第二十八話 人間爆弾
誰もが理解した。単独でまー君に勝つという事は不可能だと。
誰もが想像した。かいりと誰かが手を組めばまー君を倒せるのではないかと。
だが、その誰かを想像することが出来る者は誰もいなかった。かいり一人ではまー君に対抗することも出来ているのだが、かいりに仲間がいてもその仲間をかいりが守りつつまー君を退けるなど不可能な事は誰がいくら考えたとしても覆ることはなかった。
そんな中、世界中でたった一人だけ考えることを諦めなかった男がいる。
零楼館乳首郎は人間ではない超生命体を召喚してかいりと組ませる計画を立てていた。
「君たち裏魔法連合協会の会員諸君には申し訳ないと思っているのだが、その命を俺のために使ってもらってもいいかな?」
「もちろんです、我々が今なおこの世界で生き残っていられるのは、ひとえに零楼館乳首郎様のお陰でございますからね。我ら裏魔法連合協会員壱萬と弐名の命をご自由にお使いくださいませ」
「ありがとう。諸君らの命は決して無駄にはせぬ。俺が黄泉の国へ行くまで報告を待っていてくれ」
「御身のために」
裏魔法連合協会は非公式の存在でありながらも誰もが知る魔法能力者の集団なのである。
人並み以上に魔力を秘めているものの、魔法自体を扱うことが出来ず戦闘に参加することが出来ない者たちのために作られた組織なのだ。
まー君を何度もぶっ飛ばしたかいりも魔法自体は使えないので裏魔法連合協会に入る資格はあるのだが、彼女は卓越した戦闘技術を有しているという事もあって自由に活動することが出来ているのだ。
魔力があっても魔法を使うことが出来ないという事は極稀に存在するのだが、そのまま放置してしまうと抱えきれなくなった魔力が暴走し大爆発を起こしてしまうことになる。それを避けるためには魔力が溜まりきる前に命を奪う事しかできなかったという過去がある。そのことから、彼らのことを人間爆弾と呼んで忌避する者もそれなりにいたのだ。
だが、その問題をたった一人で解決したのが零楼館乳首郎なのである。
彼らを救うためには溜まりきる前に魔力を吐き出させる必要があるのだが、他人の魔力を使って何かを行うという事は人類にとっては不可能な事であった。
それが出来ていれば人間爆弾と呼ばれるような事態にはならなかったと思うのだが、零楼館乳首郎はそれを可能にした。文字通り、悪魔に魂を売ったことで他人から魔力を奪うことが可能になったのだ。
それを知った彼らは自分たちを生き永らえさせるために自らの魂を悪魔に捧げた零楼館乳首郎を神のごとく崇拝し、彼の言うことには絶対の服従を誓っているのである。
ただ、零楼館乳首郎が契約をした悪魔とは実際には魂のやり取りは行っておらず、話し合いの末にその能力を譲渡してもらったという。
零楼館乳首郎に恩を売っておくことで目の前の小さな損が大きな益になると踏んだ悪魔だからこそ出来た話だと思われがちだが、実際のところは零楼館乳首郎の強さに恐れをなしてしまった悪魔から一方的に押し付けられたというのが真実である。
その経験を活かし、今度は彼らの持っている魔力を生贄にして戦える悪魔を召喚し、かいりと組ませてまー君を倒そうと計画を立てたのである。
壱萬と弐名の犠牲で呼び出すことが出来る悪魔がどのような強さを持っているのか、零楼館乳首郎は期待感で胸がいっぱいであった。
もしかしたら、自分よりも強い悪魔が出てきてしまうのではないかという心配もあったのだけれど、まー君を倒すことが出来るのであればそれでもかまわない。
この世界が滅ぶようなことがあったとしても、まー君が伝説のサキュバス二人を独占するよりもマシだと考えている。誰も言ってはいないけれど、そんな風潮が生まれつつあったのだ。
誰もが寝静まった深夜、まー君打倒を願う零楼館乳首郎は裏魔法連合協会協会員の命と引き換えに悪魔召喚の儀式を人知れず行った。
壱萬と弐名が集まったのは日中にまー君がかいりに何度も吹っ飛ばされていた会場なのだが、誰も何も言葉を発することもなく微動だにすることもなかったのでかすかに聞こえる呼吸音意外は全くの無音であった。
誰一人として死ぬことをおそれず、希望に満ちている表情をしている。それは、零楼館乳首郎によって生かされている命が零楼館乳首郎のために使うことが出来るという喜びがあったのだろう。
零楼館乳首郎がいなければ彼らはいずれ迎えるであろう大爆発によって命を落とすか、他人によって命を奪われるかの二択でしかなく、彼らが何のために生まれ何のために生きているのか誰もその答えを得られなかったのである。どんな生物にだって生まれてきた理由と役割は存在しているはずなのだが、彼らに限っては誰一人として生まれてきた理由と与えられる役割が存在しなかった。
だからこそ、零楼館乳首郎のために命を捧げるという事が崇高なものとなっているのである。
「君たちの犠牲によってまー君を倒すことが出来る悪魔を召喚することが出来る。本当に感謝しているよ。ただ、こんなことになってしまって申し訳ないという気持ちもあるのだが、それだけは許していただきたい」
壱萬と弐名の命を代償に現れた悪魔は浮いたままゆっくりと零楼館乳首郎に近付いていった。
小さな少女にしか見えない悪魔ではあったが、計り知れないほどの魔力と底知れぬ恐怖を感じさせる冷たい瞳は一目見ただけで強いと感じさせる。
「ボクがまー君を骨抜きにしちゃえばいいってことでしょ。多分、大丈夫だから安心してね」




