八月二七日③
庄内中央信用金庫本店に到着したのは午後三時だった。すでに店舗入口にはシャッターが下ろされていたため、二人は通用門のインターフォンを鳴らした。
「杉並東警察の桐生です。店長さんお願いします」
桐生はインターフォンのカメラに警察手帳を提示して告げた。間もなく年配の女性職員が姿を見せ、二人を応接室に案内した。年季が入った茶色のレザーソファーに腰を下ろし、二人は無言のまま店長が現れるのを待った。女性職員がスイッチを入れた古びたエアコンが、室温を下げようと躍起になって派手に唸っていた。間もなくドアが開き、背が低くベルトの上に丸い腹が乗った年配の男が、「お待たせしました」と愛想よく言いながら入って来た。
「わざわざ東京からお越しになられたんですか」
店長はわざとらしく大袈裟に驚きながら、女性職員が運んできた麦茶を二人に勧めた。
「ええ捜査のためですから。この度はご協力ありがとうございます」桐生は両膝に手を置き、頭を下げた。「つきましては、今日お宅さんから預金を引き出した陣内範子さんが、引き出した金をどこに移したか教えていただきたいのですが」
「教えて欲しいと言われましても、私どもにも守秘義務がありますので……。裁判所の令状とか捜査関係事項照会はお持ちではないのですか?」
店長は無理難題を提示され顔を曇らせた。
「本件はまだ内偵段階でして。本日は非公式に教えてもらいたいと思っています」
「それはできませんよ」
店長はきっぱりと拒絶した。
「店長さん。本件は国から労災保険金を詐取した詐欺事件です。陣内範子さんを装って開設したお宅さんの預金口座が使われています。この件が明るみになれば、偽名口座を易々と開設してしまったお宅さんの責任も問われるんじゃないですか?」
「うちは金融庁の指導に従い、適正に本人確認を行っています」
店長は桐生の強引な追及に強い不快感をにじませた。
そのとき本橋が口を開いた。
「陣内範子さん本人を連れて来れば答えていただけますよね。今日来た偽物じゃなく、正真正銘の本人がくれば」
店長は突然の本橋の言葉に驚いたように、反射的に「もちろんです」と首を縦に振った。




