【第十六話】裏切り者
その一方で『食器や調理道具調達班』としてショッピングモールに訪れた友美と昌樹は、食用雑貨売り場でケーキ造りに使えそうな道具を探していた。
「ねえー見てみて、このいちご十六等分分け機。絶対いらないよねーー。」
「あのなー。俺はこんなところに来るのは面倒くさいんだわ。早く帰りたいんだわ。ふざけてんじゃねえよ。」
「いいじゃんまさっち、仲良くしようよー。」
友美は馴れ馴れしく指で昌樹の頬を突くと、昌樹はその手を薙ぎ払い答えた。
「気安くあだ名を付けて呼んで来んなよ。」
昌樹は爪をチンチラのようにガジガジと噛みながら、怒りを何とか抑えていた。
数分後、友美の妨害がありながらも用具が集まると、昌樹は友美を置いて行くつもりで無言でその場を後にしようとした。すると、友美は焦った様子で昌樹の背中を追いかけた。
「ねえー、終わったら終わったって言ってよー。」
その言葉に対し、昌樹はただ一回の舌打ちだけを返した。そんな都合で昌樹は無口で前へ前へと早歩きで進んでいると、それを後ろから小走りで追いかける友美が何かを思い出したかのように話を切り出した。
「ねえ、新しくファミリーに入った西崎夫楼々(にしざきおろろ)のこと、まさっちはどう思っているの?」
「あいつは絶対に許さない。『手作りケーキ』を当てたクセに、非契約者であることをいいことにまともに仕事をしないからな。」
昌樹は歩く速度を変えなかったが、発言の仕方を徐々に強くさせながら答えた。すると友美は首を素早く横に振りながら否定して言った。
「そういうことじゃなくて、『裏切り者』だって思わないかってこと?」
その言葉は昌樹の足を徐々に減速させ、最終的には動きを止めさせた。それに対し、友美も小走りをやめ、昌樹の背中に言葉を続けた。
「だってー、パパから聞いたんだけどー、あの人トラック事故にあった後に何事もなく、廃病院で目を覚ましたんでしょ。しかも、三ヶ月以上も空白の期間を作って、どっかの転生ものの小説かって話。」
「何が言いたい?」
ついに昌樹は友美の方へと振り向くと、睨みつけながら問いかけた。友美は一つ口角を上げながら答えた。
「まさっちにしては理解力がないね。私が言いたいのは、そんな話いくらでも嘘つけるじゃんってこと。しかも、あの人が言っていた廃病院なんて存在しなかったんでしょ。」
「俺は別にどうでも・・・」
その時、昌樹と友美は十メートル程離れたところにある石柱から何者かの視線を感知した。
「いるね?」
友美は嬉しそうに微笑みながら昌樹に聞くと、昌樹はため息をつきながらそっぽを向いた。すると、石柱から青いシャツと短パンそして短髪といった誰もが想像するような少年の姿をした鏡の住民が顔を出した。と、思った刹那、昌樹と友美が瞬きする間に直ぐ側へと瞬間移動をした。
「ねえ、お姉さんとお兄さん契約者でしょ?僕と一緒に遊んでよ。」
少年の姿をした鏡の住民はニコニコとしながら声変わり前のキンキンとした声で話しかけた。だが、その瞬間移動には昌樹と友美は一切の動揺を見せず、それどころか友美にいたっては、また嬉しそうに微笑みながら、その鏡の住民に目線を合わせて会話を始めた。
「ねえ坊や、君は何人の人間と契約者を吸収しているのかな?」
その狂気を感じる問いかけ方に鏡の住民の方が動揺したが、心良く鏡の住民はその問いに答えた。
「僕の名前はハーム。人間を八百二十六人と契約者は一人吸収しているよ。」
その答えに対し、友美は呆れた様子でため息をついた。さらに、ハームを侮辱するように
「なーんか、少ないね。ガッカリだよ・・」
と、返した。すると、ハームは大きな風船が激しく割れたように怒り、我慢するように自分の人指し指を猛獣のように噛みちぎり、その切れた指を瞬時に再生させた。そして、昌樹と友美から一飛びで七メートル程の一定の距離間をとると、
「見せてあげるよ。僕の力を、震えるような能力を」
と、地団駄を踏みながら怒鳴った。ハームは突然、昌樹と友美に背中を向けると、さっきまでの短髪からは想像がつかない程、見る見る内に髪の毛をが触手のように伸びていき、やがて、その形は巨大かつ凶暴そうな獅子口の形へと変化した。
「行け」
