第十話 再びの非日常の誘い
「はあ……」
俺は疲れたように息を吐きながら、学校に向かっている。
がっちりと俺の体を押さえ込んでいる二人の妹を剥がして、何とか三人分の弁当を作り終えて、俺は二人が起きてきた事を確認すると、少し早めに学校に向かった。
何か、二人と一緒にいると、危ない気がするから、早めに出たわけなのだが……。
……さてと、学校に行くとなると、橘と必然的に会うことになる。
となると、英雄武装について話す事になるだろう。
「どうやって断ろうかなー……」
もう、あいつ等を泣かせるわけにはいかないからな……けど、それでも疑問が残る。
「あの剣……名前が……」
あれから何度も言おうとしても、出てこない。まるで、自分から言うとしているのを拒んでいるようだった。
ただ、やはり、あの人が関係しているのだろうか? あの日約束を破ったあの人に。
「なあ、■■■。あんたは何をしてたんだ?」
俺にも言わずに、何かをしていたはずだ、あんたは。
俺は、それを知りたい。■■■が何をやっていたのかを……。
たが、その代償として、俺は、香織里達を泣かせることになってしまう。それは駄目だ。中学の時にもう泣かせないと決めたんだ。でも……。
「どうすれば良いんだ……? ■■■。俺は……」
「それで、どうするの? 柊君」
橘の問いに、俺は直ぐに答えを返すことが出来なかった。
学校に行って、昼休みに入って、俺は橘に極秘で呼ばれた。
呼び出された場所である屋上に行くと、橘が待っていた。
そして、冒頭に至る。
「それで、どうするの……?」
橘の瞳は、一切の偽りは許さないという力が込められていた。
「俺は……」
俺が言葉を言おうとしたその瞬間、
「……へえ~その子が噂の聖剣使い?」
「っ!」
突如として第三者の声が響いた。
「中々いい男じゃない」
声がした方向を振り向くと、給水塔の上にセミロングの髪をしたうちの学校の制服を着ている女性がいた。
確か、あの人は……
「日向さん!」
そうだ、日向先輩だ。
日向明日音。
うちの学校の三年生で、とてつもなく美人だ。それは彼女が芸能人をやっていることが証明となっている。
ただ、芸能人といっても、歌手と言った方が良いだろう。
彼女の歌声とその美貌から、瞬く間に人気は沸騰。橘と並ぶこの学校の二大スターとなった人だ。
けど、何でこの人が此処に? それに、さっき俺の事を聖剣使いって言ったような……。
「何で貴女が此処にいるんですか日向さん!」
「あら、つれないわね。噂の聖剣使いを見に来て悪い?」
そう言うと、日向先輩は給水塔の上から降りてきて、こちらに歩み寄ってきた。
「柊君の件に関しては私に一任されています。貴女が出る幕はありません」
「相変わらず堅いわねー。そんなんだから司令に弄られるのよ」
「それは関係無いでしょ!」
……うーん。何だかこの二人って仲悪いのかな? 最も、橘が一方的に日向先輩を嫌っているって感じだな。
よくよく考えて見れば、この二人が話している所なんて見たこと無いな。同級生じゃないからと言っても、二大スターなんて呼ばれているのにな。
ていうか、日向先輩ってまさか……。
「あのー日向先輩ってまさか……」
「ん? ああ。そうよ。あなたが考えている通りよ」
未だ言い争いをしている――――と言っても、橘が一方的に突っかかっているのだが――――日向先輩がこちらを向いて、何とも大人みたいな微笑みを浮かべた。
「自己紹介が未だだったわね。神代機関所属英雄武装士code02日向明日音よ。よろしく~」
マジカヨ。まさか、この学校の二大スターがどちらもマリスと戦う戦士だったんて。
「で、何を見ているんだ?」
「何って、あの子達の様子さ」
神代機関司令室、そこでソファーに体重を預けながら優雅にティータイムを楽しんでいる弥彦と謙吾は、未だギャーギャー言い争いしている――姫夜が一方的に噛みついている――三人をモニターを通じて見ていた。
「所で、彼の聖剣の真名分かった?」
「……残念ながら、あの時の攻撃のエネルギー量は半端無かっただけで、剣の形は光に包まれていてよく映って無かった。アレでは調べようがない」
弥彦の応えに特に期待していなかったのか、「ふーん」と言って、再び視線をモニターに戻した。
「……おい、日曜日返上してあの聖剣の解析に躍起していた俺に対する労いの言葉の一つも無いのか?」
「別に」
ばっさりと切り捨てた謙吾に弥彦は怒りで肩を震わせたが、長年付き合ってきた経験からそれを何とか押さえた。
元々、この男に労いとかを期待する方が見当違いな話なのだ。
かれこれ十年近く付き合っていたが、自分でも何故こんな男と付き合いがあるのか未だに良く分かっていないのだから。
「……まあ、とにかく何であいつ等の話を聞いているんだ? 態々、隠し監視カメラまで使って」
神代機関はその役目上、あらゆる公共の場での監視カメラの映像の閲覧を国から許可されている。真司達が通う学校も例外では無い。
そして、現在謙吾達はそのカメラの一つを使って、姫夜と真司と明日音の会話を見ていた。
「何でって……そりゃあ、聖剣使いとなると、ちゃんと確認しておかないとね」
絶対嘘だ。と弥彦以下、司令室にいる職員全員思った。
この男が真面目に仕事をするはずが無い。恐らく彼らの会話を聞いて、何かネタがあれば爆笑する腹なのだろう。橘謙吾とはそういう男なのだ。
「それで……柊君……どうするの?」
あれからしばらく日向先輩に弄られていた橘は、これ以上は無駄だと悟ったのか、日向先輩を放っておいて俺の方を再び向いた。
「俺は……」
断るつもりなのに、声が出ない。
何故か、橘に対してその言葉が出ない。
「おれは……!」
その瞬間、警報が鳴り響いた。
その警報は、二日前に俺が聞いた警報だった。
つまり、マリスが再び出現したというわけだ。
橘と日向先輩の方を見ると、二人とも真剣な表情をして電話をしていた。
「はい……了解」
「はいはい~」
二人とも、同時に通話を終えて、顔を見合わせた。
「そちらは任せます」
「大丈夫よ~あんたも頑張りなさい」
そう言うと、日向先輩は素早くダッシュして屋上から姿を消した。
「じゃあ、柊君! 話はまた後で聞くから早くシェルターに避難して!」
そう言うと、橘も屋上から走り去っていった。
しばらく俺はボケーとしていたが、はっと我に返ると、マリスの出現地域を見るために携帯を取り出した。
「えっと……」
そして、マリス出現地域を見て、俺は固まった。
何故ならば、
香織里と志織里の学校地域だからだ。
「おいおい……!」
一先ず、学校にもシェルターはあるだろうし、大丈夫だと思ったが、そこで唐突に思い出したことがあった。
香織里達は今日、午前だけの授業では無かったか?
そして、あの二人は直ぐに家に帰るタイプだから、もう学校から離れているのでは無いか?
其処まで考えて、俺は直ぐに二人の居場所を突き止めるためにGPSで調べた。
結果……。
「嘘だろ……」
二人とも、同じ場所にいて、なおかつ最寄りのシェルターが近くに無かった。
「くそ……!」
自分でも気づかないうちに俺は、走り始めていた。




