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八月一八日⑥

 御子柴へメールを送信すると、「魂の共同体ネットワーク」のサイトにアクセスした。自らに対する誹謗中傷を直視するのは気の進むことではなかったが、相手から目を背けることは敗北を意味した。

 果たしてサイトは更新されていた。最新記事のタイトルは「勤務時間中にネットサーフィンに明け暮れる厚生労働省の職員を断固糾弾する!」となっていた。

「昨日から、当団体のサイトへのアクセスが急増しています。ログを確認したところ、厚生労働省からのアクセスが大半を占めていることが判明しました。一体彼らは勤務時間中に何をしているのでしょうか? 目的ははっきりしています。当団体のメンバーである依元さんに対する、杉並労働基準監督署の本橋労働基準監督官の怠慢行為をもみ消すための工作を画策しているに違いありません。当団体は、厚生労働省に対しこの件について正式に抗議を申し入れます。また、この問題を国家権力によってもみ消されないよう、ネット系報道機関に告発しました。すでに記事に対して多くの反響が寄せられており、その全てが厚生労働省に対する批判的意見です。我々は、皆様の協力をいただきながら、依元さんの問題の早期解決を目指します!」

「魂の共同体ネットワーク」すなわち代表の東郷の目的は、依元の権利救済ではなく、国家権力の糾弾であり、その突破口と踏んでいる本橋への攻撃なのか。LASTISからのネットへのアクセスは、本省の管理するプロキシサーバ(代理サーバ)経由であるため、そのIPアドレスからアクセス元を検索したのだろう。多分、今のアクセスもカウントされているはずだ。

「魂の共同体ネットワーク、ムカつきますよね」

隣で鈴木がつぶやいた。端末の画面には本橋の端末の画面と同じサイトが表示されていた。

「自分、匿名で反論書き込んでやりますよ」

「やめとけ」

本橋の背後から戸橋の声がした。「それじゃ、あいつの思う壺だ。例え、嘘や悪意による非難であっても、それに対して真っ向から反論しないという行政機関の特性をよく知ってやっているのさ」

「なんでちゃんと主張しないんですか。事なかれ主義ですか?」

納得出来ないといった様子で鈴木が噛み付いた。

「確かにそういったところもあるだろうな。しかし、非難されたからといっていちいち相手と同じ目線に立って戦わない、それが行政機関というものさ」

「だって、そういう非難を放置したら、どんどんそれが広がっていって、結局公務員批判になって、あいつら役立たずだからいらないって話になっちゃうんじゃないですか?」

「鈴木が頑張って仕事してることは、オレがちゃんと分かってるから」

 戸橋は、笑いながら言った。

「戸橋さんにわかってもらったって、仕方ないじゃないですか」

 戸橋にさりげなくなだめられてしまった鈴木は、泣きそうな表情で目線を画面に戻し、捨て台詞を吐いて黙った。戸橋は、黙って本橋の肩を二回叩いて、紙コップの中身を啜りながら自席に戻っていった。

「全く、本橋さんのことを悪くいうなんて許せないですよ。こいつらのサイトにウィルス仕込んで潰してやりますよ」

 本橋は、画面を見ながら悪態をつく鈴木の肩を叩いた。

「気持ちはありがたいけど、止めとけよ。それが最善の策だとしたら、プロのハッカーも一目置く戸橋さんがとっくにやってるよ」

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