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02-13:取れる手段




 兵の良し悪しなんて、見ただけで分かるわけがない!


それに何も分かっていないのに、

「すごいですね」「流石!」なんて、取ってつけたような答えがまずいことくらい、セナも知っている。



 「……統率がとれていて…国の強さが伝わってくるようです」



 無難な答えを、セナはなんとか捻り出す。

一応、誰もサボってはいない。

上官に口答えしたり、同僚同士で喧嘩しているような様子はない。

視察中に、馬鹿な真似をしないという最低ラインはクリアしている。



 「ええ、そうでしょう。特にあのフレブ男爵家の子息はどうかしら?

如何なる武器も使いこなすわ」



 第一王女は、セナの答えなんてどうでも良かったらしく、栗毛の男性を指さす。

随分と整った容姿の青年が、一対一で槍術を競っていた。



 「騎士が如何なる武器も扱えるのは当然のことだろ、姉上。

勇者殿、あちらを見てくれ。

ハーヴィン伯爵家のサイモンだ。最も力強く忠誠心も高い」



 今度は、チャラ王子ハワードが反対側を指す。

3人が剣で打ち合っている。

そのうちの一人は、ものすごい筋肉量だった。



マッチョどころの騒ぎではない。

盛り上がる上腕二頭筋の太さが尋常ではなかった。



(……騎士というより戦士というか…、ゴリマッチョというか…)




 「考える能力はあるのかしら? 猪のように突っ走っているだけでは不安ね」


 第一王女が鼻を鳴らし、セナの右隣で言った。



「ハハ、考える? パリッシュのような、よく回る舌で都合よく立ち回る能力か?」


 王子ハワードは、セナの左隣で乾いた笑いを響かせる。



隣で姉弟喧嘩をするのはやめてほしいとセナは切実に思った。

胃がキリキリしそうだ!



