八月二〇日②
その後もいつもと変わらぬ職場の日常が続いた。窓から差し込む日差しが橙色に変わり始めると、次第に皆の緊張感も薄れた。誰とはなしに「あれはブラフだったんじゃないのか」と軽口を叩こうと思い始めたそのときだった。突然階段を上ってくる大勢の足音が聞こえ、受付の方から東郷の大声が聞こえた。
「魂の共同体ネットワークの東郷だが、監督官の本橋を出してくれ」
受付には、大勢の男達が所狭しと集まっていた。東郷は受付に現れた本橋の姿を見つけると、サディスティックな笑みを浮かべた。
「今日は、あんたの責任を追及するために、依元さんの友人達と一緒に寄らせてもらった。どこか場所用意してくれ」
「予めご連絡いただければ助かったのですが、何人でお越しですか」
「二○人だ」
四○の瞳が批判的な視線を浴びせているのを感じた。さすがに気分は良くないが、本橋は平静を装った。
「場所を用意しますので、少しお待ち願えますか。それと、実は私はお会いしたことがないので失礼ながらお伺いいたしますが、どなたが依元さんですか」
「なんだお前、依頼人に会ったこともないのか。どうしようもない怠慢だな」
依元との接触を妨害していたのは自分なのに、東郷は平然と本橋を非難した。当然それを自覚した上で平然と相手に責任を転嫁するのが東郷という男だ。分かっていても腹が立った。
「依元さん。こっちに来て」
東郷は背後の集団に向かって、命令口調で呼びかけた。すると、集団の後ろの方からおずおずと気の小さそうな小柄な男が現れた。
「こちらが依元さんだ。早く部屋を用意しろよ。役所ってところは何をやらせても愚図だな」
東郷の怒声に、周囲の来庁者が皆何事かと振り向いていた。




