八月一七日⑨
「それのどこがおかしいんですか」
「被害者の娘は山形県に、被害者は新宿に、白岩は千葉市にいたんですよ。一体、白岩はどうやって娘の居所をつかみ、どうして被害者にそのことを伝えるためにわざわざ新宿まで出向いたのか。不可解じゃないですか」
桐生は、じっと目を閉じながら本橋の話を聞いていたが、いよいよ我慢できないといった様子で口を開いた。
「本橋さん。前も言いましたが、それが労基と何の関係があるんですか。事件性があると言いたいのかも知れないが、それは警察の問題でしょ? そんなに不可解だと思うんだったら、自分でその白岩という人物にあたってみればいいでしょう?」
「白岩には、もうあたってみました」
本橋が打ち明けると、桐生が驚いた表情で本橋の方を見た。
「千葉まで行ってきたんですか?」
本橋は頷いた。
「しかし、こちらの質問には一切答えようとしません。細かい筋書きを問い質されてボロを出すのが嫌なんでしょう」
「その可能性は否定できないが、もしくは、単に付け回されるのが鬱陶しいのかも」
「殺したのかも知れない」
「その可能性は否定できないが、単なる事故かも知れない」
「アメリカの刑事ドラマによくあるセリフだ」
突然桐生はニヤリとして、立ち上がると伸びをした。
「本橋さん、ちょっと飲むのにいい店知りませんか? 紹介してくださいよ」
桐生が突然話題を変えたので、本橋は少し面食らった。
「飲みながら仕事の話をするんですか?」
「仕事の話じゃなくて、単なる推理、仮定の話をするのは構わないでしょう。あなた、いい店知ってそうだし」
「ありきたりのバーなら」