 「ハイディ、ハワードいい加減にせよ」


 第一王子イーサンが二人を嗜める。

すると、チャラ王子ハワードが舌打ちし、第一王女ハイディはうんざりした表情になった。



「兄上も早々に発った方がよろしいのでは?」

「ああ、そうだ。イガル辺境侯国に賊狩りだろ? アンタには似合いの地だ。馴染みもある」


 吐き捨てるように言ったハワード王子に、第一王子イーサンが鋭い眼光を向けると、ハワード王子は怯んだように若干逃げ腰になった。




 「んで、オレはミラガイアに決めたんだ!」

 「まあ、勝手に? よろしかったのですか?」



 後ろを歩くペロやフィアたちは、何か違う話題で楽しそうにお喋りしながら歩いている。


それなのに、セナの周囲は気まずすぎる重たい沈黙が落ちた。



 ダメだ。これでは決めるに決められない。

できる限り王子や王女に関わりたくないと思ったセナは、足音をなるべく立てずに騎士団長の横についた。




 「あの、騎士団長ウェントワース様」


 くすんだ青緑の髪をした壮年の男。

口元と顎を覆う髭に鎧姿まで加わって、騎士団長ウェントワースの威厳は五割増しだった。

おまけに右頬には、耳にかけて鋭利な刃物で斬られたかのような傷跡があり、戦場で生きてきたことを証明するかのようだ。



 「何か」



 淡々とした口調に、どこか冷たい眼差し。

騎士団長ウェントワースが、あまり自分に好意的でないことに気づいた。

ナイスミドルで話が分かりそうな雰囲気の騎士団長の素っ気なさに、少しばかり気落ちしながらも、セナはそれを表に出さないように小さく頷く。




 「私には戦いや、武術の心得がありません。

一目見てどの方が強いのか分からないので、結果を参考にしたいと思っています。

騎士団で行なった試合や模擬戦の結果を、差し障りのない程度で見せていただくことは難しいでしょうか?」



 「……出征回数や武勲の簡易記録であればありますが、私の一存では決定しかねます。お時間をいただきたく」



 「……そうですか。分かりました。よろしくお願いします」



 好意的ではないが、騎士団長ウェントワースは仕事をしてくれるらしい。

早々に騎士を呼びつけて耳打ちすると、部下らしき騎士は機敏な動きで走り去って行った。

確認を取ってくれるのかもしれない。




 セナは、王家子女に捕まると面倒そうだったので、

ジェラルドとアデラインの間に入って、騎士たちを眺めることにした。

候補の21人以外も、普段通り訓練に参加しているらしい。



ハワード王子や第一王女ハイディは、たびたび振り返っては騎士の家柄と簡単な実力を伝えてきた。

セナは、微笑んで適当な一言を添えるという涙ぐましい努力をしなければならなかった。



その時、視界に長いポニーテイルの赤茶髪が飛び込んで来た。



「はあぁっ!」


 女性特有の高い声が響き、その細い腕が剣を振るう。

向かい合う若草色の髪の男は、剣撃を防ぎ、押し返した。



二人ともセナと同じくらいの年齢に見えた。


再び女性が剣を振るうと、今度は打ち合いとなって、キン、キンと金属がぶつかる短い音が小気味よく響き渡っている。



セナの視線に気づいたらしい。

若草髪の青年のほうが打ち合いの距離を取って、こちらを見た。

遅れて、赤茶髪をポニーテイルにした女性とも目が合う。



 「あっ!」


 髪と同じ暗い赤みを帯びた茶色の目が大きく見開かれる。

すると、若草色の髪の青年の方が彼女の腕を注意するように引き、こちらに小さく頭を下げた。

慌てた様子で、赤茶髪の彼女も、それに倣って頭を下げた。



 フィアやジェラルド、アデラインに頭を下げたのかと一瞬思った。

でもセナと目が合った。勘違いかもしれないが、セナは軽く頭を下げて歩を進める。



 「ん? アイツらを護衛に入れるのか?」

 ペロが首を傾げる。



 「ううん。ちょっと目が合っただけ」


 年が近い女性がいてくれると嬉しいと思ったけど、こだわらない。

セナは、マナ異常を正しに来たのであって、それを達成するのに性別は関係がない。

遊びに来たわけではないのだ。




 訓練中の騎士の見学は、無事に終了した。

セナは、だいたい50人ほどの騎士を見たかもしれない。

時折、王女や王子が『なに家の誰それで、どうこう』言っていたが、川を流れていく葉の特徴を説明されているようで全然頭に入らなかった。



 「参考になったかしら、勇者殿」

 第一王女ハイディに問われ、セナはテンプレート回答に徹する。



 「はい。どの方も技術や力があるように思えました。

ルミア王国軍の強さを目の当たりにして心強いばかりです」


 「……そう」



 望んだ答えではないと言いたいのか、腕を組む第一王女ハイディに、セナは機会をくれた礼だけ口にした。



 「あら、第二王子殿下の姿が見えないわね」


 アデラインが周囲を確認する。

あのチャラ王子ハワードが第二王子らしい。セナはその事実に驚いた。

てっきり、もっと序列が低いものだと思っていた。



 「第二王子殿下は、護衛と先にお帰りになられました。

我々も城に戻りましょう」


 騎士団長ウェントワースがぶっきらぼうに言う。




 「勝手なやつだな」


 ペロが腕を組みながら眉を吊り上げる。

わりとペロも勝手だが、口を閉じたままセナは馬車の方へ足を向ける。



 「あ、そうだ。オッサン、帰りはコイツも馬に乗せてくれ。

馬車じゃ無理なところは、馬で移動するだろ。誰かの前に乗せてでも慣れさせといたほうがいい」


 ペロの突然の提案に、騎士団長ウェントワースはすぐに答えが出せないのか、思案顔になった。



 「乗馬経験が無かったか」

 「はい、経験と言えるほどのものは…」



 馬の手綱を引くジェラルドが歩いてきて、セナは苦笑した。


乗馬体験はあったけれど、経験と聞かれるとない。

まさかこんな所で乗せてもらえるなんて思わず、不謹慎ながら胸がワクワクしてきた。



 「馬の鬣に手を」


 ジェラルドが手綱を持って補助してくれるらしい。

言われるがまま、左手で馬の鬣をつかんで鐙に左足をかける。


長いスカート丈が少し邪魔だった。

けれど裾幅が広いから、乗るのには問題なさそうだ。



 「勇者殿、危険です!」


 騎士団長のウェントワースが慌てたようにセナを呼んだ。



 「ありがとうございます。大丈夫です」


セナは右手で鞍を掴み、そのまま勢いよく右足で地面を蹴って鐙の上に立つ。

体勢を整えたら、そのまま右足を慎重に上げて馬の胴体を跨いだ。




 「意外とできるな!ふだん動かないくせに」


 ペロがスイーっとセナの目線の高さまで浮上してくる。



 「まあね。でも、こんなの誰でもできるでしょ?」


 セナはペロにニヤッと笑った。



 「では、私でもできるでしょうか?」


 セナがペロと呑気にやり合っていると、フィアがおずおずと言った。

美少女の照れた顔は愛らしく、見上げられたセナは何度も首を縦に振った。



 「星霊、馬に乗りたいのですか?」

 「……ええ、ご迷惑でなければ…」



 第一王子イーサンがフィアにレクチャーをし始めた。

渋っていたが、致し方なしと騎士団長ウェントワースと二人がかりでフィアを馬に乗せている。


フィアの後ろには第一王子イーサンが同乗し、セナの後ろにはジェラルドが同乗してくれるようだ。



 「セナ様、怖くないですか?」

 フィアが足元を見ながら言うので、セナはにこにこ微笑んだ。



 「前を見ると視線が高くなって楽しいですよ!

馬は優しくて賢いし、王子殿下がきちんと手綱を持ってくれているので、落ちたりもしません」


 たぶんね、とセナは心の中で付け足した。

フィアはいい加減なセナのアドバイスを聞いてくれるらしい。

俯くのをやめて前を見据える。



 「は、はい。では前を見て、イーサン王子殿下を信じます」


 齢2000年越えとは思えぬ素直さと愛らしさだ。

こんな愛らしい少女が、あのおかしな預言をしたなんて、やっぱり実感が湧かなかった。



 アデラインとペロ、第一王女ハイディは、それぞれ馬車に乗り込み、出発する。

パカパカと馬がゆっくり進み始めた。



 「勇者殿、怖くはないか」


 ジェラルドの気遣う声に、セナは弾んだ気分が抑えられそうになかった。

何せ、外を馬で歩いている!



 「はい!楽しいです」

 「では、速度を上げてみるか?」


 ジェラルドの提案に、セナは思わず振り返る。



 「ジェラルド様、最高!」


 「口を閉じておきなさい」



ジェラルドはふっと口角を上げて、目を細めた。

セナは言われた通りに口を結ぶ。

徐々にスピードが上がり、セナは初めて風を切って走った。







イメージ:騎士団長ウェントワース

挿絵(By みてみん)

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