃなきゃ嫌なんだって」
強気な幼女が初めて人前で見せた弱さ。そんな事だとは何も知らないまー君はゆかを慰めようと手を伸ばそうと思ったけれど、まー君とゆかの間に挟まっているゆいが邪魔で自分が思い描いているような形でゆかを抱きしめることは出来なかった。
だが、自動的に抱きしめられる形になるゆいは幸せそうな表情を見せていた。
素直な気持ちを前面に出しているという事がわかっているので嬉しい気持ちもあるのだけれど、ゆいのことを考えると手放しで喜ぶことが出来ないのでゆかは少し複雑な心境であった。
まー君と仲良くしたいという気持ちはもちろんあるのだけれど、それはまー君と自分が二人だけで仲良くなるという事ではなく、その中にはゆいの存在も絶対に必要だと思っている。
仮に、まー君と結婚をするという事になったとしても、三人で仲良く暮らすという事は彼女の中で確定している。そんな恐ろしい妄想を頭の中で展開していたりもする。
悲しいことに、それと全く同じことをゆいも頭の中で幾度となく考えられていたのであった。
「私一人じゃお兄ちゃんのところには行けないよ。ゆいちゃんと一緒じゃなきゃ、絶対に嫌だもん」
「そうか、そこまで言うんだったら、俺は素直に諦めるよ」
「え?」
「え?」
何の躊躇もなく諦めてしまったまー君はそこまで真剣ではなかったという事になってしまう。
ただの遊び感覚で誘われたと知ったゆかはちょっとだけ怒りそうになっていたが、それ以上にホッとしたという気持ちの方が強かった。
しかし、それを聞いたゆいはとても平常心ではいられなかった。自分が拒絶されたという事に対してよりも、ゆかに対してあまりにも不誠実な態度をとったまー君に憎しみとも怒りとも取れるような感情を抱いてしまっていた。普通に戦っても勝てる相手ではないという事はわかっているし、ここで争うことで今以上に拒絶されてしまう可能性が高くなってしまうという事も理解している。
それでも、ゆかに対しての不誠実な態度をとるまー君に対してゆいは黙っていることが出来なかった。
「そんなに簡単に諦めるってことは、そこまで真剣じゃなかったってことでいいんだよね?」
「真剣に誘ってはいたけれど、たかが遊びにそこまで執着することもないかなって思っただけだよ。時間が合えば俺はいつでもいいと思っているし、ゆかちゃんが遊びたいって思ってくれた時まで俺はいくらでも待つよ」
「たかが遊びって、お姉ちゃんのことをそんな風に思ってるなんて許せないんだけど。何よりも、今口にしていることがお兄ちゃんの本心だって言うのは信じられないよ。お兄ちゃんって、そんなことを平気で口にするような人じゃなかったよね?」
「そうかもしれないな。この世界に来てから遊びたいって思ったことはあまりなかったからな。そういう意味では、ゆかちゃんは俺の遊び相手としてちょうどいいんじゃないかって思うよ。ゆいちゃんは、なんか下手そうだしすぐに怒りそうだもんね。ほら、今だって凄く怒ってるし」
「そんな風に茶化すのは良くないと思うな。私のことはいくらでも好きなように言ってくれていいんだけど、お姉ちゃんのことをそんな風に見てるって言うのは許せないよ。撤回しろとは言わないけど、お兄ちゃんはもう少しお姉ちゃんの気持ちを考えてくれないかな?」
「でも、ゆかちゃんは絶対に遊び相手としていい感じだと思うんだよ。俺は今までいろんな人を見てきたけど、他の人には感じなかった遊びやすさがあるとしか思えないんだ」
「それ以上喋るな、カス」
ゆいは高速で回転するドリルを取り出してまー君の脳天に突き刺そうとした。
ドリルが高速で回転する音が部屋の中で反響していたのだが、残念なことに高速回転しているドリルがまー君の頭を貫くことはなかった。
ゆい程度の能力では残念なことに、まー君にダメージを与えることなんて出来るはずがないし、攻撃の意志ありと判断されて反撃を食らってしまったら生きてはいられないだろう。
それがわかっていたはずなのに、ゆいの衝動は抑えることが出来なかった。
自分のためではなく、姉であるゆかのために怒りを抑えるなんてことは、どうしてもできなかったのであった。




