【第十二話】幻のケーキを作るために
ーババ抜かない大会を行った日の深夜ー
夫楼々は英司の夕方の予言通り、電源の入っていない世界で夢から覚まさせられた。そして、そのまま寝ぼけ眼で連れて行かれた場所は寝室からできるだけ離れた教室だった。そこには機嫌悪そうに集うファミリーたちの姿と教卓のところで腕を組みながら一人を除いた全員が集うのを待つ善輝の姿があった。しばらくして一人を除いたファミリー全員が集ったのを確認すると、満を持し、善輝はシワを寄せながら口を開いた。
「みんな、三日後の来たる五月二十三日、何があるか分かるか?はい、霞、答えなさい。」
すると霞は呆れた様子で
「恵里香ちゃんの誕生日ですよね」
と答えた。夫楼々はその言葉と同時に再度周囲を見渡すと、恵里香だけがいないということに気づいた。すると、善輝は霞の答えに対し、明らかに他のファミリーとの温度差が違うテンション状態で今度は飛び跳ねながら
「そのとおり。だから今回はそのサプライズパーティーをしたいと思いまーす。」
と声を張り上げて発表した。だが、他のファミリーはため息をついたり、手のひらを上に向けて首を振ったりして、乗り気な者は居ない様子だった。夫楼々はみんなの態度が気になり、近くにいた愁人にコショコショと質問をした。
「何であそこまで善輝さんのテンションと皆さんのテンションは噛み合わないんですか?」
すると、愁人は一つため息をついてから教えてくれた。
「これに関しては父さんのテンションがあまりにも高すぎてついていけないって問題ですかね。誰かの誕生日が近くなると、まるで自分のことのように喜び出して、いつもあーやってサプライズパーティーを開こうとするんです。まあ先に言っておきますと、やることやることが毎回ハードなので、皆さん乗り気じゃないんですよね。」
すると、善輝は突然、教卓の下を無作為に漁り出すと、のちにクエスチョンマークの書かれた質素なダンボールの箱と四本の紙のがついた割り箸を取り出した。
「今回はこれでサプライズ内容を決めよー」
と、相変わらずのテンションで言うと、続けて説明を始めた。
「このくじの中にはサプライズの内容が入ってまーす。内容は『花火大会』、『手作りケーキ』、『特大プレゼント』、『旅行』。この中から引いたものを絶対にやらなくちゃダメというシンプルなルールでーす。」
「え、これ結構難しくないですか?」
夫楼々は善輝の発言に耳を疑い、また愁人に小声で問いかけた。すると、愁人は肩を落としながら答えた。
「そう、これが一番みんなが乗り気じゃない理由なんです。『汚れてしまったこの世界』では全部難しいんです。しかもそれを絶対って・・」
その時、善輝は突然、夫楼々に指を指しながら指名した。
「じゃあ今回は初めての夫楼々にくじを引いてもらおうかな」
「えっ、僕ですか?」
夫楼々は困惑しながら自分の指でも自分を指して言った。そして、誘われるままに教卓に置かれた棒の先が隠されたボックスの前へと向かうと、他のファミリーの張り詰めた眼を悟り、夫楼々の肌に鳥肌が立った。手前の物を引くかそれとも奥の物を引くか。つい最近にも感じた感覚がビジョンのように夫楼々の体に染み渡った。難儀さの果て、夫楼々が引いた物は・・・
「手作り・・ケーキ・・」
武者震いを起こしながらゆっくり顔を上げる夫楼々。そこに広がった景色は想像以上のブーイングの嵐だった。それと同時に奥から見ていた昌樹は、夫楼々の方へと鬼の形相を向けながら小走りで近づいて来た。そして昌樹は、夫楼々の肩を獲物を捕らえる鷹のようにしっかりと掴むと、武者震いを超える揺れで夫楼々を四方八方へと振り回しながら怒鳴りつけた。
「お前何やってんだよ。ただえさえ戦えないクセに、つい最近迷惑をかけてきたクセに、何で一番面倒くさいものを・・恩を仇で返すなーーー」
「これが英司さんの言っていた予言のことか・・」
夫楼々は心の中でトホホと思いながら昌樹の罵声を浴びていた。
数分後、ファミリーの怒りがある程度収束すると、善輝と友樹を中心として材料調達についての打ち合わせが行われた。教卓を教室の中心部に置き、その上にこの街の外側の見取り図を開いた。
「まず、スポンジ調達班とクリーム調達班、食器や調理道具調達班、果物調達班、そして最後に、サプライズ隠蔽班に分担させる必要があるな。」
「それも大事だけど、行く場所も決めないとね。何処か行く場所の目星でも付けているの?」
すると善輝は迷わずに地図の二箇所に持っていたペンで印を付けた。
「『コンセンシオケーキ屋』と『パック果物園』だ。ここはまだ訪れたことの無い未知の領域だが、『コンセンシオケーキ屋』ではスポンジとクリームを、『パック果物園』では様々な果物が手に入れられる可能性がもっとも高いと考えられる場所だ。ちなみに食器や調理道具はつい最近行ったショッピングモールの店の一つで見かけた。だからそれらはそこから調達することができる。」
この時、半数以上のファミリーの疑問が一致した。そして、そのことについて海人が素直に善輝に聞いた。
「食べ物類って腐っていたり、枯れていたりしていないんですか?」
すると、善輝は片手を顎に当てながらゆっくりと答えた。
「その可能性は・・かなり高いね。」
「全然だめじゃないですか」
海人を初めとした半数以上のファミリーはまた呆れた様子を見せると、善輝は凪の顔の前へと自身の顔を近づけ、不適に目を見開いて言った。
「僕は絶対とは一言も言っていないよ。ほんの少しでも可能性があるならそれを信じる、それが人間だろ。」
「あ、すいません・・」
凪は善輝の予想外の奇行に狂気を感じ、しおらしく謝った。すると、凪の隣に居た海人は凪と善輝との近距離での会話に嫉妬を感じ、二人の間に割って入ると、物理的に距離を開けさせた。
その後派閥もあったが、何とか無事に班分けをすることができ、明日から早速、準備に取り掛かることになった。
ーその後善輝視点ー
善輝は十字形のファミリーの墓の前で一人黙祷を捧げながら会話していた。
「もうすぐこのファミリーでは初めての恵里香の誕生日を迎えるよ。」
「ーーーーー」
「えっ、その割にはテンションが低いだって?そうなんだね・・何かここ最近不吉な予兆が近づいているような気がして気分が乗らないんだよね・・」
「ーーーーー」
「うん、ありがとう」
「ーーーーー」
「もし、何かがあった時はまた力を貸して欲しい」
続




