第十一話 恐怖と絶望
馬鹿みたいに大きなパフェと格闘すること約一時間。
まー君の目の前にある光景はそこまで大きく変化はしていなかった。パフェの残りを確認することで挫折してしまうかもしれないという思いがあったので前しか見ていないのだが、わかなの顔の動きを見ている限りではまだまだ残りはたくさんあるという事だろう。
「まー君って、すごく強くて何でもできるのにさ、食べるのは遅いんだねぇ。同じものを頼んでるのに女の子よりも食べるの遅い男子って、あんまりモテないかもしれないよぉ」
「肉とか魚だったら食べるのは早いんだけど、甘いモノってあんまり食べ慣れていないからか時間がかかっちゃうんだよね。それに、冷たいものもあんまり得意じゃないからってのもあるかも」
「そうなんだぁ。それなら、今度は焼き肉を食べに行こうね。牛一頭食べることが出来る店があるんだよぉ」
牛一頭?
牛一頭を食べることが出来る?
牛一頭を丸ごと仕入れて全部の部位を食べることが出来ると言いたいのだろうか?
「牛一頭って、いろんな部位を食べることが出来るってこと?」
「そうだよぉ。普通のお店では食べることの出来ない希少な部位も食べることが出来るんだぁ。私は三回くらい言ったことがあるんだけど、みんなお腹一杯になって苦しかったけど美味しかったって言ってくれてたよぉ」
「確認だけさせてもらいたいんだけど、何人くらいで食べに行ったのかな?」
「えっとね、一回目は格闘家四百人で行ってぇ、二回目は近所の小学校の生徒さん全員で行ってぇ、三回目は日本魔法連合協会のスタッフさんたちと行ったんだよぉ。その時も零楼館乳首郎が代金を立て替えてくれたんでみんな必死に食べてたなぁ。確か、残したらみんな性転換してサキュバスになるって罰ゲームがあったんだよ。もちろん、小学生の生徒さんたちは対象外だったから安心してねぇ」
「それって、日本魔法連合協会のスタッフを油断させるために小学生を挟んだって事じゃないよね?」
「ええ、そうなのかなぁ? わかな全然わかんないよぉ」
「もう一つ質問なんだけど、わかなちゃんはどれくらい食べたのかな?」
「わかなは最初から最後までずっと食べてたよぉ。席数の関係でお腹がいっぱいになった人から交代する形になってたんだけど、わかなは牛一頭なくなるまで食べ続けていたかも。ちょっと恥ずかしいねぇ」
わかなの話はおそらく真実だろう。こんなくだらない嘘をつく必要もないと思うし、パフェを食べ終えるスピードを見ても間違いないと思う。
この小さな細い体のどこにあれだけの量が入るのだろうと観察してみたのだが、まー君が見ている限りではわかなの体に変化は見られなかった。お腹も膨らんでいないし、食べ過ぎて苦しそうというそぶりも見られない。口の周りに少しだけクリームがついているのでパフェを食べていたという事に間違いはないのだが、あれだけの大きさのパフェを一瞬で食べきるのはセンスと技術が優れているという事なのかもしれない。
「あれれ、まー君はお手手が止まってますねぇ。もしかして、ギブアップしちゃうのかなぁ?」
「ギブアップなんてしないよ。まだまだ余裕だからね。そうだな、あともう少しで食べ終え……半分くらいはいけるんじゃないかな」
「そっか、あんまり無理しちゃダメだよぉ。ギブアップしても罰ゲームが待ってるだけだから安心してね。でも、ギブアップしちゃったら、わかなと一緒に過ごす時間が終わっちゃうかもしれないよぉ」
「ギブアップしちゃったらわかなちゃんと一緒にいられないってことか。それだったらいっそのことギブア」
「は? 今何言おうとした?」
今までに対峙してきたどの生物からも感じたことがない殺気と怒りと狂気が混ざって凝縮したようなプレッシャーを感じた。
一瞬でまー君の脳裏を駆け巡ったのは、死んだ方がマシな目に遭っている自分の姿だった。
何とかしてごまかさないと危険な目に遭ってしまう。自分の未来が危ない。いや、未来そのものが無くなってしまうかもしれない。弱くてコンテニューをすることになってしまうかもしれない。
「何も言ってないよ。ギブアンドテイクで美味しいものをたくさん食べに行きたいなって言おうとしただけだから。わかなちゃんは美味しいものたくさん知ってそうだし、何か違うものも食べたいなって思っただけだよ。こんなに美味しいパフェを食べきらないなんてもったいないしね。もしかして、わかなちゃんは俺がギブアップするとでも思ったのかな?」
「うん、ちょっと思っちゃった。ごめんねぇ。でも、まー君からは諦めちゃおうかなって気配がしたんだけど、それって私の勘違いだったの……かな?」
「誰にでも勘違いってのはあるからね。あんまり気にすることもないさ。俺だって勘違いしちゃうこともあるし、お互いに気にしないでおこうよ」
わかなの口元についているクリームを見ることは出来なくなっていた。わかなの顔を見ていたら、自分の噓がばれてしまうかもしれないと思ったからだ。
まー君はわかなから視線を外してパフェの残量を確認したのだが、自分が思っているよりもパフェが残っていなかったので一安心していた。
それでも、気合を入れないと食べきることは難しいラインだったと思う。
「すいません、ジャンボパフェもう一つ追加でお願いします。え、大丈夫ですよぉ。代金は零楼館乳首郎につけておいてもらえればいいですしぃ」




