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八月二三日①

 翌朝、本橋が目を醒ますとカーテンから一筋の光が降り注いでいた。今日もまた太陽に体力を搾り取られる日になる予感がした。テレビや新聞では記録的な猛暑と騒ぎ、気象学者や気象予報士といった肩書きの人物がしきりに地球温暖化の影響等とコメントしていた。原因がなんであれ、今日も働かなければならないという事実は変わらない。本橋は、いつものようにシャワーを浴びた。シャワーを浴びながら、自分の身体と対話した。先日の暴行で骨折した肋骨に時々鈍痛を覚えるが、他はほぼ全快しているようだった。近いうちにヤブ先生のところにビールでも持って礼に行かなければならないなと思いながら、バスタオルを手に取った。


 電車の中で一日の予定を確認した。午前臨検監督。午後申告二件、最近是正勧告をした事業場からの相談二件。携帯を見ながら荻窪駅で電車から降りると、電話がかかってきた。桐生からだった。

「あれから考えたんだけど、やはりしばらく泳がせた方がいいと思う」

「わかった。東原には、陣内範子が偽物だってことを知らないふりをさせるよ」

「彼女、大丈夫か?」

本橋は、改札を抜け階段を上った。

「かなり苦しい立場に追い込まれるだろうが、何とかやり過ごすだろう」

「よろしく伝えておいてくれ」

地下鉄の出入口から外に出ると、たちまち眩しい太陽に曝され、一瞬目が眩んだ。そして次の瞬間、歩道の柵にボロ切れのようになって寄りかかっている男の姿が本橋の目に映った。

「ちょっと待ってくれ、後でまた電話する」

本橋は、電話を切るとその男に近寄って跪き、肩を揺すった。

「おい、梶原さん大丈夫か」

梶原の額から頬にかけて黒褐色に凝固した血が付着していた。右頬も内出血して腫れ上がっていた。本橋の呼びかけに梶原はゆっくりと目を開いたが、痛みに顔を歪め、口を開くことができなかった。

「何も話さなくていいよ。今救急車を呼ぶから」

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