02-9:異界文化と、再び…!
セナ達は、城の外庭に移動した。
「ぃようし!始めるぞ!まずは竈を組むんだ!」
ペロは2人の使用人に指示を出し始める。
セナもペロを手伝ったけれど、途中で「もういい」と追い払われる。
やることがなくなったセナは暇になって、周囲を見回した。
ルミア城の外庭は、無造作に草花が生えていたり、耕した畑のような一角もあった。
そこには、ダイヤの形の実が風もないのにくるくると回っていたり、花が勝手に開いたり閉じたりするもの、葉が何本もの竹串のような形で、1本1本が振り子のように動いている奇妙な植物まであった。
セナは何度も目を瞬かせながら、その不思議な一角を見つめる。
すると、ちょうどのっぽの男性使用人が畑を通った。
その時、オレンジ色のユリのような花が液体を使用人に飛ばした。
飛ばされた液体は使用人の腕にかかり、周囲の植物たちが、まるで満塁ホームランが出た球場のようにガサガサ、ピーピーと一斉に騒ぎ出す。
のっぽの使用人は肩を竦めて、「またか」というような顔で通り過ぎて行く。
こんなのありえない!
セナは、叫びたくなった。
今度は背後で、何かゴトゴトと音がし始めた。
一体次は何だと振り返ると、テーブルと椅子が何人かの使用人によって運ばれている。
「みなさま。精霊ペロを待つ間、よければゲームでもいかがでしょう?」
清楚な第四王女レジーヌが、盤を手にしていた。
「ゲーム…?」
「ああ、十二路か」
セナが首を傾げると、ジェラルドは懐かしそうな口調で呟いた。
アデラインとフィアも小首を傾げている。
何のことか分からないようで、知らないのはセナだけではないらしい。
「はい。144マスの盤上で、交互に駒を動かしながらカードを引き、
相手の駒や陣を取り、得点を競うゲームです。どうぞお座りください」
第四王女レジーヌがテーブルの方へ移動し、盤を置いた。
セナたちも後に続いて、ゾロゾロとテーブルまで歩く。
第四王女レジーヌに促され、セナは恐縮しつつ椅子に座った。
(…チェスみたいなものかな?)
盤を見てみると、チェスや将棋盤よりも多い升目の中に、湖や山のような地形が2マスに渡って描かれている所が4カ所あった。
第四王女レジーヌは、そのうち2カ所4マスを盤から外し、代わりに何も描かれていないタイルをはめ込む。
「地形タイルを進める駒は限られている。まずは駒と動かし方を覚えるのがいいだろう」
ジェラルドがセナの隣に座り、長い指で24個の駒を配置していく。
セナはその間、眼前に置かれた薄い木製の板が気になって一枚めくってみた。
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土地災害カード
F1~F5に暴風竜巻!
怒れるドラゴンの息吹にて、該当地域の陣地が破壊!
なんてこった!
城以外の駒はドラゴンに食われてしまった。
あんまりだ!
【得点 5点】
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なんてカードだ!
セナは気になりすぎて、もう一枚だけ板をめくってみた。
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増援カード
おったまげた!
我が陣営にはまだ使える奴が残ってた!
F~Hの6~8マス内に
騎士、探索士、兵士の
いずれか1駒が復活。
※相手の駒がある場合は使用不可。
【得点2点】
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セナは、これがチェスと人生ゲームのような組み合わせの盤上遊戯だと予想した。
頭脳戦でもあるし、運要素もかなりありそうだ。
「その札は、5ターンごとに両者が一枚ずつ引くんです。
では、一緒にやってみましょうか?」
「ぜひ」
第四王女レジーヌの誘いに、セナは腕まくりをする。
まさか異界のボードゲームをするなんて!
セナは楽しくなってきて、ジェラルドと自分側に並ぶ黒い駒を見つめた。
セナたちは、『十二路』ゲームを1対1や2対2で楽しんだ。
セナはアデラインに勝ったけど、フィアにはアッサリと負けた(彼女はカード運が強すぎる!)。
ゲームでひとしきり遊び、昼食も食べ終わって随分と時間が経つのに、まだペロの作業は終わらない。
庭には、石積みの即席かまどが3つ作られ、ペロがパンを食べながら大鍋の中をぐるぐると棒で掻き回したり、作業台で火花を散らしたりしている。
手伝いを申し出ても「いらん!」と突っぱねられるので、セナは見ていることしかできない。
一緒に待ってもらうのも申し訳なかったので、ゲームの礼を言って解散したけれど、護衛だからとアデラインとジェラルドはその場に残ってくれていた。
「精霊ペロは何してるのかしらねぇ。はい、どうぞ」
背後から、のんびりとしたアデラインの声がした。
石段に腰掛けていたセナが振り返ると、アデラインが隣に座って包みを差し出してきた。
「これは?」
包みを開くと、金平糖のような形の赤い実が入っている。
ちょうどサクランボくらいの大きさかもしれない。
「差し上げるわ。お口に合うといいけど」
アデラインに勧められて、一つ取って食べてみる。
食感はドライフルーツのようなのに、甘酸っぱい果汁が口の中に広がる。
「美味しい!イチゴのような…? キウイのような…」
「ティリアの実よ。気に入ったかしら?」
「初めて食べる味…。ありがとう、アデライン」
セナは初めての味に浮かれて食べていたが、ふとマナの流れをまったく感じられないことを思い出した。
アデラインに向き直る。
「あの…、アデライン。マナの流れを感じるコツがあれば、教えてほしくって…」
「そうねぇ…。胸の奥から湧き出でる力を感じない?
