【第十話】ファミリーのために
「こんなこともあろうかと、行きたいと志願してくれた残りのメンバーには立体駐車場から離れた場所からの監視をお願いしといたんだ。」
「用意周到ですね」
善輝は愁人の肩を借りながら飛び立って行く百体程の女王蟻のような質素な翼を生やした鏡の住民たちの背中を見ていた。
ー友樹目線ー
「私が『空虚の力』で鏡の住民の位置を教えるからみんなはそこに向かってほしい」
スマートフォンでグループ通話をしながら友樹は他に監視役に来たファミリーの昌樹、友美、英司に指示を出した。
夜鏡友樹、年は四十一歳の主婦。彼女は『空虚の力』を持っている。いつもは温厚で優しい母親のような性格。ファミリー一の働き者で、料理や裁縫などの家事が得意。『空虚の力』の能力は契約している間、全ての生き物の視覚を共有することができ、かつその視覚を全て理解できるというもの。
「今四十体程の鏡の住民が北東部から街を出ようとしている。その位置だと、昌樹の位置が一番近いね。」
「あー呼び捨てで呼ぶなよ、馴れ馴れしい。あと、雑魚四十体って、何かやる気出ないな・・」
昌樹は自分の髪の毛をいじりながらイヤミを混じえた声で答えた。
大谷昌樹、年は二十歳の大学生。彼は『箱庭の力』を持っている。鼻につくような毒舌な喋りが特徴。鏡の住民の能力や吸収している人間の数を分析することが得意。『箱庭の力』の能力は昌樹の抜いた髪が相手に触れた時、そこからきれいな花が咲き誇ると共に相手から生命力や身体能力、知能などを吸い取ることができ、最後にはその花の持つ毒素によって枯れ果てるように死んでしまうというもの。さらに昌樹の髪は始めは吹き矢のような単純な挙動を見せるが、相手を探知するとそれが誘導弾へと変わり、相手に刺さるまで追跡するようになるという特性もある。
昌樹は四十体の鏡の住民を見つけると、ビルの屋上からその軍勢目掛けて自分の髪をむしり取り、迷うことなく投げた。すると、昌樹の髪が飛んでいた鏡の住民を探知した瞬間、昌樹の髪は黒曜石のような艶を見せながら鏡の住民に対し、雨のように降り注いだ。昌樹の髪が刺さった鏡の住民は次々と落ちていき、最後には十人十色の様々な色の花を咲かせて、毒素によって朽ち果てた。その昌樹にとって滑稽に見える鏡の住民の最後は昌樹に微かな笑みという花を咲かせた。
「昌樹、ありがとうね。じゃあ次は友美ちゃんお願いしていい?」
「やったーやっと私の番ね」
電話先では友美は飛び跳ねながら有頂天になっていた。
「遊びじゃないんだよ」
「分かってる分かってる」
本当の女子高校生とその母親のような会話をした後、友美は通話を切り、縛っていた髪の毛を解いた。そして、ペットを落ち着かせるように
「みんな、待っててね。」
と言うと、小動物の生首がゴロゴロと入ったスクールバックをその場に置いた。目の前にはおびただしい数の鏡の住民が友美に気づき近づいて来ていた。それに対し、友美は口を半月型にして喜びながら言った。
「今日はお客さんがいっぱい。さあ久しぶりに楽しんじゃおうかな。おいで私のお人形さんたち。」
友美は自分の陰から自分の背丈の半分程の大きさしかない全身が黒色の小人のような存在を目の前にいる鏡の住民の体数の倍以上の数をポンポンと出した。その小人たちはそれぞれ弓矢、剣、盾といったまるでおとぎ話のお姫様を守る騎士のような装備品を持っていた。
石田友美、年は十八歳の女子高校生。彼女は『劣等の力』を持っている。生き生きとした天真爛漫な少し変わった女子高校生。普段はスクールバックに入っている生首や自分より小さい人間を無性に可愛がったりするが、真逆に何か気に食わないことがあるとそれらに暴力を振りまくようになる、ある意味ではファミリーのムードメーカーな存在。『劣等の力』の能力は自分の陰から使い魔を無限に出せ、それを使役できるというもの。また、それらは『陰の住民』と呼ばれていて相手の陰に入ることにより、一定時間その存在を操ることもできる。
「さあ、みんな私を守ってー」
そう、鏡の住民の軍勢に指を指して友美が悲劇のヒロインのように言うと、一斉に陰の住民たちは弓を引いたり、剣を構え、鏡の住民の背中に飛び乗ったりした。そして、一方的に鏡の住民の数は減されていき、最終的には昌樹の時と同様、鏡の住民の滑稽な姿が地に散乱した。
