第二十五話 本日の試合終了
一方的にかいりのパウンドが続いている状況だったけれど、まー君に一切ダメージが入っていないことは誰の目にも明らかだった。
まー君を思いっきり吹っ飛ばせるだけの攻撃を放っていたかいり自身も手ごたえがないことはわかっているし、見ている人たちにも殴られた勢いで弾んでいるとしか映っていなかった。
まー君の視線が常にかいりの顔を正面にとらえているからなのか、見つめられているかいりはこれだけ攻撃しているのに何の意味もないという事が恥ずかしくなり、徐々に攻撃が雑になっていっていた。まー君の体が必要以上にはねないように左手で肩を押さえて右手で殴っていたのだが、いつからか両手で交互に殴るようになり、より一層まー君の体が弾むようになっていた。
床がトランポリンにでもなっているのかと思うくらいに二人の体が弾みだした時、まー君は勢いよくブリッジをしてかいりの体をさらに浮かせていた。
二人の間に出来た隙間を利用してまー君は足を抜いて体勢を立て直すと、そのままかいりの右手を掴みながら両足をかいりの首に回して、一気に頸動脈を絞め上げた。
絞め技に足して全く対策をとっていなかったかいりは一瞬で意識を失い、そのまま試合は終了した。
何ともあっけない幕切れに観客たちはどう反応していいのかわからず、ただただ困惑するだけであった。
どうにかして試合を継続させようと零楼館乳首郎は策を練っていたのだけれど、完全に失神しているかいりを見てしまうとさすがに無理だという事に気付いてしまった。
実況解説の三人が試合会場までやってきてまー君にインタビューをしようと近付いたのだが、まー君は失神しているかいりを心配そうに見守っていたのでかいりが搬送されるまでインタビューは控えることにしたようだ。
ストレッチャーに乗せられたかいりは意識を取り戻しはしたのだが、まだ完全に意識が戻ったわけではないので言葉を発することは出来なかった。
だが、意識がもうろうとしている中でも右手をゆっくりと伸ばしており、それを見たまー君は両手で優しく包み込むようにしてかいりの右手を支えていた。
手が触れあったことで安心したのか、かいりは目を閉じながら小さく何かを呟くと、それを聞いたまー君はかいりの頭を優しく撫でた。そのままかいりはストレッチャーに乗せられて医務室へと移動していった。
大きな拍手に包まれて退場していくかいりを見守ると、実況解説の三人は本来の仕事を思い出したのかマイクを持ってまー君に近付いていった。
「今日もまー君は全勝でしたが、今日の戦いを振り返ってもらってもよろしいですか?」
「そうですね。ハッキリ言うと、最後に戦ったかいりちゃん以外はあんまり印象に残ってないです。ごめんんさい」
「その気持ちはわかります。今まで戦ってきた中で、まー君が負けに一番近付いた試合だと言ってもいいでしょうか?」
「うーん、どうでしょう。正直に言うと、他の人達とあんまり違いが無いような気がしましたね。見てる分には俺がピンチだと感じたかもしれないですけど、ダメージは全然なかったんでヤバいなとは思わなかったですよ」
「でも、あんなに吹っ飛ばされ続けたら試合を止められてもおかしくなかったんじゃないですかね?」
「それを言うんだったら、パウンドをもらい続けてた時間帯の方が印象悪そうですけどね。このまま試合を止められたらどうしようかなって思いながらかいりちゃんが焦れるのを待ってましたもん」
「かいりちゃんがまー君の肩を押さえたままパウンドを続けてたら試合を止めるように指示してたかもしれないって、気付いてました?」
「もちろん気付いてましたよ。零楼館乳首郎さんが変な動きしているなって思いながらドキドキしてましたから。殴られているよりそっちの方が気になっちゃうくらい余裕でしたね」
笑ってはいけないのだろうが、観客席に少しだけ笑いが起こっていた。誰もがまー君の初敗北を期待していたので完全にアウェーな状況なのだが、まー君の冗談なのか本気なのかわからない発言は誰かの笑いのツボに入ってしまった。それも、一人や二人ではなく複数人が笑ってしまっていた。
「僕も隣にいて零楼館乳首郎さんの動きが変だなって思いながらも静観してました。下手に口を出しちゃって、天空の民がまー君と戦う権利を失ってしまったらまずいなって思っちゃったんですよ」
「零楼館乳首郎さんはそんなに心狭くないと思いますよ。エッチなことに関しては心が狭いかもしれないですけど、戦いに関しては誠実だと思いますよ」
天空の民とまー君のやり取りを聞いた観客から笑いが漏れてしまった。それを聞いた零楼館乳首郎は少しだけ気分が悪くなったけれど、言われていることは事実なので反論することが出来なかった。
「それはそうとして、気になってることがあるんで聞いてもいいですか?」
「いいですけど、エッチな質問は駄目ですよ」
「そう言うのは聞きません」
零楼館乳首郎とまー君のやり取りでも観客席から笑いが漏れ聞こえていた。まー君は人類の敵ではあるのだけれど、笑いを我慢するのはそれとは関係ない。観客の一部だけではあるがそう思い始めていた。
「今まで何度もまー君の戦いを見てきましたけど、なんでかいりちゃんの攻撃を受けて吹っ飛んでたんですか?」
「さあ、なんででしょうね?」




