八月二七日②
高速走行でのどっしりとした安定感に感心しながら、本橋はランエボを駆り東北道を走っていた。リクライニングさせた助手席では、サングラスをかけた桐生が熟睡していた。他の官庁の車を運転して万一のことがあったら面倒だからと固辞したのだが、その時はオレが運転していたことにするという、桐生の警察官にあるまじき説得で渋々運転を引き受けた。高速道路の両脇に広がる景色は田畑が広がる平野と山間部の繰り返しで単調で、時折道路上の小さなバンプでタイヤが奏でる三三七拍子が空しかった。
突然、桐生のスマートフォンが鳴り響いた。桐生はゆっくりと目を開けると緩慢な動作で内ポケットから取り出した。
「桐生です」目を手のひらでこすりながら電話に出た桐生だったが、次の一瞬で覚醒した。「わかりました。はい。どうもありがとうございます。午後にはそちらに伺えると思います」
電話を切った桐生は若干の興奮を隠せないように、助手席の窓を開けると、タバコを取り出し火をつけた。目の前のグローブボックスには「車内禁煙」シールが貼られていた。
「庄内中央信用金庫からだ。白岩と女が現れて金を引き出したそうだ」
「ちょっと待て。逮捕したんじゃないのか」
「してない」
「どうして?」
「逮捕状出るわけないだろ。証拠もないのに」
桐生は車窓から外に向かって煙を吐いた。
「そもそも何故オレが一緒に行くんだ?」
「必要になる可能性が否定できなかったんでね」桐生はタバコを吸いながら愉快そうに笑った。「あ、そこの村田ジャンクションから山形道に入ってくれ」
「お前、可能性が否定できないって言い回し、本当に好きだな」
本橋は呆れたように苦笑すると、アクセルを軽くあおってシフトダウンし、東北道から山形道への分岐路に進路変更した。




