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英雄武装士  作者: sora
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第九話  一難去ってまた一難

「おーい、香織里~志織里~」

 

 二人の名前を呼びながら俺は家の廊下を歩いていた。

 

 結局、玄関でしばらく待っていても二人とも来なかったし、さらに靴が入っている棚を見てみると、二人の靴は一個も減っていないので、仕方なく俺は家に上がった。

 

 あれ? 自分の家なのに何やっているのだろうか?

 

 しかし、本当に家が静かだ。いつもなら香織里が叫び声を上げながら武道を修行をしている音が響き渡っているのに、何も聞こえない。

 

 取り敢えず居間に行って休憩しようと思い、居間に足を向けた。


「……そう言えば携帯どうしよう?」

 

 俺はふと、マリスに壊された携帯を思い出していた。

  

 あの携帯は買う先月でたばかりの最新モデルで、殆ど売り切れに近い状態だったのだが、中小企業とは言え、社長である両親が取引先にあの携帯を作っているメーカーの知り合いがいたらしく、その伝手で買うことが出来たのだ。


 正直なところ、あまり気が進まなかったのだが、親から高校の入学祝いと言う事で押し切られる形で購入することになったのだ。


 そんな携帯を壊してしまったのだ。両親に対して申し訳なさが今更のようにこみ上げてくる。


 最も、あの両親はそんな事気にせず、直ぐに同じ物を買ってくれるだろう。そういう人たちだ。


 はあ、と溜め息を着いて俺はたどり着いた居間の襖を開けた。


「………………」


 思わず目が点になってしまった。


 まず、俺の目に映ったのは、俺の二人の義妹達だった。


 二人とも寄り添いながら畳の上で寝ていた。そして、その目元には涙を流していたらしい痕が残ってい

た。


「…………」


 それを見て、俺は胸が締め付けられるような痛みを覚えた。


 恐らく、二人とも何時間経っても帰ってこない俺を心配して、ずっと起きていたのだろう。携帯も壊れ

て連絡がつかなかったのだ。相当心配していただろう。


 そう考えつつも、風邪を引かせるわけにも行かないので、起こすことにした。


「ほら、二人とも……そんな所で寝ていると風邪を引くぞ」


 肩を揺すって起こすと、二人とも、う~んと言いながら目を開けた。


 そして、ばっちりと目が合った。


「兄……ちゃん?」


「お兄……ちゃん?」


「おっおう。ただいま」


 怒られるなと思いつつ、俺はちゃんと、挨拶した。


 しかし、いつまで経っても、二人とも何も言わず、何事かと思ったら、


「兄ちゃん!!」


「お兄ちゃん!!」


「うわっ!」


 突然、二人とも俺に飛び込んできて、俺はそのまま体勢を崩してしまった。


「なっ何だよ……」


 怒ろうとして俺は声を挙げようとしたが、途中でやめざる終えなかった。


 二人とも、俺にしがみついたまま泣いていたからだ。


「良かった……兄ちゃんが行ったコンビニの近くにマリスが出たってニュースでやっていたから、巻き込

まれたんじゃないかと思った……」


「携帯も出ないし、いつまで経っても帰ってこなかったから、もう……もう!」


 そこまで言って二人はまたわーん、と鳴き始めた。


(……ああ。俺はこいつ等また泣かせてしまった)


