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ミラー∞スペクルム  作者: 画竜転生
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【第十七話】汚れてしまった世界への価値観

シルクはスッと椅子から立ち上がり、鏡の住民ならではの怪力でエグゼクティブデスクを片手で横に投げ払うと、口調を少し強くして言った。


「君たちが質問に答えてくれるなら、全力でかかってきなよ。『この世の神に曰く、平和とはこの世の幸せとは直結しない別物、この世の秩序を保たせるものなり』」


善輝は海人に面と向かって、強く頼んだ。


「一緒に戦ってくれないか?友樹の言う通り、一人で敵う相手じゃない。」


しかし、海人の態度は以前と変わることは無かった。ただ、何処か一点を見つめながら、無口で無心なだけだった。


「ああ、もういいよ。僕一人でできるところまでやってやる。」


善輝は両手で髪を強く掻きながら、叫ぶように自己完結させた。そして、冷静に作戦を考えた。


「友樹が言うには、一人で行っても無意味って訳か。それなら、数で攻めるか。」


善輝は右手に刀をまた握ると、その刀を強く自分の腹に刺し、囁くように言った。


「みんな、力を貸してくれ。来い『白虎』。」


呼びかけた瞬間、赤黒い善輝の血液は雪景色のような白銀色へと変化した。途端、善輝の左右から善輝を挟むように、二頭の白銀の鬣と寒気を感じる程の鋭く赤い目を持つ、人間の背丈程ある白い虎のような獣が現れた。


「二頭呼び出すとなると、体にかなり負荷がかかるな・・」


善輝は血反吐を裾で拭くと、刀を再度握り直し、シルクに二頭の白虎と共に走った。


「おお、二頭の獣と・・数で攻めるんだね。」


シルクは向かい来る善輝たちに能力を連続で使った。近づいてくれば、始めの定位置に戻す。近づいてくれば、始めの定位置に戻す。しばらく、そんな戦況が繰り返された。


ー友樹と凪目線ー


一方その頃、友樹と凪は、戦況を心配しながらも、二人を信じて、スポンジとクリーム探しに専念していた。そして結果的に、梱包前のカビ付きのスポンジが三つと箱が傷ついた失敗作のクリームの素を見つけることができた。それらを持ってきていたリュックサックの中に二人で入れる作業をしていると、凪の動きが突然プツリと止まった。


「海人、上手くやれているのかな?」


凪はため息をし、眉をひそめながら友樹に対し聞いた。それに対し、友樹は微笑むように答えた。


「何言ってんのよ。兄のあなたが信じてあげないでどうするのよ。」


「でも、海人が協力しない限り勝てないんでしょ・・」


すると、友樹の動きが一時的に止まった。そして、暗い顔をする凪の両肩を掴むと、


「以前、私には一人の息子がいるって言ったでしょ。夫が早い内に病で死んで、それからは女手一つで育ててきた、私のたった一つの大事な宝物。ミラーエンドの日の朝、あの子、いや、暖音はるとを高校に送り出してからそれっきり、連絡が取れなくなった。でも、私は信じてる。あの子はきっとまだ生きていると、だからあなたも、結果がわからないものに自信を無くさないで。」


この時の友樹の手はとても温かかった。


ー善輝目線ー


「走り続けるぞ。シルクに近づくまで。」


善輝は雄叫びを上げながら二頭の白虎と止まること無く走り続けた。全身を汗で洗いながら、体力の限界が近くても尚、叫び続ける善輝の強靭な精神。すると、シルクは自身の能力の発動を一時的に遅らせ、深くため息をつきながら心配して言った。


「このままだと体力切れで動けなくなるぞ。君は努力家なのかバカなのか?・・」


話の途中、善輝より一足先にシルクの元へとたどり着いた二頭の白虎は怯むこと無く、シルクへと飛びかかった。だが、


「だから、体力の消耗が大きい二頭の獣は消してあげるよ。」


と、言った瞬間、二頭の白虎は善輝の真後ろへと移動させられた。さらに、シルクに牙を剥いた勢いで、お互いの口元から顔面を喰らい合ってしまい、相打ちで塵になって消滅してしまった。


