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02-2:初めての魔法体験


 自然豊かな原野を数分歩く。

その先に、馬車は2つ用意されていた。


箱馬車のようだが、車部分は濃い青緑の革で覆われている。

どちらかと云うと、平安時代に貴族が使っていた牛車の車体に革をかぶせたようだった。


一方は少し箱が小さめで、もう一方は箱部分が大きい。



 貧弱サンタもといウォルター老が、大きな馬車へ向かった。

その皺の寄った手が、馬車の後方部の革を捲る。



 「勇者殿。さぁ、お乗りくだされ」

 「えっ!?」



 大きな方へ乗せられると思わなかったセナは、素っ頓狂な声が出た。


更に、でこっぱちのジェラルドが、すっと腕を出してくる。


有無を言えるような雰囲気はない。

恥をかかせるわけにはいかず、おずおずとその腕に手を置いた。


ペロに至っては、早々に車内にすっ飛んで行ってしまう。



 「セナ!ここに座れよ!」


 馬車に乗り込むと、ペロがクッションを敷き詰めた場所を指した。



 「……ご機嫌ね」


 既にセナのキャパシティを越えているというのに、モフモフは元気だ。

やや嫌味っぽく言いながら指定席に座った。


思ったよりも座面は硬くない。

家の食卓椅子の方がよほど硬いかもしれない。



 「ふかふかだ」


 ささくれだった心が少しマシになった心地だった。

ホットココアがあれば更に最高かもしれない。




「せっかくだ。魔法士がいる事だし、魔法講義でも聞くか!」

 「え!?」



 いいよ、と拒否の返事も聞かずに、ペロは馬車を飛び出していく。



 「おーい、導師! 誰か魔法について講義してくれ!」



 セナはガックリと肩を落とした。

休まる暇がまるでない。





 しかし、ちょっと放置してほしかったセナの願望は、

セクシー美女もといアデラインの魔法講義で粉々に吹っ飛んだ。



 「勇者様の世界には魔法がなかったの?」


 アデラインは、手のひらの上に線香花火のようなものを出しながら言った。

小さな5つの線香花火が、くるくるとセナの周りを舞うように動き出す。



 「……うわ、嘘みたい…!」



 セナは馬車が出発したことに気づいた。

だが、それどころではない。


今度は、クラッカーが鳴るような音とともに、

3つほど新たな線香花火が生まれて、セナの周囲を動き出す。




 「……信じられない…! ミニパレードみたい!」



 感動と興奮で、セナは惜しみなく拍手した。

魔法陣は2度も見たけれど、小さな火が動き回るなんてクレイジーだ!



最近、これほど心が動いたことがあっただろうか?

セナは小さな火が踊るのを見入る。



 アデラインが手を下ろすと、それが合図のように線香花火が消える。

セナは改めてアデラインへ拍手を送った。

馬車じゃなければ、おそらく立って拍手をしていたかもしれない。



 「喜んでいただけて嬉しいわ。今のは、魔法の初歩の初歩よ」


 「それでも感動しました! 魔法が本当にあるなんて…」


 「ええ。けれど、勇者様もできるはずよ? 天地に流れるマナと、あなたが持つマナの流れは同じだもの。

理論上で言うなら、マナを操り魔法を使える素質は誰よりもある」



 アデラインの言葉に、セナは神妙な表情で自分の手のひらを見つめた。



 「魔法を使える? 私が?」



 言葉にすると、とんでもなく馬鹿げた台詞のように思えた。

「そんなはずない」と頭が言うのに、胸のドキドキが止まらない。


 アデラインが口元の笑みを深める。



 「そう。まずは、自分の中に流れるマナを感じることが第一歩」



 アデラインは目を伏せ、胸元に右手を置いた。

まるで、何かを感じるように大きく息を吸い込んでいる。



 「次に固定。魂基(じぶんの)マナと自然マナを融合させて固定させる」



アデラインの右手が胸元を離れ、人差し指が空中をなぞる。

まるで指先が描いたかのように、赤い絵の具のようなものが宙に残った。



これが、マナだ!

