↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/64

02-15:組織の綻び




 セナが鋭利な言葉をモタモタと整形し、だんまりを貫いていると、扉がノックされた。

騎士団長ウェントワースの返事で、古い金具がギィと音を立てながら扉が開かれる。

残念ながら、嫌味を言うには時間切れのようだった。



 「宰相閣下」

 ウェントワースが姿勢を僅かに正す。

鷲鼻の宰相ラッセルが挨拶は不要だと言うように軽く手を上げた。



 「勇者殿、そちらで不足があれば、追加でお持ちするがいかがですか」



ここで言えなかった怒りは、後になって絶対に思い出すに違いない。

でも、特に命を脅かされたわけでもない。


 セナは、騎士団長ウェントワースを『嫌い』にしっかり分類して、

宰相ラッセルへと15枚の羊皮紙を差し出した。



 「…いえ、決まりました。こちらの15人の方にお願いしたいと思います」


 「勇者殿には、我が国の至らぬ点を見せてしまいましたな」



 宰相が、疲労からか息を小さく吐き出した。


あの縦ロールで意地悪そうな第一王女ハイディと、チャラい第二王子ハワードを暗に指しているのだろうか。

宰相ラッセルも手を焼いているのかもしれない。


きっと、ルミア王国には自国を脅かす外敵がいないのかもしれない。

有事にのんびり内部で争っている暇はない。



 「いえ、宰相様もご多忙なところ、閲覧許可をありがとうございます」

 「……当然のことです」



 よく見ていないと見落としてしまいそうなほど小さく、宰相ラッセルの目が開かれた。

けれど誤魔化すように、すぐに視線が下に落とされる。


背筋を伸ばして、仕立ての良い服を着ているのに、宰相ラッセルは随分とくたびれているように見えた。

無表情ではあるが、多少気まずいのかもしれない。



セナは王子と王女の言い合う姿を思い出して、宰相ラッセルを見上げた。



 「あの、このようなことを申し上げるのは大変不躾なことだと理解はしているのですが…。

万が一、商隊内で争いが起こったり、何か問題がある場合は、

私の判断で人員を外すことはできますか?」



 セナが本当にマナ異常を正せるのかという問題は、当然大事なことだ。

でも派閥争いが内部で起これば、組織は崩壊しかねない。



 「それはもちろんです。商隊の主はあなただ。当然、指揮運営権は勇者殿にあります。問題を起こした者は任を解いていただいて構いません。これは、同行が困難になった者も同様。後はこちらで対処します」



お飾りではあるが、運営権と人事権はある。

よほどの対立があれば、人員を送り返せるので、さほど困らないに違いない。

――少なくとも、この時のセナはそう思っていた。




 そして、もう一つ。

最も大事なことをセナは確認しなければならなかった。


 端で立っている騎士団長ウェントワースのような、

渋々セナと関わる人は後々に不安が付き纏うし、一緒にいたくない。



 「それから、マナ正常化のために北上することを納得している方に来ていただきたいです。この中で、私に不満のある方は除いてください」



 切実なお願いだ。

でも、同時に騎士団長ウェントワースへの盛大な嫌味であることにセナは言ってから気づいた。



 (…いっか、事実だし)


 騎士団長ウェントワースの方に、セナは目を向けなかった。



 「そういたしましょう。本人の意思も確認します」


 宰相ラッセルは表情も動かさず、平坦な声で言う。


 こうしてようやく人事が決定した。

解放されたセナは、息が詰まる部屋を早々に宰相ラッセルとともに出る。



「それでは、勇者殿。私は失礼します」

 宰相ラッセルが踵を返すと、すぐに文官の男が羊皮紙を持って彼の後を追いかけていった。

宰相ラッセルは羊皮紙を見ながら何か指示を出している。

かなり多忙なのかもしれない。



 「セナ、どうかして?」



 扉を出ると、馬車で戻って来たらしいアデラインが心配そうな顔つきでこちらへ一歩近づいてきた。



 「え?」

 「周囲のマナ感がいつもと違うわ。それに精霊かしら…?」



 突然、よく分からないことを言い出すアデラインに、セナは目を白黒させた。

隣室からジェラルドとペロも出て来て、

ペロがスイーッと宙を泳ぎ、セナの隣に浮かぶ。


だいたいセナの視線の高さで前を行くか、左隣がペロの定位置になりつつあった。

スマホの中にいた時より、なぜかこっちの方が妙にしっくりくる。



 「お、なんかキレたな? マナの流れが早くなってる。感知した小精霊どもが面白がって集まってきたみたいだな」


 ペロに内心を暴露され、セナは焦った。



 「そんなことまでバレるの!?

