九十一話 取材
「おはようございます!」
「おはようございます」
スタジオに着き––––事務所かもしれないというか本当にどこだここ––––ドアを開けると、中にいた人に2人が挨拶した。遅れて、僕も挨拶する。
「お、おはようございます」
「はいおはよ〜、あ、君が」
「ええ」
「い、一ノ瀬 良夜です、よろしくお願いします」
「はーいよろしく〜」
椅子に座っているのは、ぽやぽやしたおじさんだった。
「10時から始めるから、それまでゆっくりしといてね〜」
「はーい!」
いきなり手持ち無沙汰である。リアルタイム徒然草(?)
「一ノ瀬君はこちらへ」
「あ、はい」
池田さんに手招きされ、一度部屋を出る。向かった先は、ソファや自販機のある休憩場所だ。
「何か飲みますか?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」
「そうですか」
僕らは並んでソファに座る。
「では、取材を」
「はい…………はい?」
取材?受けるの?聞いてないんですが!
「パンツの色は」
「あんたいきなり何聞いてんですか」
「……失礼。では、ブラの色は」
「いやつけてないですけどね!?」
「なるほど、ノーブラ、と」
「まてまて語弊がある僕は男だ!」
え、なにこの漫才?たった数秒でここまで疲れるツッコミないよ?
「あっ……」
「あってなんだよあって」
「い、いえ」
「…………ちょ、不安になるんで言ってもらってもいいですか?」
池田さんは黙ったまま視線を僕の下腹部あたりに向けた。え、マジで?窓。空いてる?
「…………いや閉まってるけど」
「い、いきなり変なところ触らないでもらえますか?」
「ごめんなさいねぇ!」
ってちょっと待ってもしかしてこれ取材内容だったりする?
「で、本題に入らせていただいても?」
今のは全部コミュニケーションだったのね。
「は、はい」
「––––ノーブラノーパンの一ノ瀬君は」
「オーケーそこから修正してもらおうか」
「す、すみません」
どうやらわかってくれたようで、池田さんは手元のメモ帳に何か書き込んでいる。
「どんな状況下でもノーブラノーパンの一ノ瀬君は」
「さらにひどくなってない!?男だしパンツは履いてるよ!」
「…………セクハラですか?訴えても?」
もうやだよこの人!
「まあ、今度こそ本題に入りますが」
「信用ならねえよ……」
「いかほどまでラジオで話題に出してもよろしいのでしょうか?」
本当に本題入ったね!最初からそれでお願いしたかったかな!
「あー……これといってダメなところはない、かな……?母さんとか学校とかに迷惑がかからなければ」
「では、次に」
ここが、爆弾だった。
「ラジオは生放送なわけですが、どれくらいイチャついてくれますか?」
「…………はい?」
「はい?」
いや『はい?』じゃねえんだよ聞いてねえよ生放送ってなんだよあとイチャつくってなんだよ真面目にやれよ!
「すみません一から説明していただいても?」
「チッ」
「えっ」
「どうかされましたか?」
「や、なんでもないっす」
怖いよこの人今舌打ちしたよ!
「…………先月からラジオは始まりまして、さまざまな方をお呼びして生放送という形で配信しているわけですが」
「はい」
「奈夢とゲストの方で毎度違うコーナーを一つ用意しているんです」
「それで、イチャつけと」
「わかってんなら質問しないでもらえます?」
「すみません」
…………あれ?なんで僕が謝ってんだ?
「はぁ…………それで、今回はいろんな事情の下、ただイチャイチャしながらお便り読んだりフリートークしていただくということになりました」
「それはそれでどうかと思いますけどね」
「うるせえ」
「すみません」
だんだん口が悪くなってきているのは、いずれやるぞという合図でしょうか?
「話を戻しますが」
一息ついて、池田さんは言った。
「六月ごろから、奈夢は変わりましてね」
話、戻りすぎ。
「多分あなたに会ったからでしょう。収録中もイキイキしていましたし、恋をしたからでしょう、モデルとしても少し色気が出たり、ファンからの人気も高まり…………なんですかあなたバフだらけじゃないですか」
知らねえよ、と言いたい。
「まあそういうわけで『じゃあその子連れてきたらめちゃ良くなるんじゃね!?けって〜!』みたいな三徹明けのテンションで決まりまして…………みんな三徹でしたね確かに」
スタッフの皆さん休んで?
「そんな経緯且つもっとくっつけろということで今回のコーナーになりましたので、それを念頭に置いていてください」
それで話は終わり、僕らは休憩所を後にした。