まるで、別人のような冷酷な声でハームが合図をすると、その巨大かつ凶暴そうな獅子口の形をした髪を生きているかのように昌樹と友美へと放った。
「契約・・」
そう友美が冷静に言いながらお面を付けたと同時に、ハームの髪は二人の姿が見えなくなる程の砂埃を周囲一体に巻き起こしながら攻撃をした。
数分間その猛攻は行われた。しばらくすると、昌樹と友美の姿は砂埃に隠れて見えなくなった。ハームは攻撃をやめ、煽り口調で二人のいた砂埃へと声を張り上げた。
「ざまあみろ。バーカ。噛み砕かれて灰にでもなった、か・・・」
「もおー、まさっちは素直じゃないなー。砂埃で汚れちゃうところを陰の住民さんたちが守ってくれたんだから。ねっ、ハーム君もそう思うでしょ?」
「俺は頼んでない」
砂埃が晴れた二人のもとには背丈が二人の半分ぐらいの黒色の小人七体程が手のひらサイズのちっぽけな盾でハームの猛攻を無傷で防いでいた。二人の上の空の態度に、ハームの開いた口は塞がらなかった。
「あれ?どうしてハーム君、そんな冷や汗かいているの?あっ、わかった。攻撃が通らなかったことでしょ。」
思い出したかのようにハッとして言う態度は、ハームに恐怖の種を植え付けた。
「いや、さっきまでのは砂埃で狙いが外れただけだ。そうだ、そのはずだ。」
ハームは一人、心の中で厳しい言い訳をつけ、一時的に勇気を取り戻すと、今度は髪を巨大な鷹の羽の形へと変化させ、大きく周囲の空気を揺るがし、それぞれの階層の断面図に囲まれた筒抜けた場所の天井付近まで瞬きする間に飛び上がった。
「空中戦なら確実に狙える」
そうハームが高らかに笑いながら羽の形をした髪を羽ばたかせていると、友美は不敵な笑みを浮かべながら言葉を返した。
「狩人が鷹のたかが一匹を撃ち漏らすと思う?鷹だけに。うふふ。」
その言葉と同時に陰の住民たちは今度は一斉にハームに弓を引いて構えていた。そして、友美のウィンクサインを合図に矢の逆さ雨が放たれた。結果はハームの内蔵、両羽、片腕、両足、脳天といった急所だと思われる部位を百発百中で射抜いた。その攻撃はハームにとって、致命傷となり、白目をむけながら、頭から氷柱の水滴のように儚く落下した。
こうしてハームとの戦いに終止符を打ったかと思われた次の瞬間、ハームは友美の頭上三メートル程の高さで突然、意識を取り戻した。その途端、ハームは残り僅かな力を惜しみなく使い、毛量を一気に増やし、髪の形をタコの足のような太く、柔軟性がある形へと変化させ、我武者羅にそれらを友美たちの頭上から振り回した。
「負けん気が強いね。キュンとしちゃった。」
だが友美は以前、余裕を見せながら、首を斜めに傾けながらハームに対し、うっとりとした柔らかな表情を見せた。と、思った瞬間、陰の住民が追加で十体程友美と昌樹の周辺へ増え、背中の鞘にしまっていたすすがついたような真っ黒な剣を抜き取り、身長よりも五倍程の高さまで一斉に飛び上がると、無数に伸びたタコ足のような髪を十六といる陰の住民は根こそぎ削ぎ落とした。そして、最後の一体は安安と、ハームの首を切り落としたのだった。完全に手札を失ったハームの精神と胴体だけが塵になって消え、もう命の無い頭は友美の腕で優しくキャッチされた。友美はハームの頭を褒める母親のように優しくゆっくりとなでながら、呆れた様子でその様子を見る昌樹に提案をした。
「この子を恵梨香ちゃんの誕生日プレゼントにしようよー。」
すると、昌樹は舌打ちをした後に細目で荒々しく声を張り上げて答えた。
「却下。生首マニアのイカれた感性を他人に押しつけんな。」
「ふん、パパに聞くからいいもん。」
友美は頬を膨らませ、そっぽを向いて昌樹を置いて歩き出した。
「契約」
『グサ』
昌樹はお面を自分に付け、契約をした瞬間、自分の髪を一本抜き取り、背後からハームの後頭部に自身の髪を刺した。途端にハームの頭は腐り、後頭部からは青色の小さな花が咲いた。
「えっ、えーー。」
ハームの腐れ果てた頭に困惑する友美を昌樹はビニール袋に入った荷物を持ち直し、涼しげに追い抜くと、振り返らないまま、思い出したかのように少し前の質問に答えた。
「もし、西崎夫楼々が裏切るようなことがあったとしても、俺は負けない。」
続




