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04-12:暖かな暖炉の前で




 エイベルの一言に、カイリーがサッと立ち上がった。

怒っているような表情だ。

それに、ドスドスと足音を立ててセナの前にやって来る。


セナは何をされるのかと、様々な想像が浮かび、とても不安になった。

口角を上げたまま、怯えを出さないように目に力を入れる。



 「ルフォス様、私は繕い物が大の苦手です。大変申し訳ないことです」



 カイリーは憤怒に満ちた顔で謝罪してきた。

表情と言葉がここまでかけ離れた人がいるだろうか。

ともかく、胸倉を掴まれて持ち上げられ、ぶん投げられるという想像は現実にならなかった。

セナはにっこりと笑みを浮かべて、怖気付いた気持ちを隠す。



 「お気持ちだけで十分です。

いつも守ってくださってありがとうございます」



 カイリーはホッとしたのか、あからさまに肩を下げて息を吐いた。

吊り上げていた目が元に戻る。

そして彼女は、軽くセナに一礼して部屋を出て行った。

扉はとても丁寧に、小さくキィと鳴っただけで閉まった音もほとんどしなかった。





 他の人は残って、すぐに巾着製作が始まった。

カリーナとミラ、使用人四人、騎士八人が、暖炉を囲むように椅子を並べて縫い物をこなしていく。

ペロはベッドで鼻歌を歌いながら刺繍を施していたが、やがて鼻歌が聞こえなくなり、寝息が聞こえ始めた。

自由過ぎる。




 「うわ、ラウロが意外と上手い!セナ様、見てくださいよ!」


 シェイは隣の騎士ラウロを覗き見て声を上げた。

セナはそちらを向いて、綺麗な縫い目に感心する。



 「素晴らしい腕前ですね。縫い目が等間隔だし…」

 「いえ、この程度…。

見習いの頃に一通りの修繕は教わりますので、皆ある程度はできます。

それに俺は、弟や妹らの服も小さい頃から縫ってきましたので、慣れてるだけで…」



 ラウロは伏せ目がちに、少し照れたようにはにかんで言った。

彼はすでに一つ目の巾着袋の半分を縫っている。



 「ご兄弟が? 何人いらっしゃるんですか?」

 「…お、俺…いえ、私ですか?」



一瞬、ラウロは驚いたようにセナを見る。

プライベートな事情を聞くべきではなかったろうか?

セナは、「差し支えないなら」とラウロに微笑んだ。



 「上に兄が1人、下に弟と妹が2人ずつです」

 「ろ、6人兄弟? 賑やかそうですね」



 セナは、糸を引っ張り過ぎた。

セナの周囲で六人兄弟なんていなかったような気がする。

二人や三人でも喧嘩や食べ物戦争が勃発する。

六人なんて想像がつかない!



 「賑やかどころか!

油断したら、食事が消えてるんですよ、セナ様!

見習いになって、家を出てからどれほど落ち着いてご飯が食べられるようになったか…」


 シェイはすっかり手を止めてしまって、うんざりした口調で言った。

開始直後から口ばかり動いているので、あまり裁縫が得意ではないのかもしれない。



 「え、シェイも兄弟多いの?」


 「うちも6人! 悪辣な兄が2人に、口煩い双子の妹2人、悪戯好きの弟が1人!

ほとんどが、このくらいの人数で…レンツは少なかったっけ?」


 「兄が2人、妹が1人になります。....シェイ、さっきから手が止まってるぞ」




 レンツに指摘されて、シェイはすぐに口を閉じて手を動かし始めた。

兄弟の話題が上がったせいか、あちこちで兄弟姉妹の話題が出ている。



 「一番多いのは、ユーインだろ。いいよな、優しい姉君が三人もいて…」

 誰かが言った。


 「多いっていっても、俺んとこは年が離れてるし…。

だいたいお前らはあの人らの本性を知らなすぎるんだよ。なぁ、エイベル」


 「…………差し控える」



 エイベルが小さく返事をする。

エイベルは、針を布地に突き刺し、糸を引っ張っていた。

その姿にギャップがありすぎて、セナは夢を見ているのではないかと思った。



 やがて話題は兄弟の話から市場の話になり、場所取りは戦場のようだとカリーナが言うと、騎士らは張り切って、良い場所を取ろうと作戦を練り始めた。

セナも聞いていたけれど、馬で突撃だとか武器はありかとか、物騒な方向に流れる度に、真に受けたカリーナが教師よろしく注意した。





 「ところでお嬢様。“ぽっぷでかわいい”巾着作りもいいのですが、鳥飾りも作らないといけないのでは?」



 セナの方は、巾着袋の刺繍の方に作業を切り替えていた。

首が痛くなってきた頃に、カリーナが声をかけてくる。



 「忘れてた!ちょうどいい頃合いだし、この辺にしましょうか」



 セナが声をかける。

騎士たちは、出来上がった巾着をセナの前に置き、追加で部屋に入れた椅子を持って客室を出ていく。



 「セナ様!明日は早起きして場所取り頑張りましょうね!」



 シェイが楽しそうに手を振る。

セナも頷いて、笑顔で手を振り返した。



 騎士たちが作った巾着だけでも、二十一枚になっていた。

騎士の中でもレンツとラウロが上手で早い。

意外にもユーインは少し縫い目がガタついていた。


 それを上回る猛者もいた。

騎士が退出し、カリーナが巾着を揃えていると、自信なさそうに差し出して来たのは使用人として同行しているタナンだった。



 「……お嬢様。このような出来ですが、よろしいでしょうか」



 なんと彼女は、たったの数時間で八枚も縫っていた。

しかも、縫い目はどれも等間隔で丁寧である。

セナは目を見開き、巾着とタナンを交互に見た。



 「こんなに!?

しかもすごく綺麗ですね!? タナン殿、プロってる!」



 大興奮のセナに、水色の髪を低く団子にしたタナンは、恥ずかしそうに白いふっくらした頬を染め、灰色の目を伏せると頭を軽く下げた。



 「……いえ。それに、あの、私だけではありません。サディークも」

 「サディーク殿?」



 一番端で作業していた、酸化鉄のような赤茶色の短髪の男がスッと立ち上がる。

暗褐色の三白眼は伏せ目がちで、セナへ完成した巾着を無言で差し出した。



 「ありがとうございます」


 受け取ると、サディークも同数の八枚で縫い目が綺麗だった。


 「え、二人は達人?」

 セナが小さく呟くと、ますますタナンの方は顔を林檎のように赤くさせた。



 「あの、刺繍もできます。お嬢様のものを見て刺すことはできます」

 「ええ、助かる!いいんですか?」

 「はい、もちろんでございます」



 顔を真っ赤にしたままのタナンが俯き加減のまま言い、巾着袋と刺繍糸を持った。


 サディークの方も頭を下げると、何枚か巾着を持って行き、扉の方へと向かっていく。

セナはもしかしたら、彼が喋ったところを見たことがないかもしれない。


もう一人の男性使用人ジーノは、レンツよりも一枚多い五枚で、マビは他の騎士と変わらず二枚だった。



 カリーナだけが部屋に残った。

ガランとした部屋に、暖炉の火が燃える音とペロのイビキがいやに大きく響く。

窓を見ると、いつの間にか雨が雪に変わっていた。











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