第二十四話 一方その頃、天空では
パウンドの雨が降り注ぐ中、まー君は無抵抗ではありつつも反撃のチャンスを狙っていた。
一瞬の隙をついて反撃をしようと思うのではなく、隙だらけな攻撃で反撃するチャンスしかないという事で困っていた。いつどのタイミングで反撃しても成功するとしか思えないのは、逆に罠なのかと困惑してしまうまー君であった。
時を同じくして、天空の民たちも映し出されている映像を見て困惑していた。
あれだけ一方的にパウンドを叩き込まれているまー君よりもかいりの方がダメージがあるような疲れ方をしている理由がわからない。理由は誰もわからないと思うが、天空の民のエースであるゆきのであれば何かわかるのではないかという思いもあった。
聞いたところで知らないと言われるのがオチなのだろうけど、エースならば一般人と見えている世界が違うのかもしれないという考えのもと、一人の少女がゆきのに問いかけていた。
「これだけ一方的に攻撃されると試合を止められてもおかしくないと思うんですけど、どうしてまー君は平気なんですか?」
「そんなのあたしに聞かれても知らないよ。単純に、かいりちゃんの攻撃が全く効いてないってだけの話なんじゃないかな」
「じゃあ、ゆきのちゃんがかいりちゃんの立場だったら勝ててると思う?」
「あたしならあの状況まで持っていけたら勝てると思うよ。あの状況で勝てないのはかいりちゃんだけじゃないかな」
誰もがゆきのは勝てると言わずに否定すると思っていた。
思っていた答えと違う肯定的な答えは天空の民たちを歓喜させた。
やはりうちのエースは最強だ。天空の民は地上人なんかに負けるはずがない。
そんな事を言いながら近くにいる者同士で大いに喜びあっていた。
だが、そんな空気を壊したのは他ならぬゆきのであった。風船のように空気をためた物体を両手の間に作り出し、それを両手で思いっきり挟んで割った。
どこまでも届くパンっという音は全員の視線を自分に集中させるためであり、それに気付いた者は皆ゆきのへと視線を移動させていた。
「最後までちゃんと話を聞いて欲しいな。嬉しいって思う気持ちはわかるけど、大事なのはそこじゃないからね」
「その言い方だと、最後まで聞きたくないかも。絶対に悪い話になるでしょ」
「まあ、そうなるかもね。でも、これは大事なことだからちゃんと聞いて欲しい」
それからもしばらくの間、聞いて欲しいというゆきのと絶対に聞きたくないという少女の応酬は続いていた。どちらも引かずにいたのだが、まー君がパウンドの衝撃で浮いたタイミングで腹筋を使ってかいりをさらに浮かせ、その時に出来た空間を上手に使って脚を引き抜くとそのままかいりの首と腕を足でロックし、綺麗な三角締めを完成させた。
抵抗をすることもなく、かいりはそのまま意識を失ってしまい、彼女の敗北が確定してしまったのだ。
「あ、かいりちゃん負けちゃった。ゆきのちゃんの言う通りで勝てはしないと思ったけど、負けるとも思わなかったな」
「負けるとも思わなかったって、引き分けになるとでも思ってたの?」
「わかんない。私の予想では、変なタイミングで零楼館乳首郎が割り込んで来て試合中止にでもしてマウントポジションからやり直しちゃうんじゃないかなって思ってたよ」
「そんなの無法すぎるでしょ。まー君が認めないと思うけど」
「でも、それくらいしないと勝てないと思うし」
「あたしもそう思うけど、それでも結果は変わらないでしょ」
「そうかもしれないね。で、ゆきのちゃんはどうして勝てるのに勝てないって言うの?」
「だって、あたしじゃまー君の上に乗って抑え込むなんて出来っこないもん。多分、現状であたしがまー君に勝つための条件の一つがかいりちゃんみたいにマウントポジションをとる事なんだけど、それって前提として不可能なんだよ。あたしにはまー君をあそこまで追い込むことなんて出来っこないし、まー君もあたしの力を見たらかいりちゃんみたいな事はしないでしょうね」
「だけど、まー君は女の子を殴ったり蹴ったりしないって言ってるんだから、ゆきのちゃんがまー君に抱き着いて押し倒しちゃえば可能なんじゃない?」
「言い方に悪意を感じるんだけど。そんな言い方良くないよ。あたしはそこまでメンタル強くないし、相手の力をビンビンに感じちゃうタイプだからまー君の前に立ったらすぐに負けを認めちゃうかもしれないよ」
天空の民の中でも戦闘に特化している数少ない者の中でも最強の戦士はエースと呼ばれている。
今までエースは自分の力量を見誤って強者に挑む事もあった。
その結果として、歴代のエースが敗れ去り散っていったのだ。
誰一人として、天寿を全うしたものはいない。
「そんな言い方してるけどさ、ゆきのちゃんって逃げたこと一度もないでしょ。過去のエースには逃げてるところを討たれた人だっていたのに、ゆきのちゃんって誰にも負けずにずっと戦ってきたじゃない」
「そうだけど、今まではみんなあたしより弱かったってだけの話だから。まー君には絶対に勝てないってわかるもん。いっそのこと、昼間じゃなくて夜に勝負挑んじゃおうかな」
「え、それはちょっと嫌かも。親友がメスを全開にしてる姿見たくないんですけど」