 中学の頃迄に何度も泣かせてしまったから、高校入ったらもう泣かせまいと思っていたのに……。


「くそ……駄目じゃねえか……」


 幸いにも、俺の呟きは二人には聞かれず、俺はしばらく二人に好きにさせていた。




「で、いつまでこうしてればいいの?」


「私達が良いって言うまで」


 ……何でこうなった。


 しばらく泣き続けていた二人は、今度はキッ、と俺を睨み付け、「昨日何処に行っていたのか」と聞い

てきた。


 この質問は実にまずい。


 マリスに襲われたことは百歩譲って話したとして、英雄武装(ヒーロー・ギアーズ)の事や、神代機

関の事を話す事は出来ない。


 なので、取り敢えず、マリスの出現の警報を聞き、急いでコンビニに戻って避難して、その際に携帯を

落とし行方知れずになったと説明した。


 二人とも思いっきり訝しんだが、俺の言う事を信じたのか、一先ず信じてくれた。


 しかし、その後、心配させた罰と言う事で、罰ゲームを言い渡された。それは、


「ちょい、香織里腕痛い。痛いから。もっとゆるめて」


「やだ」


「即答かよ」


 一日一緒だった。


 と言うわけで現在俺は右手を志織里に、左手を香織里に体ごと絡まれている。


 体を完全に密着さているわけで、二人の体のラインがくっきりと分かるわけで、


(やばい……どうする)


 取り敢えず、テレビを見て何とか凌いでいるが、心理的にもそろそろやばい。


 どうするかと悩んでいると、廊下の方から電話の音が聞こえてきた。


「あっ、電話……」


(チャンス!)


 絶好のチャンスと思い、俺は二人の方に視線を向けた。


「二人とも、俺が電話取りに行くから……手、放してくれない?」


 二人とも、不満です、と顔にありありと出ているが、しつこく電話が鳴り響いているのと、自分達があ

まり他者と話すのが苦手のを思い出したのか、頷いてくれた。


 良かった、と思っていたら、二人が俺の腕を持ったまま立ち上がった。


「あり、二人とも?」


「何しているだ兄ちゃん? 早くしないと電話でれないよ」


「そうだよお兄ちゃん」


 ……此処にきて俺はようやく俺は二人の意図が読めた。つまり、


「……電話にまで付いてくるのか?」


「うん」


「当然だよ」


 と言うわけである。




「もっ、もしもし?」


 両腕を二人に掴まれながらも何とか電話を取ることが出来た俺。


 どうやら電話の相手はよっぽどこの家に用があるらしく、数十秒経っても鳴り続けていた。


『もしもし? 真司か?』


 かなり低い、渋めの声。俺はこの声に聞き覚えがあった。


「あれ? 義父さん?」


「えっ、父ちゃん?」


「お父さん?」


 両隣にいた二人が驚きの声を挙げる。


『おや、どうやら香織里と志織里も近くにいるのか?』


「ああ。つか、俺の腕にしがみついている」


『ははははは。お前達は相変わらず仲が良いな』


 義父さんが電話の向こうで楽しそうに笑っていた。


 けど何故義父さんが? 日曜日でも滅茶苦茶忙しい人なのに。


「どうしたのさ義父さん? 珍しい」


『いや何。お前に用があってな』


「俺に?」


『ああ。出来れば香織里達には離れていて貰っていいか?』


 よほどの事だろうか。義父さんの口調はいつに無く真剣だ。


「二人とも、俺ちょっと義父さんと大事な話があるから居間でテレビを観てろ」


「えー! 何で!?」


「今日はずっと一緒だって約束でしょ」


 やはりか。この二人ならそう言うと思った。


 さて、どうするか……。このままだと埒があかないだろうし、義父さんもそう暇じゃない筈だ。


 ……仕方ない……禁じ手を使おう。


「二人とも……言う事聞いてくれたら、今日一緒に寝てやる」


「じゃあ兄ちゃん! 居間で待っているよ!」


「早く終えてよ?」


 ……現金な奴らだな。


 ドタバタと、二人は走りながら居間に向かった。


「やれやれ……二人とも追い払ったよ?」


 俺は呆れながら、受話器に再び耳を当てた。


『はっはっはっ、お前達は本当に仲がいいな』


「まあ、同世代の奴らに比べたら仲が良いと思うけど……って、義父さん。話が逸れているぞ?」


 脱線しかけた話を元に戻す。


『ああ。そうだな……実はさっき特別災害対策チームから連絡があってな……聞いたぞ、マリスに襲われ

たそうじゃないか』


 あり、そこまで話したのか?


