↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
≪第十部≫ウンディーネは宵闇に惑う ーモデル編ー  作者: 咲佐きさ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/31

第二十九話

 ジャアジャアと水が流れていく。洗面所の床にへたりこんだセデュイールはぐったりしている。慣れねえ酒を飲んで一芝居ぶちかましたためだ。退院してから日も浅い。だが今日が絶好のチャンスだったんだ。セデュイールの親父さんの弟が、あの憎ったらしい製薬会社のCEOと会食するってんで、なんとか都合をつけてもらって、俺たち二人で準備したのだ。

 そんで、計画は上手くいき、セデュイールは飲んだ酒を全部吐いてグロッキーになってるってわけだ。酒に弱すぎるのも憐れなもんだ。

「飲んだ振りはできなかったのか? 芝居は得意だろうがよ」

「…酔ったほうが…効果があがる…」

「なんの?」

「……」

「あー誘惑の?」

「私ももう、32だ…靡かれない可能性もあったから…」

「まーお前オッサン受けいいからな、あんまし心配してなかったけどな、俺は」

「…無様なところを見せた。忘れてくれ…」

「今更だろうがよ、それはよ。まー俺はクローゼットん中で笑い堪えるのが大変だったが」

 軽口に紛らせ言ってやると、セデュイールは不機嫌そうに眉を顰める。

「ルーには絶対に言うな」

「……」

「言うなよ?」

「……」

「おいこらバロット」

「へっへっへ」

「気色の悪い笑いをやめろ」

 力の入っていない手でセデュイールに小突かれ、俺もやつの脱力した身体を小突き返す。ともかく計画は上手くいった。後のことはセデュイールに任せよう。細々した交渉仕事は俺の得意分野じゃねえ。ボディガードとして、荒事の得意じゃねえコイツを守ることはしてやるが。

 ルーシュミネさんに今度のことを話したら、きっとあの人は自責の念を感じてまた落ち込んじまうだろうから、するつもりはねえ。

 けどまあ、セデュイールを揶揄うのは面白いので、俺は思わせぶりな態度をするのだった。




 タブロイド紙によってテイラー氏の悪行が暴かれたのは、僕がセデュのところに帰ってから、2週間後だった。芸能界の不祥事に続いて政財界の不祥事だって言うので、世間は大いに賑わった。俳優S氏の告発というていで記事は進み、他にも被害に遭った男の子たちの証言も載せられ、被害者たちは団体を作って彼を訴えるつもりらしい。

 W…製薬会社はCEOの身分をテイラー氏から剥奪し、今や世間の怒号は彼に向けられている。

 オービットさんは、テイラー氏とはもう切れたらしい。

「新しいパトロンを探さなくっちゃ。もっとマトモな、良識のあるいい男をね!」

 というのは、彼の談だ。

 

 そうして、僕はまたセデュと暮らしている。性懲りもなく、彼の好意に甘えている。

 彼の妹さんには酷く嫌われてしまったけれど、彼のお母さんにも、認められてはいないけど、僕はセデュといる。

 千切れそうな赤い糸を何度も繋ぎ合わせて、それに縋って生きている。

 いつかほんとに、千切れてしまうその時まで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。