七十五話 えっちしよ
「ああ゛……」
「お疲れさん」
ほんとだよ。んだよもうお腹タップタプだよあんなに飲ませたの誰だよそしてわかり切ってる犯人の二人はなんでそんなにご機嫌なんだよ!
そう、お店の外で一人虚しく愚痴る。
「つーか、長いこといたな、もうすぐ時間だ」
あと三十分ほどということを考えると、一時間半弱はいたか。さぞかし迷惑だっただろうな……
「先、トイレ行っとくか」
「うん……」
さっきお店でトイレに行っていた春原君をその場に残し、僕ら四人はトイレへ。
「なあ」
「ん?」
ちゃちゃっと済ませて手を洗っていると、同じく隣で手を洗っている翔太が低いトーンで話しかけてきた。
「…………いや、なんでもない」
「なにそれすごい気になるんだけど」
「…………どうする気なんだ?」
「どうするって、なにを」
「どうせお前のことだ、『僕は白撫さんが好きだけど小鳥遊さんから寄せられてる好意を無碍にはできない……どうしよう』って悩んでんだろ?」
え、なにこの人見当違いも甚だしいんだけど。
「別に悩んでないし、僕が女性と付き合えるなんて考えられないしそんな思考の翔太が気持ち悪いわ!」
「……………………そうか」
ブゥーン––––とハンドドライヤーが呻く。
「お前は」
トイレの出入り口で、翔太は顔を覗かせた。ただ、その目は何やら哀しくて。
「何にも変われてないんだな」
そう言って、出て行った。
「…………どこがだよ」
変われてないってなんだ?僕には全くわからない。一度はいなくなった友人だって少しだけど増えたし、勉強だって向き合ってするようになった。外によく出るようになったし、前よりも言葉数は増えた。笑顔だって増えたと思うし、普段の表情も明るくなった。
なのに。
「…………どこがだよ」
どこが変われてないっていうんだ––––
っていうかいきなりすぎるね。
「おーい良夜、早くしろー?みんな待ってんぞ?でかい方か?」
「あ、ごめん……」
僕を呼びにきた翔太は、さっきのような目じゃなくて、いつもみたいに、明るい瞳だった。彼は僕に何を訊きたかったんだろう。そう思いつつ、トイレを出る。
「遅れるぞ!急げ急げ!」
「…………そんなに急がなくても観覧車は逃げないと思うけどね!」
「ばっかお前観覧車が逃げたら大惨事だろ!面白そうだけども!」
「ごめんそれ僕も思った」
駆け足でみんなの元へ。
「かなり時間かかってたけど飲みすぎてムーンウォークでもしてたの?」
相模川さんが少し不機嫌そうにぶーたれる。
「残念だけど僕はれっきとした普通の人間だよ!逆にそんな人がいるなら見てみたいねってうまいなムーンウォーク!」
僕が途中まで言ったところで、すっすっと相模川さんがやってのけた。
「馬鹿なことやってないで行くぞ、わりとマジで時間迫ってきてんだから」
「はいはーい」
くるっとターンを決め、彼女は普通に歩き出した。
観覧車がどんどん大きくなってきた。これが逃げ出したら大惨事なんて言葉じゃすまなさそうだななんて思いつつ、受付から少し離れたところで立ち止まる。
「あー、四人が適正人数っぽいな」
「二人余るね」
「なら逆に三つに分かれていくか」
どうしようか、そうやって話していると、隣にいる翔太が耳打ちしてきた。視界の端で相模川さんも白撫さんに耳打ちしている。
「(パーだせよ)」
「え?」
「よーしさーいしょーはグー!」
いきなりすぎるね!?えっと、パーだっけ!?
「じゃーんけーんぽんっ!」
グーチョキパー、全て二人ずつ。
「えっと……俺と、悠人」
「私と、白撫さん!」
「僕と、相模川さん?」
えっなにこの組み合わせ。
「まっまままままあ行こうぜ!ここでたむろしてても邪魔になりそうだしな?」
「そっそそそそうだね!」
なんでそんなに顎がガクガクしてるんだよ。
「ほらほら、行こうぜ!」
なぜか急いで受付に向かう翔太を追いかける。
「良夜、わかってるね?」
「なにが?」
隣にいる相模川さんからそんなことを言われる。申し訳ないけど全くわかってないぜ!
「っはあ〜……」
「何その反応」
軽く反応して、前を向く。視線の先では、白撫さんと小鳥遊さんが観覧車に乗り込んでいた。
「じゃ、僕たちも行こうか」
「そっすね」
あれ?さっきまで楽しそうにしてたのになんでいきなりそんな淡白に?…………僕とは乗りたくなかった感じか…………
「お気をつけくださーい」
相模川さんが座り、僕もまた正面に座る。
「おお……登ってくね……」
「なっ、なんか怖くなってくるよ」
ちょっと腰を引かせて、言葉通り怖がる相模川さん。
そんな彼女を見て笑っていると、だんだん遠くまで見えるようになる景色にいつのまにか目を奪われていた。
そんな僕たちが乗るゴンドラが観覧車を時計のようにみて十時あたりまで登った時。
––––ぷち、ぷちっ、ぷち。
なにか、軽い音が聞こえた。
「今、何か……––––––ッ!」
「……ねぇ、良夜…………」
僕が体ごと振り向くと、次の瞬間に相模川さんは対面して僕の膝の上に乗り、顔を近づけてきていた。さっきの音は、シャツの上の方のボタンを取った時の音。その証拠に、彼女の胸元は緩くなっており、チラチラとブラジャーが見え隠れしていた。
「私とここで––––えっち、しよ?」
(´・ω・`)?




