第十二話 世の中
はじめまして、大森林総史です。
本能寺の変の黒幕って誰なんだろう?
そんな疑問から、歴史パロディを書いてみました。
宜しければ、お読みいただけると嬉しいです。
のだの前に、一人の武将が歩み出た。
「兄上」
その声を聞いた瞬間。
のだの顔色が変わった。
「オブカツ……」
見るなり、のだは地面へ額を擦り付けた。
「すまぁぁぁん!」
コヨミが呆れる。
「あなたって土下座してばっかりね……」
「なにを!?」
のだは反論しかけたが、すぐに力なく笑った。
「……いや」
「それだけ悔いる事ばかりだったのじゃ」
コヨミは、少し申し訳なくなった。
「ごめんなさい……」
オブカツは、優しく微笑んだ。
「顔を上げて下さい、兄上」
のだは、震える声で言った。
「まだ……兄と呼んでくれるのか……?」
「当然でございます」
オブカツは即答した。
「兄と慕う気持ちは、今も昔も変わりませぬ」
「おぶかつぅぅぅ!」
のだ、再び号泣。
勢いよく飛び付こうとする。
オブカツも両手を広げる。
しかし――
スカッ。
二人は綺麗にすり抜けた。
沈黙。
「……そうか」
「霊であったな」
のだが苦笑する。
オブカツも苦笑した。
「そういえばそうでした」
周囲から小さな笑いが漏れる。
---
のだは真顔に戻った。
「オブカツ」
「わしは……」
「そなただけは、斬りたくなかった……」
オブカツは静かに首を振った。
「いえ」
「あの状況では、どちらかが討たれるのは仕方ありませぬ」
「そして、のだ家の事を思うならば、兄上が生き残った方が良かったのです」
のだは俯く。
「もし……」
「わしがうつけなどと、呼ばれておらなんだら……」
「家督騒動など、起こらなかったやもしれぬのに……」
オブカツは問い返した。
「仮にそうだったとして」
「私が生き残っていたら、桶狭間で勝てたでしょうか?」
のだは、即答した。
「あの戦いは勝った事が奇跡じゃ」
オブカツは頷く。
「その通りです」
「ヨシモト殿(今川義元)に、隙が無ければ負けは必至」
「ならば我らは、二人とも討たれていたでしょう」
「ならば、どちらかが生き残った方が良かったのです」
---
その話を聞きながら、モトナリが呟く。
「桶狭間か……」
「名高い戦じゃのう」
「のだ殿も大博打を打った」
「わしらの厳島もそうじゃ」
ツネヒサも頷いた。
モトナリは遠くを見た。
「もしヨシタカ殿がご存命であれば」
(大内義隆:陶晴賢の主君だが、謀反を起こされ自害した)
「厳島の戦いも無かったやもしれぬ」
「ハルカタ殿(陶晴賢)の心境は分からぬが……」
「謀反を起こして、正常な精神でいられる者などおるのかのう⋯」
タカモト。
モトハル。
タカカゲ。
皆、神妙な顔になった。
---
オブカツは続けた。
「私も兄上と、争いたくはありませんでした」
「ですが」
「個人がそう思っていても」
「組織が対立すれば、そうもいきませぬ」
のだは深く頷いた。
「その通りじゃな」
「そして戦いに勝ち、生き残り、勢力を広げた」
「皮肉なものよのう」
のだは、空を見上げた。
「わしは、戦国の覇者になりたい気持ちを否定せぬ」
「じゃがな」
「それよりも」
「オブカツと仲良く暮らしたかった」
静寂が訪れる。
「しかし、乱世がそれを許さぬ」
「わしら戦国武将であろうと」
「世の中には逆らえぬのかもしれぬな……」
---
オブカツは優しく微笑んだ。
「ですから」
「為政者は、しっかりせねばならぬのです」
「兄上は、苛烈な面もありました」
「ですが、乱世の主君としては間違っておりませぬ」
「もし平和な世であれば」
「兄上は、平和主義の主君であったと、私は信じております」
「私は、兄上ほどの器はありませぬ」
のだの目から涙が溢れる。
「オブカツ……」
「私はもうあの世へ参りました」
「せめて、今は和解しとうございます」
「ありがとう……」
「ありがとうございます……」
---
そこへナガマサが進み出た。
「兄上」
そして――
土下座した。
「裏切ってしまい、申し訳ありませんでした」
のだは慌てた。
「顔を上げてくれ」
「事情を聞かせてくれぬか」
ナガマサは苦しそうに話し始めた。
「家臣を抑えられませんでした」
「アサクラ殿も⋯」
(朝倉家。浅井家とは長い間、同盟関係にある。だが、織田家とは敵対している)
「私の器量不足です」
「しかし、裏切りは裏切り」
「申し訳ございませぬ」
のだは、静かに言った。
「今なら分かる」
「わしもお主の立場ならば、裏切っておったやもしれぬ」
「生前の事はもう良い」
「こうして再び会えただけで充分じゃ」
ナガマサの目に涙が浮かぶ。
「兄上……」
---
少し間を置いて⋯
「おイチは息災でしょうか?」
(お市の方:ナガマサの妻、信長の妹)
「息災じゃ」
のだは微笑んだ。
「娘達も元気じゃよ」
(長女、茶々をはじめとする3人の娘、茶々は後の淀君)
ナガマサは目を閉じた。
「それは良かった……」
のだも遠くを見る。
「お主はマンプク丸を人質に取られておったな」
(万福丸:浅井長政の息子、敵対の末、幼くして亡くなった)
「……はい」
「せめてあの子だけは生かしたかったのですが……」
のだは静かに頷いた。
「ヤス(徳川家康)も今川家の人質であった」
「一つ違えば生きておらなんだかもしれぬ」
ナガマサも頷く。
「乱世は、誰かが終わらせねばなりませぬ」
「身も心も削り爆進した兄上の心中、お察し申し上げます」
「ナガマサ……」
「ありがとう」
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その時。
ヨッチャンが静かに口を開いた。
「時間じゃ」
「名残惜しいが、そろそろ別れの時じゃな」
一同が頭を下げる。
「公方様」
「本当にありがとうございました」
ヨッチャンは苦笑した。
「将軍職を失ってから」
「武家の頭領らしい事が、出来たのは皮肉なものじゃがな」
全員が顔を上げる。
「公方様……」
ヨッチャンは空を見上げた。
「組織とは難しいものよ」
「いつの時代もな」
コヨミは呟いた。
「これが……組織……」
あの世の者達。
現世の者達。
別れを惜しみながらも。
どこか晴れやかな顔をしていた。
そして、のだ達の旅は次なる地へ向かう。
武田の遺臣。
戦国屈指の謀将。
サナダマサコの待つ地へ――。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次話は9/4 20:00に投稿予定です。
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