セナは、魔法講義にワクワクしている自分を抑えられそうになかった。



 「きちんと固定したら、魔法陣式を描く」



 宙に美しい円が描かれ、次々と文字が浮かび上がる。


それを見たことがあった。

異界渡りの時とスマホに現れたものと同じだ。



 「魔法陣が完成すれば、陣式の通りに魔法が発動する」



魔法陣の上にサッカーボールくらいの大きさの火の玉が現れた。

炎の熱さに、空気が乱れてゆらゆらと揺れている。



 「そして最後は、きちんと後始末を」


 アデラインがそう口にした瞬間だった。

魔法陣が消え、同時に炎の球も跡形もなく消えてしまった。


まるで夢のような出来事に、セナは生唾を飲む。



 「す、すごい...」


 陳腐な言葉しか口から出てこない。


すぐに自分への期待で、心が浮足立つ。

だって、理論上はセナもできるとアデラインは言っていた。



セナは目を伏せて、すうっと新鮮な空気を大きく吸い込む。

アデラインを真似て、右手を胸元にやった。



そうして、『自分に流れるマナを感じる』。


そう、『マナを感じる』。



 ――――――――な、なんにも感じない…?




 セナは目を開いた。



 真正面で浮かんでいたペロが、モフモフの白い手で口を覆っていた。

その手を外すと「ブフー!」と吹き出し、ケラケラ笑い始める。



 「お前、すぐできると思ってただろ!

顔が、『自分はできる』って顔だったぞ!ギャハハハハ!」



 図星すぎて、セナは恥ずかしさに熱が顔に集まるのを感じた。



 「アー、お前の顔が面白すぎて、息を止めてたせいで死ぬかと思った!」

 「……それは命拾いしたね。この馬車には人工呼吸器もAEDも見当たらない」



 セナは苛立ちながら、ペロを一睨みした。

すると白いモフモフは、顔をヒクヒクさせながら言った。



 「ま、落ち込むなよ!

ギリ素質ある奴が、15年20年かけてマナ固定までいくんだぞ。

初歩の魔法陣を描けるまで、そっから5年かかるやつもいる」



 どうやらセナは、幼稚園レベルなのに、

大学入試を受けるような真似をしていたらしい。



 「そうなんだ…」


 魔法体験は、実演を見るだけで終了のお知らせが響いた気がした。

セナは少しばかり残念な思いが広がる。



気落ちしたせいだろうか。

現金なもので、途端に馬車のガタガタとした揺れを感じてしまう。



 しかし、捨てる神あれば拾う神あり。

落ち着いたアルトの声が車内に響く。



 「精霊ペロ。それは、普通の魔法士ならでしょう?

勇者様の魂基配列は、この天地と同じマナの流れ。それなら、マナも感じやすいはず」


 「まあ、努力次第だな。努力TUEEEで頑張れよ」



 ペロは、腕を組んで頷く。

セナは再び顔を上げた。



 「……そうね。うん、やってみる!」


 ぜひとも帰るまでに、火花の一つくらいは出したいものだ。

気合を入れようと、右手をぎゅっと握った。

そういえば、何かを習得したいと強く思ったのも久しぶりかもしれない。



 「よし、よく言った!走り込み強化するぞ!」

 「なんで!?」



 ペロとセナのやり取りが面白かったのか、

アデラインがクスクス笑って言った。



 「若き頃は、師に呆れられるほど落ちこぼれだったわ。

そんな私も今や一端の魔法士。強い意志があれば、成せるはずです。何事もね」


 「……落ちこぼれ? 若くて国のトップなんて、エリート街道では…?」



アデラインは、セナよりも少しだけ年上に見える。

不思議に思って尋ねると、ペロが首を横に振った。



 「セナ。言っとくが、星霊は2000年以上生きてるし、爺さんは400歳いってたか? 赤褐色の髪は200ちょい、コイツはひゃく――」



 ペロがアデラインを指差して年齢を言い終える前に、何かがペロの頬すれすれを横切った。

馬車を覆う革張りに、1円玉が通るか否かくらいの穴が空き、

パラパラと白い毛が足元に落ちる。



 「精霊ペロ? 女性の年齢を口にするなんて野暮よ? ねぇ、勇者様?」



 セナは無言で何度も首を縦に振った。

どこの世界でも、年齢の扱いには注意しなければならないらしい。



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