第三話 魅力的な女性
街中の人が集まっているのではないかと思ってしまうくらいの人の波が押し寄せる会場。入りきれない人は会場外に設置されている大型ビジョンの前に移動するのだが、映し出されるゆまが動くたびに歓声を上げていて、今朝のショッキングなニュースなど誰も思い出していないように見えた。
もちろん、その様子を控室で見ているまー君も観衆と同じような反応をしていたのだが、そんなまー君を見ているうまなちゃんとイザーちゃんも一緒になって盛り上がっていたので一体感は生まれていた。
「ねえ、これからまー君が戦うゆまちゃんってどっかで見たことあるような気がするんだけど、イザーちゃんは見覚えあるかな?」
「私もどこかで見たことがあるような気がするんだよね。どこかの講習会に行ったときに見かけたと思うんだけど、戦闘できるサキュバスなんているはずもないから不思議だよね」
「私たちも一応戦うことは出来るんだけど、さすがにまー君と戦おうなんて思わないよね。ましてや、まー君に勝てると思う程のうぬぼれ屋はサキュバスの中にいないんじゃないかな」
「となると、ゆまちゃんはサキュバスじゃないってことになるよね。でも、あんなにたくさんの人をモニター越しに魅了しちゃうなんて、サキュバスの中でも相当熟練度の高い部類に入ると思うな」
「でもさ、普通のサキュバスと違って、男女問わず魅了しているし、私たちサキュバスもゆまちゃんの事が気になってるっておかしいよね。私たちサキュバスは同族の魅了に耐性があるんだから気になることなんて無いと思うんだけど」
「ってことは、ゆまちゃんはサキュバスじゃないってことになるのかな?」
「だけど、あれだけの人を魅了して皆に可愛いって言われているのはサキュバスしかいないと思うんだよね」
「じゃあ、ゆまちゃんはサキュバスってことになっちゃうよ」
「そうなるかもしれないけど、サキュバス娼館に問い合わせても組合にゆまちゃんは登録されていないって回答がきてたんだ。だから、ゆまちゃんはプロのサキュバスではないってことになるんだよ」
「それだとしたら、野良のサキュバスって可能性は残るんだね」
「野良のサキュバスだと、戦闘に特化している可能性も無きにしも非ずってところかもね」
うまなちゃんとイザーちゃんのやり取りを半分流しながら聞いていたまー君は少しだけ疑問を感じていた。
ゆまが本当にサキュバスだとしたら、自分が他の人達と同じようにこんなにゆまの事が気になってしまっているという説明がつかない。まー君はいろいろなものに対して耐性を獲得しているので、普通のサキュバス程度の魅了で心を乱されることなどないのだ。うまなちゃんやイザーちゃんクラスのサキュバスだったとしてもかなり油断している状態のまー君でなければ今みたいに魅了することも出来ないというのに、ごく自然体な感じで愛華と言葉を交わしているゆまの事がこんなに気になってしまうというのは何故なのか説明が出来ない。サキュバスであるうまなちゃんとイザーちゃんも魅了されているという事実に対する合理的な説明も出来ないのだ。
「それにさ、私たちに対する態度とゆまちゃんに対する態度が違うように見えるんだよね。なんだか、今のまー君って初めて恋をした少年みたいなキラキラした目をしているんだけど、それってなんかムカついてきたかも」
「それはちょっとわかるかも。私たちには見せたことがないその顔、だんだんムカついてきちゃった。もう、こうなったら、まー君はゆまちゃんに負けて男色家の人達と一生仲良く暮らせばいいんじゃないかな」
「それは良いアイデアだね。私もそれが一番丸く収まるいいアイデアだと思う」
そんなとんでもないことを言い出したうまなちゃんとイザーちゃんであったが、契約を破棄することが出来ない以上まー君と同じ生活を送ることになるという事に気が付いていないようだ。
男色家の人達と一緒に過ごすという事をあれほどまでに拒否していたというのにもかかわらず、今のうまなちゃんとイザーちゃんはそんな事も忘れてしまうくらいにまー君のことを憎たらしいと感じ始めていた。
もちろん、会場に集まっている多くの観衆も、モニターの前で観戦している多くの視聴者もうまなちゃんとイザーちゃんと同じようにまー君に対して敵対心を持ち始めていたのである。
うまなちゃんとイザーちゃんを独占しているという事で世界中から嫌われてしまっているまー君だったが、ゆまちゃんを応援するという気持ちの強さに比例してまー君に対する敵愾心を抱いて熱い気持ちを燃やし続けているのだ。
「ところで、ゆまちゃんは魔法使いとのことですが、まー君に勝てるという自信はあるのでしょうか?」
「今のところ自信は全然ないんですけど、やるからには勝ちたいなって思ってます。そのためにも、みんなにはたくさんたくさんゆまの事を応援してくれたら嬉しいな。会場に集まってくれたみんなはもちろん、テレビの前位にいるみんなもゆまの事をいっぱいいっぱい応援してね。その応援が、ゆまの力になるんだからね」
カメラに対して訴えかけるように上目遣いで問いかけたゆまの姿を見て観衆だけではなく視聴者も気持ちが一つになっていた。
なぜか、それを見ていたまー君もゆまを応援するという異常事態が発生していたのだが、一緒にいたうまなちゃんもイザーちゃんもそのことに関しては特に気にしているというそぶりは見られなかった。




