【第十一話】オールドメイド
その後、夫楼々を含めた九人は合流を果たすと、お互いの生存を喜びあった。そして、まだ傷が完治していない善輝の肩を愁人と英司が抱えてあげながら残りのファミリーの待つ高校へと帰っていったのであった。
次の日の蒼穹顔の早朝、
「ほら、みんな起きて。朝ごはん冷めちゃうよ。」
一人一倍早く起きた友樹と善輝は朝食の支度を済ませると、鍋とお玉を持って寝室へと入っていった。鳴り響く金属音は夢の世界にいた夫楼々たちを現実へと引き戻した。
顔を洗い、布団をたたみ、ギラギラと輝く太陽の後光に照らされる。当たり前のことが当たり前にできるという幸せな日々。ファミリーたちはそれを大事に大事に噛みしめるのであった。
そして朝食中。カビの生えたパンを少しずつちぎりながら口に運ぶ善輝は夫楼々と会話をしていた。
「そういえば、昨日の夫楼々は夜の十一時までどこで何してたの?」
「あ、それなんですけど、立体駐車場近くのビルの中で監禁されてたんですけど、やたらと至れり尽くせりしてくれたり、温かいご飯を食べさせてくれたり、暇つぶし用に漫画とか小説とかまで用意してくれたんですよね。どういうこと何ですか?」
「あーまあそりゃ『この世の神』に誓ってたもんな。もしも、安楽死とかショック死なんてされたらたまったもんじゃないからね。」
「その『この世の神』って何者なんですか?」
「んー、何者っていうか。存在が証明されているわけじゃないんだけど、この世界を作った生みの親って信じられている存在なんだよね。昔から鏡の住民たちはそれを信じて崇拝していて、『この世の神に誓って』って言葉は絶対に裏切れない禁忌の言葉なんだ。もしも、裏切った場合は呪いによって死んでしまうとも言われている。だから、夫楼々を絶対に死なせないように気前良くもてなしていたんだと思うよ。」
「そんなことのために僕を・・うっ・」
その時、善輝はシワを寄せながら夫楼々を口封じさせるかの如く、手に持っていた残りのパンを夫楼々の口へと押し入れた。
「あまり言葉は謹んだ方がいいよ。この世の神の呪いは決して偽りでは無い。僕らが使う契約の契約違反の呪い。それもまたこの世の神の呪いと言われているからね。」
善輝はギリギリと音を立てさせながら椅子を引き、立ち上がろうとした時、夫楼々は咄嗟に駆け込んで質問をした。
「あっそういえば、もう一つ聞きたいことがあるんですが、どうしてケイは善輝さんたちと戦おうとしたんですか?自分を危険に晒すようなことを何でしたんですか?」
「善輝さん・・・まあいいや、ケイはもっと力が欲しかったんだと思う。そのためには今生きている少ない人間から効率よく力を吸収する必要があった。前に契約者は五十人以上人間を吸収した鏡の住民と同じかそれ以上の能力が手に入るって説明したと思うけど、それは鏡の住民からしてみたら、一人で五十人以上吸収した時と同じ力が手に入る、言わばご馳走になるんだよ。だから、僕らと戦おうとしたってわけ。」
「そうだったんですね」
「少し余談だけど、鏡の住民が自分の強さを言う時は人間と契約者で吸収した人数を分けるんだよね。」
善輝は今度こそ話が終わると、口笛を吹きながら去っていった。
しばらくすると、早朝までの蒼穹に濁りが付き始め、やがてそれは鮮やかな雫となり落ちてきた。散歩にも行けず、気分もあまり乗らない、やるせない気持ちになっていた夫楼々たちの空気は硬いものだった。そんな時、善輝が突然閉ざされていた教室の扉を爆発音を奏でるように力強く開けた。そして、反対の手に持っていたトランプの束を突きつけると、
「みんな。ババ抜き大会をやろー」
と、明らかに温度差の違うテンションで張り切った様子で言った。だが、善輝の求めていたであろう返事を返したのは、まだ小学三年生でファミリーで一番最年少の恵里香だけだった。しかし、善輝のテンションは、落ちることを知らなかった。他のファミリーの憂鬱を悟った善輝は、今度は何かが大量に詰まったガムテープで包装されたダンボールを出してきた。
「なら、優勝者にはこのダンボールに入っているお菓子や非常食を一人じめできる権利をあげまーす。」
その言葉は英司と友樹を除いた、他のファミリー全員の目の色を変えさせるトリガーへとなった。そんな中、友樹は困惑するような破裂寸前の風船を膨らませるような声で
「今、食糧がそんなに余っているわけじゃないんですよ。それなのに何で?」
と両手を震わせながら問いかけると、善輝は上の空になりながら、
「まあ、いいっしょ。友樹も参加する?」
「ええ、もちろんね。」
と、友樹は目の下をピクピクとしながら強く答えた。
そして、十七人が集まり、善輝がトランプを均等に配っていると愁人が顎に手を当てながら聞いた。
「そういえばこれ十七人でやったら一人手札がたったの三枚になりませんか?」
それに続いて雫もゆるく疑問を述べた。
「それもそうだけどーこれ優勝どうやって決めるのー?一番初めに上がった人じゃあ何か順番によって不公平になりそー」
その雫の発言に一同が満場一致で頷くと、凪が鋭く手を上げた。
「じゃあババ抜かない大会ってのはどうですか?」
その時そう発言した凪に全員の目線が揃った。すると、英司は高らかに笑いながら
「いいんじゃないかな。もともとババ抜きは婚約相手を見つけることが出来なくて、婚期を逃した悲しい女性の話が元になっているオールドメイドってゲームだから、それを逆に狙って争うっていうのがすごく面白い。あと、三枚でもこの人数なら全然楽しめると思うよ。」