こう、何かが渦巻くような、何かが動く感覚は?」
アデラインが大真面目な顔で言った。
残念ながら、セナには一切感じないので首を横に振る。
新たな宗教の怪し気な儀式の説明をされているようだ。
「勇者殿、自らの血の巡りを感じることはできるか?」
今度は背後から声が飛んできて、
セナは振り返り、立っているジェラルドを見上げた。
いつ背後に居たのだろう。まったく気配がなかった。
「……血の巡り、ですか?
…いえ、脈は分かるんですけど、全身と言われると…」
これで終了のお知らせを言い渡されたら最悪だ。
セナは、ジェラルドがそう言いださないか心配になった。
「……そうか。魔法は、マナの流れを感じる事から始まる。
特に木、火、水のマナの流れは感じやすい。
勇者殿も、風や水の流れを感じる事から始めるべきだが…」
ジェラルドが、アデラインとアイコンタクトを取る。
「何事にも抜け道というか、奥の手というか…。あるのよねぇ…」
アデラインが美しい紫色の髪を払いながら言った。
「うわぁあっ!精霊様、貴重なマナ石に何傷をつけてるんですか!」
「うるせぇ!お前にCPUとか説明してもわかんねぇだろ!魂基配列認証システムを追加してんだから黙ってろよ!」
ペロたちが騒がしいが、セナは気にも留めずにゴクリと生唾を呑む。
「やってみるか? 勇者殿」
と、ジェラルド。
「私も一度、幼少時にお師匠様にやられたけど、アレは二度と経験したくないわね」
と、顔を顰めるアデライン。
ここで、即座に頷くのが『勇者』だろうが、
勇気の値が高くないセナは即答できるはずもなく、ビビりながら二人に尋ねた。
「あ、アレってなんです…? 痛いのと怖いのはちょっと」
「それは心配ないわよ。痛くも怖くもないから。……ただ、気持ち悪いだけで」
アデラインが嫌なことを思い出したような顔をした。
「気持ち悪い…?」
乗り物酔いのような気持ち悪さか、
はたまた食べ過ぎて気持ち悪い方のそれなのか、セナには予想もつかない。
「強制的にマナというものを感じることはできるが、それは他人からの一方的な刺激によるもの。自分で感じることとは別の話になる」
ジェラルドが腕を組むと、アデラインが続けた。
「やってみて為になった魔法士もいれば、そうでない魔法士もいるわ。
ちなみに私は後者だった」
セナは腕を組んで考える。
やって為になるなら、やるべきだ。
未知の体験に二の足を踏んだが、セナは意気込む。
「やります。お願いします」
だって、気持ち悪くなったところで一生に一度しかない経験かもしれない。
もしこれで上手くいけば、誰かに風呂の湯を頼む気まずさはなくなり、シミやシワともおさらばだ!
それに、なにより魔法が使える。
ジェラルドが、セナに手を差し出す。
セナは意図を察して、覚悟して、そっと大きな手に自分の手を重ねた。
「平気よ、セナ。肩の力を抜いて」
「オッケー…、リラックス…」
アデラインのアドバイスに従い、セナはゆっくりと深呼吸をする。
「おい、ちゃんとフィットするように木を切れよ!」
前方にいるペロたちがギャーギャー煩い。
でも、セナの鼓動がドキドキと大きく鳴るせいで、それどころではなかった。
心臓を宥めるように、セナは目を伏せて深呼吸を続ける。
次の瞬間だった。
指先から点滴を入れられたような感覚がした。
「っ!!」
冷たい点滴が一瞬で全身を巡るような感覚にゾワリと鳥肌が立ち、ジェラルドの手に置いていた自分の右手を反射的に引く。
悪寒でセナは身体をブルッと一瞬震わせた。
それから胃に収まった昼食が、今にも飛び出してきそうだった。
セナは、すぐに手で口に蓋をする。
「セナ、できたぞ!」
ペロの嬉しそうに弾んだ声が聞こえてきた。
「よ、よかったね…。ちょっと今、気持ち悪いから後にしてくれる…」
セナは俯き加減で言った。
すると、ペロが更に声を張り上げる。
「後も明日もあるか! 見ろよ、このスマホを!!」
「はぁ…?」
聞き捨てられないワードに、セナは顔を上げる。
ペロが手に持っているのは、画面が透明ではなく少し白みがかかっているが、形はまさしくスマートフォンだ。
ビックリしすぎて、気持ち悪さがどこかへ吹き飛ぶ。
「ほれ、タップしてみろよ」
ペロに差し出されて受け取ってみる。
重さもセナが持っていたスマホとそう変わらない。
だけど、背面はガラスやアルミではなく木製で、画面は薄い石英でできているようだった。
ペロに言われて石の筋模様がそのまま入った画面に指を置くと、滲んだ文字が浮かび上がる。
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魂基配列を認証しました
✔
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なかなかに画素が粗い。レトロなゲーム画面みたいだ。
メニュー画面には、16:39と時計が表示されていた。
メモ帳と、ペロが作った『レベル・アップ・デイズ』のアイコンが入っている。
横にスライドしても、他アプリは無いようだ。
「スマートフォン?」
電話もメールもSNSもない。アンテナどころか圏外表示もない。
セナはペロを見上げると、ペロは胸を張って言った。
「名付けて、スマートホルダー!略して、スマホ!
アプリ内に辞書もつけておいたぞ!」
「わぁ…ウレシー」
セナが棒読みで言った直後、
忙しない複数の足音と鎧がガチャガチャと当たる音が響いた。
「騒がしいわね」
アデラインの一言の後、
カンカンカン!と、まるで警報のような鐘の音が城内の少し遠くから聞こえてくる。
そのせいで、辺りが不穏な空気に包み込まれたかのようだった。
セナは不安になって鐘の方へ視線を向ける。
その音が何を意味するのか、セナはまだ知らない。