ていうか、小精霊? あんたの小さいバージョンが沢山いるってこと?」



 小さいペロがウジャウジャいるのを想像して顔を歪める。

すると、ペロも心外と顔に書いて大口を開けた。



 「んなわけあるか!オレは大精霊様にして神だぞ!? オンリーワンだ!!

精霊どもと一緒にするな!

オレはティラノサウルス! コイツらは、ミツバチみたいなもんだ!」



 唾を飛ばして捲し立てるペロに、セナは一歩離れる。

ミツバチの方が美味しいハチミツをくれるし、断然いいような気がしたが、セナは口を閉じておくことにした。



 「精霊は、純度が高い属性マナから生まれ、マナの動きに集まるとされているのよ。彼らに自我はあまりないけれど」


 アデラインがペロに呆れたような視線を向けて補足する。



 セナは魔法士ではない。

もしかして少し怒っただけなのに、まさか魔者に変質しかけている?

セナは心配になって両手を見ると、ペロが長い溜息をついた。



 「んな、ちょこっと感情が乱れた程度で魔者に変質するかよ。お前は、この界と同じマナの流れを持つ『魂基配列』だから、面白がって寄ってきたんだろ」


 「それは初めて聞いたわね、精霊ペロ。

精霊が集まれば魔法の威力も上がる研究記録は幾つもあるわ。

やはりフィブラリスは特別ということかしら」



 考えるように顎に手を置くアデラインは、

仕事モードに入ったかのように険しい顔になった。



 「当たり前だろ、勇者だぞ! 当の本人が、これに気づいて力を扱えるまで、何百年かかるか分からないけどな!」


 ペロに持ち上げられて落とされる。

魔法のことは、知識ゼロの経験ゼロなので否定の言葉もない。


 「それにしても、セナがキレた? 一体――」


 再び油が切れた古めかしい扉が開く音が石造りの城の廊下に響き、アデラインの声が途切れる。

騎士団長ウェントワースが部屋から出てきた。




 「ちょっと」


 アデラインの厳しい声色が響く。



 「勇者様のご気分を害するのが、卿らの役目ですか?」


 セナはアデラインの棘のある発言に、内心で悲鳴を上げた。


理不尽な物言いに腹を立てることは、人生で誰もが味わう経験だ。

セナだって、地球上で何度も理不尽を味わったけれど、まさか自分以外の誰かが、それに気づいて咎めてくれる日が来るとは思わなかった。



それに、セナはある意味、

先ほどの一言でウェントワースを殴り返している。



 ウェントワースは目を細めて、アデラインを睨む。

なんだか、一触即発の雰囲気だった。

この二人は率直同士で、あまり一緒にしない方がいいのかもしれない。



 「あ、アデライン? 私、喉が渇いたから、お白湯をいただきに行かない?」



 面倒ごとはごめんだ。

それに嫌いな人間とは1秒たりとも空間を同じにしたくなくて、セナはこの場を離れるべく提案する。

それに、セナは「マナ正常化」を未だ遂げていないので、ウェントワースを黙らせるのも違う。



 「けれど、」

 「ルコント」



 ジェラルドの低い声が背後から響くと、アデラインは腰に手をやって息を吐き出す。

ジェラルドのトパーズの目が、セナを見下ろした。



 「何もないのだな、勇者殿」


 もちろんだと、セナは大きく頷く。


 ウェントワースへの怒りは、アデラインがセナを守ろうとしてくれたことで、粉々になって飛散してしまった。

残るのは、言われた記憶と嫌いなタイプという分類だけだ。



 ジェラルドが、ウェントワースを一瞥して歩き出した。

セナもそれに続く。


残念ながら、ペロが舌を出して「あっかんべー」をやっていたことに、前を歩き出したセナはちっとも気づかなかった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。