『それでも、チームによって助けられたそうだな……ああ、詳しい話は言わなくていい。誓約書を書かさ

れたんだろ?』


 成る程。そう言う話になったのか。


「まあね……つか、話ってそれ?」


『ああ。それもあるが、大丈夫かなと思ってな。一応無事って聴いていたが、それでも心配でな』


 相変わらず義父さんは心配性だな。高校入学の時も虐められたりしないか不安がっていたからな。


「大丈夫だよ義父さん。怪我は無いし。精々携帯が壊れただけだし」


 この時、俺はうっかりしていた。義父さんの心配性に呆れつつも、無事を伝え、”うっかり”携帯の話

をしてしまった。


『……何だって?』


 あ、やば。


「いや、義父さん……その、マリスに襲われたときに壊しちゃってな? お祝いに買って貰ったのにゴメ

ンな?」


 何やら言い訳じみているが、何言っているのだろうか俺は?


『……分かった』


「はい?」


 何が分かったのだろうか?


『今すぐ、お前の携帯を取り扱っている会社に連絡して同じ物を取り寄せよう』


「は?」


『何、心配するな。今日中には家に届くようにしよう』


「えっ、ちょ、義父さん?」


『ん? そろそろ会議の時間だ。済まないこれで切るぞ?』


「ちょ、義父さん?」


 プツン、とあっさりと電話は切れてしまった。


「……まあ、いいか」


 電話を戻し、居間に戻ると、


「だから、姉ちゃんは左手で良いんじゃない?」


「でも、以前寝たときは香織里が右手だったでしょ。次は私よ」


「……何してんだお前等?」


 何やら真剣にお互い顔を向き合っている二人を見て、俺は呆れながら言った。


「何って……今晩、お兄ちゃんと寝るとき、どういう体制で寝るかを話しているの」




 …………はい?


 固まっている俺を他所に、二人は真剣に相談を続ける。


「でもさでもさ、腕に絡みつくってんのは、もう古いと思うんだ」


「古いって……じゃあ、どうするの?」


「ふふふ、そこで私が考えたのは……兄ちゃんの腕で腕枕をしてもらうことだ‼」


 いや、何で俺がそんな事と無いといけないんだよ。


 俺が心の中で突っ込んでいると、志織里が真剣な表情で香織里の両手を掴むと、


「香織里……ナイスアイディアよ‼」


 ……もう、やだこの義妹達……。


 俺がズーンと落ち込んでいる間も、二人は話し合いを続けていた。




「兄ちゃんの腕枕~兄ちゃんの腕枕~」


「これは……お兄ちゃんの腕枕中々良い……!」


「はあ……」


 夜十一時、俺の部屋。


 正直に言えば、俺はあの時の発言に後悔している。


 もし、時間を遡られるなら、少し前の俺に、あの時の発言を取り消せさせたい。


 ああ、あと先程本当に携帯届いた。


 ……唯、届けてくれた人、物凄い顔をしていたな。……本当に申し訳ありません。


 最近の携帯は常に契約会社にデータのバックアップが個人別に保存されており、携帯のデータが破損し

た場合も、直ぐに元に戻せるという優れものだ。


 現に、俺の新しい携帯も、前のとデータが寸分狂いも無かった。


 ……うん、好い加減に現実逃避するの辞めるか。


 まあ、何故俺がこんな事をしていたかと言うと、


「へへへへ」


「ウフフフ……」


 二人の義妹が、変な笑みを浮かべて俺の腕枕で寝ているからだ。


 現在俺たちは三人とも、寝巻き用の浴衣に着替えて、布団の中にいる。


 ……まあ、腕枕は腕枕で、腕の感覚が段々無くなってきているので、危ないが、それよりも、香織里達

の態勢が問題だ。


 二人は、腕枕をされながら、四肢を俺に絡みつかせている。


 二人が着けている寝巻き用の浴衣は、春先にしては非常に薄く……体の起伏が分かりやすいのだ。


 ……何て言ったら言いのか、非常に不味いと思われる状況だ。


 そんな事を悶々と考えながら、俺の眠れない夜は過ぎていった。





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