一方その頃、善輝たちは。夫楼々の拘束を解き、核となる鏡であったワゴン車を破壊した。
「すごいですね・・」
夫楼々は呆気にとらわれながら三人の一方的な戦況を見ていた。
「まあ、そうだな。昌樹と友美は協調性が少ないけどみんなよくやってくれているよ。」
「そうですね。あ、そういえば凪と海人は大丈夫なんでしょうか?」
「あの二人のことだ。いつもどおり、疲れたって理由で手を繋ぎながら、そこらで寝てるんじゃないの。」
落ち着いた様子で話す二人に対して、夫楼々はよそよそしく聞いた。
「何だか皆さんこの戦いを楽しんでいませんか?」
その質問に対して二人は言葉を詰まらせるような素振りを見せた後、善輝は重そうに口を開けた。
「楽しまないといけないんだよ。死んだファミリーのためにも今いるファミリーのためにも・・ね・・」
夫楼々は急な重たい空気感に唾を飲んだ。すると、善輝は夫楼々を安心させるためにニコッと取って付けたような笑顔を向けてからまた戦況を見るために上を見上げた。そんな時、愁人は何かを悟ったかのように言った。
「そういえば、まだケイは倒せてないみたいですね」
「確かに、まだ気配が残っているね。でも、大丈夫だと思う。まだ彼が残っているから・・」
ーケイ目線ー
ケイは街の街灯のない裏道で能力を使いながら、必死に逃げていた。
「しもべたちはほぼ全滅ですが、あと少しで逃げ切れますね。」
と、独り言を言うと、突然ケイは自分の顔に血管を浮かび上がらせ、
「あの糞ども。いつかもっと多くの人間や契約者を吸収して復讐してやる。」
と、本性をあらわにさせ、口調が変わった。舌打ちをしながら、ポップコーンのように愚痴を吐き出した。
しばらく、逃げていると後少しで街を出れるというところで明かりの多い大通りへと出なければならないということを知った。
「クソ、ここは明かりが多いですね・・ですが、後少しの辛抱。ここで死ぬ訳にはいきませんからね。いつか『あのお方々』と肩を並べるまでは・・・」
ー英司目線ー
「うん、そこ。そこの真っ暗な裏道から現れるよ。」
「友樹さん監視役お疲れ様でした。あとは私一人で何とかできます。」
最後の一人である英司はスマートフォン片手にケイが出て来るという小道から五百メートル近く離れたビルの屋上で黄昏れるような格好つけるような様子で今か今かと待っていた。
「そういえば、友美と昌樹には悪いですかね。私が美味しいところもらちゃって」
「いいのよ。あの子たちはあの子たちなりに楽しんでいたしね。あっそろそろ来るよ。」
英司は友樹の指示があると、意識を集中させて、右手で裏道へと狙いを定めさせた。
「後少し、この明かりを抜けられれば・・・」
ケイが決意を固め、明かりに出て、能力が解除された瞬間、
「捕まえた」
ケイの目の前は暗転した。そして、次に明るくなった時には英司の手の中にいた。
陸島英司、年は二十八歳の占い師。彼は『強欲の力』を持っている。もともと占い師をしていたため、占いが得意で英司の占いはハズレを知らない程のものだった。『強欲の力』は遠近法で小さく見えるものを自分の手で捕まえることができるというもの。もしも、一度でも捕まってしまった場合は英司が手を離す以外の方法で抜け出すことは不可能で、能力や力は英司の手の中にいる間、全て無力化され、反撃することすらも出来なくなってしまうというもの。
「ねえ、君がこの一件の核?」
「なぜ?なぜ私は捕まっているんだ?」
ケイは焦りと驚きにより、冷や汗が止まらなくなってしまっていた。
「質問を質問で返さないでもらえるかな」
その言葉と同時に英司はケイのことを強く握った。すると、ケイの骨や持っていた日本刀がいとも簡単に折れる音が周囲に響き渡ると共にケイの悲鳴も漏れ出した。
「やめろ、やめてくれ、私はまだ死ねないんだ。頼む。」
昔話の雪女のように泣きながらしがみつくように頼むケイの哀れな姿に対し、英司は
「ダメだね。だって、君は父さんを困らせたんだもん。」
と、不気味な笑みを浮かべながら跡形も無く、完全に握りしめ、木っ端微塵にした。
「う、うわーーー・・・・」
ケイの声はだんだん弱まっていき、最終的には何事もなかったかのように消えた。
「任務クリアー」
英司は手払いをすると、一人腕を掲げて、ガッツポーズを決めるのであった。
続