「あーあ、これでまた振り出しに戻っちゃったね。あっ、でも君の体力は限界寸前まで減っちゃったからちょっと違うかな。」


シルクは悠々と滑稽だねと、言わんばかりの態度で善輝を嘲笑った。そして、流れるように続けて、海人に指を指しながら提案をした。


「あそこで何考えているのか分からないまま、ただぼーっと見ているだけの、海人って人間と協力すればいいのに・・」


「海人は・・あのままでいいんだよ。」


善輝は目を大きく見開きながら怒鳴るように反論すると、それから、顔に血管を浮き出させながら続けて言った。


「お前には分からないだろうな。雪月海人せつきかいとがどういう人間なのか。確かにあいつは何を考えているのか分からない。だけど、自分の意志には誰よりも真っ直ぐなんだよ。兄貴と一緒に居たい、そんな意志があるなら、あいつはどんな犠牲も顧みず、どんなことでもできてしまう。他の人間なら変えるべき性格だと言われるかも知れない。でも僕は、それこそが、あいつが持つ、誰にも無いアイデンティだと思う。『だからこそ、こんな戦いにあいつを巻き込ませない』。」


善輝の最後の言葉に、海人は何かを思い出したかのようにハッとした。そして、善輝は残りの力を絞り出し、今度はシルクの頭上から飛び込むように刀を振った。それに対しシルクは、呆れを通り越し、遂に堪忍袋の緒が切れ、怒り口調で怒鳴りつけるように言った。


「体力の無駄なんだよ。いい加減に自分を大切にしろ。」


そう言い切ると、宙に浮いている善輝をそのままの姿勢で海人の隣へと移動させた。


シルクは、


「これで君はもう動けない。」


と、安心し、善輝は、


「どうして、どうして、上手く行かないんだよー。」


と、ただただ目の前の虚しさと不甲斐なさに叫んだ。その時だった。海人は突然、自身の能力で生み出した特殊なエネルギーの塊を床へと力強く叩きつけた。すると、エネルギーの塊は力強く社長室の床を突き破り、U字型を作りながら、善輝の足元の床を突き破り、帰ってきた。そうすることにより、善輝の下半身は花火のように弾けて粉砕してしまったが、その勢いは、弾丸を瞬きする間に放つ拳銃のように善輝のことをシルクの元へと高速で放った。


「ありがとう海人。お前の思いしかと受け取った。」


善輝はその勢いに身を任せ、刀を両手でしっかりと握りしめた。シルクは予想だにもしなかったことに判断が遅れ、上手く善輝を移動させることができなかった。


「くっ、判断が遅れた。上手く移動させられない。」


焦り、冷や汗をかくシルクに対し、善輝はシルクの右腹に刃を向けた。


「終わりだ。僕は守るべきものがあるからこそ生きる。守るべきものがあるからこそお前たちと戦うんだ。」


善輝はそう叫びながら、刀を思いっ切り振った。だがその時、シルクを切ったはずの刀が空振りをした。そのまま、下半身の無い善輝は床に叩きつけられるように転がり倒れ、しばらく動けなくなった。そしてシルクは、海人の後ろ、社長室のドアの前へと移動していた。


「もしかして、僕自身の場所は移動できないとか、安易な考えでも持ってた?」


まるで、さっきまでの焦りは演技だったかのように口角を上げ、覗き込むように言った。それから追加するように続けた。


「君の答えが聞けて本当に良かったよ。だいぶ僕自身も無茶しちゃったけどね。」


一方で善輝は、下半身を半分程回復させ、倒れていた体を起こし、シルクのことを細目で睨みつけていた。安否を確認したシルクはドアノブを握りながら善輝に対し、最後の質問をした。


「君に最後に聞きたいことがある。君の名前は何だい?」


その質問に、善輝は床を這い、シルクとの距離をちょっとずつ、ちょっとずつ詰めながら叫ぶように答えた。


青山善輝あおやまぜんき。いつかお前を倒す存在だ。」


その答えに対し、にっこりと微笑むような笑顔を向けながら、


「青山善輝。君の名前、覚えたよ。君とはまた何処かで再会できる気がするよ。」


そう言い残すと、後ろ向きに手を振りながら、能力で何処かへ風のように颯爽と消えた。


ー十分後ー


善輝の傷は完全に完治し、海人と友樹と再会を果たすことができた。


「大丈夫だったの?」


シワを寄せながら心配をする友樹に善輝はピースサインを向けながら、


「心配には及ばないよ。」


と、引きつった笑顔を向けながら伝え、シルクのことを逃したという話はしなかった。その一方、やっとの再会を果たせたことに海人は涙を流しながら、凪の胸の中へと飛び込んでいた。しばらく、善輝と友樹はその嬉しそうな二人の様子を微笑みながら見ていた。


「そういえば、スポンジとクリームは見つかったの?」


「ええ、梱包前のカビ付きのスポンジが三つと箱が傷ついちゃってある失敗作のクリームの素がね。」


「ま、『汚れてしまった世界』ではどちらも上等品だ。見つけてくれてありがとう。」


そう善輝はしっかりと頭を下げてお礼を言うと、四人は昼下りの空の下、ファミリーの待つ家へと帰るのだった。


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