と、絶賛しながら賛成した。その後、話し合いの結果ババ抜かない大会ということでゲームが開始された。
順番は善輝から時計回りにし、夫楼々、愁人、英司と回っていき、恵里香、霞で終わるようにした。しばらく一悶着がありながらも続々と上がっていくものが現れたが、それは始まり方と打って変わり、脇役V、脇役N、脇役T、脇役S、凪、英司・・という順番になり、何ら感やあって最終的に残ったのは善輝と夫楼々といった初めの方から行っていた二人が残っているという前代未聞の状況が完成した。
夫楼々はジョーカーとダイヤの四の二枚のカードを持っていて、今度はそれを善輝が引く番だった。
「ここでジョーカーを取られたら負けだ。」
そう夫楼々が自分に助言をすると、夫楼々は冷や汗を自分の頬に滴らせた。善輝はシワを寄せながら右往左往させる手で夫楼々のボロが出るタイミングを今か今かと待ち望んでいた。固唾をのんで見守るファミリーたち。しばらくし、善輝がついに強く一枚のカードを握った時、周りにいたファミリーたちは不敵な笑みを浮かべながらおちょくるように
「さわさわ、さわさわ」
とおちょくるように言った。その途端、善輝の手は一度緩んだ。が、ファミリーのおちょくりにしびれを切らしながらも再度同じカードを掴み直し、それを高く上げて自分の目の前へと運んだ。結果は、
「あー、だめだったかー」
そう勝利を称えるように言うと、善輝は満足気に二枚の四のカードを床に落とした。
優勝賞品としてガムテープで固く閉じられたダンボールが夫楼々の元へと渡された。夫楼々は満面の笑みでそれを受け取ると、他が指をくわえて見ている中、ゆっくりとダンボール箱を開封した。そしてその中身は、
「え、」
ほぼ全員が同時に困惑を見せた。ダンボールの中にはたった一つのポテトチップスと、重りのために入れられた英和辞典。さらに、その英和辞典には善輝の手書きの字で『騙してごめん』と書かれた付箋が質素に貼られてあった。その様子を見た英司はまるで分かっていたかのように手のひらを上に上げながら
「やれやれ」
と言うように首を横に振っていた。昌樹は髪をくしゃくしゃに混ぜると、下唇を噛みながら、見開いた憎悪の眼をゆっくりと善輝の方へと向けると、善輝はそれに合わせて毛嫌いなご飯にそっぽを向く犬のように目を反らした。
「何が全部くれてやるだよ・・・」
「あ、あ、すいません・・でした・・」
善輝が今頃になりしおらしく謝ると、他全員は意気投合しながら
「絶対に許さない・・」
と、怒りをあらわにした振動するような罵声で答えた。
三時間後、英司と夫楼々は壁に寄りかかりながら降り注ぐ水玉を見ていた。
「あの、単刀直入何ですが、英司さんって未来が見えるんですか?」
「何でそんなこと聞くんだい?」
「だってさっき、トランプの優勝賞品を善輝さんが見せた時、開封する前から既に中身を知っているかのように見えたからです。それって契約による能力なんですか?」
すると、英司は手を大きく振って、叩きながら高らかに笑った。
「あはは、面白いこと言うね。そっか、何も知らないとこれを能力だと思うのか。」
夫楼々は急に小バカにされるように言われ、頭に血を上らせた。それに気づくと、英司は謝りながら説明してくれた。
「前にも説明したことはあると思うけど私は占いが得意なんだ。この私の予知能力は占いを応用したもの。まあとは言え、明確に全てが見えている訳では無くて、ほんの少し先の未来の結果が見えるんだよね。だから実際、その出来事を体験しない限りは全てを理解することができないって訳。」
「す、すごいですね」
夫楼々が目を丸くして素直に言うと、英司は少しだけ天狗になりながらもまた説明を再開した。
「ちなみに私の持つ能力は『強欲の力』。立体駐車場からじゃ、見づらかったと思うから今見せてあげるよ。あそこの窓から見える体育館の屋根に雨に濡れてびしょ濡れのバレーボールがあるでしょ。あれを今から取ってあげる。」
そう言うと、英司は三本の指を前に出し、ピントを合わせるような素振りを見せると、
「捕まえた」
と言い、今度は目の前の空気を捕まえるような素振りを見せた。それと同時に夫楼々の目線にあったはずのバレーボールの姿が消えた。すると英司は何も入っていないはずの握りしめた手を夫楼々に見せた。
「何の変哲もないこの手から・・」
そして、その手を開いた瞬間、種も仕掛けもなかった英司の手のひらの上にびしょ濡れのバレーボールが現れた。
「す、すごいですね。マジシャンにでもなれたんじゃないですか?」
夫楼々は反射的にまた褒め称えると、英司は突然うつむきながら答えた。
「もしも、世界がこんなんじゃなかったらなれていたかもね・・」
夫楼々は自分の下唇を噛みながら自分の言ってしまったことを後悔した。すると、英司は気を利かせて、なんとか笑顔を取り戻すと、夫楼々に予言を教えた。
「じゃあ君に一つ予言を告げよう。今日の深夜、君はとある理由で起こされて、みんなと会議することになる。その際に君は昌樹くんに怒られるだろう・・」
「え、それってどういうことですか?」
夫楼々は思わぬ予言に英司に対し、反射的に聞き返すと、英司は人差し指を頬に当てながら、
「それは実際に体験してからのお楽しみだよ。」
と、悠長に答えた。その時、窓の外から日の光が雨雲を切り裂いて帰ってきた。まるでファミリーの憂鬱を晴らすように。
続




