02-12:風に吹かれる風見鶏
騎士の訓練敷地は城外にあるらしい。
セナは、評議室から出されたと思うと、あれよあれよと革張りの馬車まで案内され詰め込まれた。
(騎士の面接なんかしたことないよ…。
しかも履歴書は? マニュアルも質問事項もなし!?)
移動し始める車の中で、俯いたセナはぐるぐると思考が巡る。
一切の準備をさせてくれないことに文句を言いたくなったが、ふとスマホ(スマートホルダー!)の存在を思い出した。
顔を上げて、唯一の同乗者であるペロを見る。
「……ヤバい。私には大精霊にして最強の白いモフモフなティラノ神がいる」
目がバッチリと合った、対面に座る白いモフモフは、
セナの言葉に嫌な予感がしたのか、顔をしかめた。
「急になんだ? キモいぞ!」
聞き捨てならない単語が出て来たが、セナは無視して続ける。
「騎士のステータスさえ分かれば、履歴書なんかいらないことに気づいた。
基準を設定して、表示できるようにしてくれない?」
セナは腰ベルトに結んでいたスマホを手に取り、ペロ作『レベル・アップ・デイズ』アプリを開く。
きっと、ペロは何とかしてくれるはずだ。
なにしろ以前に他人のステータスを見たいと言った時とは状況が違う。
「ムリ」
ペロは、ひどいことに即座に一刀両断した。
「なんで」
「測定対象者の魂基配列が分からん。
魔法士ならともかく、それ以外は割り出すのも時間がかかるんだ!
お前、魔法で何でもできると思ったら大間違いだぞ!」
ぴっとモフモフの可愛い指を向けられた。
更にペロは半目でセナを見て来た。
「だいたい、人の体力テストや心理検査結果を無断で取得していいのか?
個人情報~、よくないんだ~、悪いんだ~」
変な節をつけて歌い出すペロに、セナは言葉に詰まった。
確かに、同意なしに能力や人柄の数値を覗き見るのは良くない事かもしれない。
けれど、セナは悪用したり、噂話を流したりなんてしない。
納得はまだしてないけれど、北上するための人員確保であって―――。
そう内心で言い訳を連ねたところで、
スマホからピロンとステータス変化の通知音が鳴った。
運動後でも読書後でもない。
不思議に思いつつも白い筋が入った薄い石英画面を見る。
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ステータス変動
道徳が下がりました。
統率が上がりました。
称号『組織と個人の風見鶏』を取得しました!
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「余計なお世話!!」と叫ぶのを、セナはなんとか耐えた。
そうこうしている間に、訓練敷地へと到着したらしい。
馬車が止まって後方の革カーテンが捲られると、媚びるような猫撫で声がした。
「麗しい勇者殿、到着だ。お手をどうぞ」
ゾワッと悪寒が背筋に走る。
セナが声の方へ目を向けると、チャラチャラした王子ハワードがいた。
気取ったように撫でつけた水色の髪に、黄土色の垂れ目。
長衣に外套、アクセサリーも上等なはずだが、どうも浮ついている雰囲気がある。
「……ど、どうもありがとうございます」
セナは微笑みつつ、王子ハワードの手に自分の手を重ねる。
地面に足をつけると、驚くことにそのまま手を繋がれた。
(……誰にでも、お手て伸ばしていいのは赤ちゃんまでなんだけど…?
この国ではこれが普通なわけ?)
思い返してみれば、ウォルター老やジェラルドたちゼラート魔導都市国家の彼らも下車時にエスコートしてくれたが、不躾にそのまま手を繋いだりはしなかった。
けれど、セナはルミア王国の作法を知らない。
こういった時に、取れる方法は一つしかない。
セナはにっこりと微笑んで、ぎゅっとチャラ王子ハワードの手を一瞬だけ握り返した。
「王子殿下、ありがとうございます」
王子ハワードは一瞬握り返されて驚いた顔をしたが、すぐに口角を上げた。
「このようなことは当然だ。勇者殿の安全は私が保証しよう。
あなたに薦めたい騎士がいる」
「はい。推薦してくださる騎士様にお会いできるのが楽しみです。
それでは、私はフィア様のところに失礼してもよろしいですか?」
「……あ、あぁ」
一瞬、何を言っているのか理解が追いつかなかったような顔になった王子ハワードだが、脳みそは生きていたらしい。
セナの手を早々に離した。
(……アー、手ぇ洗いたい)
セナは王子にもう一度にっこりして、
フィアやアデライン、ジェラルドがいる方へ向かった。
「ふふ、セナ様。どうぞ、フィアと呼び捨てて気軽にお話ください」
フィアは、セナが入れるようにスペースを空けてくれる。
セナは、ありがたくそのスペースに入り込んだ。
国王と宰相ラッセルは評議室でやることがあるからと別れ、
奥方に追い出される予定の軍務長官アクロイドは体調不良で場を辞した。
そのため、騎士団長ウェントワースという、くすんだ青緑の髪をした壮年の男が引率役らしい。
彼に案内されつつ、セナは騎士の訓練敷地に入った。
門を越えると、広い敷地と木造長屋が見えてきて、
野太い声が方々から聞こえてきた。
「間合いが甘い!」
「押せ!脇を締めろ!」
二人一組で剣の打ち合いをしている者もいれば、人に見立てているのだろう丸太に切りかかっている者、槍を構えて型の稽古をしている者。
いくつかのグループに分かれて、それぞれ訓練をしているようだった。
大半は男性だったけれど、2割に満たないほどの女性も混じって同じように訓練していた。
(……声こっわ…)
荒事と無縁のセナは、飛び交う指導の怒声に油断すれば震えてしまいそうだ。
(……実際、命のやり取りするんだから当然なんだろうけど。
これ見てどうやって選べって?)
長閑で平穏な世界にいたセナには、完全に場違いのように思えた。
村人は田畑や家にいるものであって、
間違っても軍事施設になんて放り込んではいけない。
「我が国の騎士はいかがかしら、勇者殿」
得意げに笑う第一王女に、セナは笑顔を向けたまま固まった。




