第十二話 お風呂タイム
まー君がパフェを食べ終えた時、わかなは同じものを三つ完食していた。あれだけのパフェを三つ食べたのにもかかわらず、わかなは少し物足りなさそうな顔をしていた。それを見たまー君はわかなの機嫌を損ねなないように細心の注意を払って様子を観察していた。
「あれ、どうしたのかなぁ? もしかして、まー君もおかわりしようとしてるのかなぁ?」
「いや、そう言うわけじゃないけど。それに、残したら大変な目に合っちゃいそうだし」
「それは大丈夫だよぉ。一個完食できたんだから今日のところは罰ゲームなしでいいと思うよぉ。じゃあ、せっかくのデートなんだし、もう一つ追加して二人で一緒に食べちゃおうよぉ?」
最後にやってきたパフェは今まで見てきた中で一番大きく見えていた。
先ほどと同じようにスプーンを伸ばそうとするまー君ではあったが、あともう少しで届くというところで止まってしまった。味は間違いなく美味しいし、食べやすいのでもう一口二口食べることは可能なはずなのに、どうしても手が伸び切ることがなくあと一歩のところで止まってしまう。
そんなまー君のことをお構いなしにわかなはパフェを食べ進め、追加のパフェが届いてから五分と経たずに目の前から綺麗に消えていた。せめてもの抵抗として、まー君は二口だけパフェを食べることに成功したのだけれど、今まで感じたことがない敗北感に包まれたまー君は何かをするという気力もなくなっていた。
わかなは満足した様子で席を立つと、そのまままー君の手を引っ張って先ほどまでいた部屋へと戻っていった。あれだけ冷たいものを食べてもわかなの手は暖かいんだなとの感想を抱いたまー君ではあったが、気付いた時には服を全部脱がされて腰にタオルを巻かれた状態になっていた。
「あれだけたくさんのパフェを食べて体が冷えちゃってると思うからお風呂に入っちゃっていいよ。ここのお風呂は天然温泉が引かれているんで体にもいいと思うし、好きなだけ入ってていいからね」
自分の置かれている状況を理解出来ないまー君はなぜ服を脱いでいるのか思い出そうとしたのだが、何も思い出すことは出来なかった。
最後に思い出せるのは手を繋いでここの部屋に戻ってきたという事。それ以降の記憶は綺麗に消えていた。
どうするのが正解なのかわからないまー君は、とりあえず言われたまま湯船に入ることにした。
少し集めに感じたお湯は冷え切った体を末端から温めていき、そのまま体全体を包み込んだまま芯まで温めていった。
お湯につかることの大切さを実感したまー君はお風呂に入っている意味がわからなかったが、暖かくて気持ち良いので気にする必要はないかと思い、それ以上考えるという事を放棄してしまった。
お風呂につかったまま部屋の様子を改めて確認してみたのだが、浴槽の隣にシャワーが設置されている。その隣にはベッドもあるのだけれど、仕切りとして用意されているアクリル板の高さが足りていないのでシャワーを使うときは気を付けないといけないなと考えていた。シャワーの向きに気を付ければいいのかもしれないが、立って使用するよりも座って使用した方が良さそうだ。そんなどうでもいいことを一人で考えながらお湯につかっていた。
シャワーの近くには中身が不明のボトルが五つ置かれている。その中身を確かめる勇気がなかったまー君はシャワーの温度を確認してから全身を軽く流し、そのまま腕を伸ばしてベッドの上に置いてあったバスタオルをとって体に着いた水分をぬぐい取っていった。
そう言えば、わかなはいつの間にいなくなったのだろう?
お湯につかったあたりで出ていったような気もするのだけれど、それ以前にも出て行っていたような気もしている。どんな状況でも人がいなくなれば気付くと思うのだが、パフェの件で敗北感を味わっていたまー君は視野が狭くなっていた。そう考えることで自分の気持ちを納得させていた。
何もやることがないし、服を着ていないままタオルを巻いて外に出るほどの元気も勇気もない。今できることは何があるだろうかと考えた結果、まー君の出した答えは、とりあえずベッドに横になってから考えようというものだった。
普段使っているベッドよりも固く寝辛そうなベッドではあったが、少しひんやりした材質で火照った体にはちょうど良かった。高さの足りていない枕に頭を乗せてゆっくりと目を閉じ、今日の出来事を振り返ろうと思っていた矢先、勢いよく扉を開けてわかなが部屋に戻ってきた。
「そろそろお風呂から出たのかなって思ってきたみたら、ちょうどいいタイミングだったみたいだねぇ。お風呂上がりの火照った体にこのスポーツドリンクをプレゼントしに来たよぉ。まー君はお風呂を堪能できたかなぁ?」
ベッドに横たわるまー君にまたがって顔をじっくりとのぞき込むわかなの行動にびっくりしたまー君は一瞬だけ目を逸らしたのだが、わかなに顔を掴まれて顔を正面に向けられた。
お互いに見つめあったまま少しずつ距離が近付いているのだけれど、わかなの前髪がまー君の顔に触れそうになる前にピタッと止まってじっと見つめあっていた。
近い距離で見つめあうことで緊張してしまったのか、まー君は呼吸の仕方を忘れてだんだんと息が苦しくなっていき、過呼吸になりかけた。
「そんなに取り乱しちゃダメだよ。男の子なんだからもっと堂々として良いんだからね。また今度、遊んであげるからね。それまで、他の女の子に浮気しちゃ、ダメだよぉ」
正常に呼吸が出来るようになった。
わかなが持ってきてくれたスポーツドリンクと綺麗にたたまれた洋服がベッドの足元に置かれていた。
わかながいついなくなったのかわからなかった。
少しぬるいスポーツドリンクは、優しく体にしみわたっていった。




