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少年、厳ついおじさんに詰問され涙するも激励を受ける

男塾に出てくるようなキャラを出したかったのですが大丈夫でしょうか?

 呂尚はしょうむらの竪穴まで送ると、付き人を屋敷へと走らせた。すると妻のしゅくが血相を変えてやって来て、


「なんだい、急な話だね! 前のかみさんのお兄さんって、あんたが私を娶りましたって言いに行ったら、殴られて帰ってきた、あの怖い人だろ?」


と言った。呂尚は、まいったなと白髪混じりの髪を掻きながら義兄をかばう。


「あれは挨拶みたいなもんなんだ。俺が鯨面文身げいめんぶんしんになってたから、びっくりしたって云うのもあるからなあ。まあ大目に見てやってくれ。向こうも大目に見てやるかと思ってることだし」


彼はそう言うと、人目もはばからず妻・祝の豊かな身体を祭祀の長い衣でくるむように抱きしめた。


「こら!! 何を考えてるんだ、人前で!!! 離せ、このバカタレが!! ああ、恥ずかしいったらありゃしない!!!」


祝は呂尚の腕から逃れようと、相手の顔へ自身の拳をめり込ませた。


「お前への思いが深くなれば深なるほど痛くなるのは、どうしてなんだ?」

「知るか!!!」


と祝は、おかんむりである。さっさと行けと蹴られてしまった。しかしこれで堪える呂尚ではない。


「愛しの妻よ、キョウを呼んでくれ。兄者に顔を見てもらおう。同じ姜族なら、見覚えがあるかもしれん」


呂尚は祝の後ろ姿に声をかけた。彼女は振り返らなかったが、すぐに後からキョウが杖を突いて屋敷の裏口から出てきたので、しっかりと耳の内に夫の声を入れていたとみえる。のんびりとしたやり取りを楽しんでいた呂尚はその実、余程、急いでいたのか付き人にキョウを担がせて、あっという間に馬車の立ち台へと乗せさせた。

 馬のくつわは付き人が持っている。呂尚は邑の出入り口の正面に立つと、旅の神へ祈りを捧げ、その場で足を跳ねさせて軽く舞う。両足が地に帰ると踵を返して、ふわりと馬車へ乗った。


 「キョウ、揺れても掴まる所が綱しかないんだ。子供のお前は、うずくまって居たほうが良いだろう」


呂尚は、馬の轡から伸びる多くの綱を手に束ねて言った。キョウは言われた通りに杖を支えにしてしゃがんだが、


(馬を操るのが尚父さまで良いのかなあ)


と子どもながらに思った。本来は、御者が馬を操り、その隣に主人が立つものである。




 馬の尻尾が大きく揺れだした。もうすぐ出発する事が分かるのだろう。身体から出ている湯気が一段と増した。


「行け!」


と呂尚は、蒼天のもと声を上げた。ブルルル、という嘶きと、身体から発する湯煙と共に、二頭立ての馬車が動き出す。尻尾が振れ、馬の尻は、巨大な筋肉の塊がふいごのように伸縮した。がたごと、と揺れはすこぶる大きい。キョウは何度も恐怖に襲われ目を固く閉じた。

 傍で呂尚の付き人が二人、馬車を挟んで小走りで付いてくる。がくん、と片車輪が雪泥に深く潜ったが、付き人が手際よく轡から馬を引き、またもう一人は、後ろから立ち台の背面を両手で押した。ブルルル、と喜びの声が雪原に響き渡る。



 やがて揺れが小さくなった。雪の積もりが浅くなってきている。


「道に出たな」


と呂尚は呟いた。馬の足が速くなるのを幾重もの綱で抑えつつ、彼は懐かしい妻のさとを目に浮かべた。長居は出来ない。義兄と話して直ぐにむらへ帰らなくては。いついくさに巻き込まれるのか分からないのである。

 白髪交じりの髪が風になびいた。祭祀人は呪術師と同じく髪を結わない。足元でキョウが杖を抱えて震えている様を見て、気の毒な、とも思ったが、同時に


初心うぶな奴だ)


と雛鳥を両手に包み込んでいる気持ちになった。




 西に行くにつれて日が高くなり、雪がますます減ってきた。二頭立ての馬車と従者二人はなおも行く。

 海辺の邑から薄姑はっこまで片道七里(二十八キロ)から八里(三十二キロ)である。一日がかりの旅であった。

 やがて辺りが夕景に染まりはじめた頃、遠目に牛の群が茶色く見えて来た。白い息と体中から発する湯気をもうもうと上げている。牛たちは、枯れ草をめいめいにんでいた。

 呂尚は人を探しているのか首をあちこちに回す。日が落ちる前に見つけなければならない。


「牧人が近くに居るはずだが……」


そう口にした直後に、付き人が


あるじ様、左手のほうに!」


と声がかかった。牛にまぎれて、毛皮を着た男が立っている。大柄だというのは一目で分かった。キョウは車輪から跳ねた泥にまみれており、目をつぶっていたので男の姿を見ることが叶わなかった。


「兄者よ!! かく大兄たいけいよ!」


呂尚の声がキョウの頭の上から響き渡る。馬車を停めようと綱を引いたが、馬は牛の群に戸惑っているのか容易に止まらなかった。

 かくと呼ばれた男が、夕日を背にのしのしと近寄ってきて、馬の轡を付き人からもぎ取る。すると怯えていた馬はぴたりとおさまって静かになった。

 男は、台形を逆さにした毛皮の帽子を被り、額の上にくる帽子の中央に鳥の尾羽根を付けていた。顔は日に焼けており、四角く、眉も目も鼻も口も顎も、何もかも大作りであった。


「ぬう……、尚弟しょうていか。相変わらず、ぶん殴りたくなるつらをしてやがる」


かくは口にしたが、僅かに頬が緩んでいる。


「いや、これ以上はどうぞご勘弁を。散々殴られています。ぐらついた歯が抜けまして、それからどうも顔がゆがんだように思います」


呂尚は笑いながら言い、馬車から降りた。四角い顔のかくは付き人に轡を返し、


鯨面げいめんの真っ黒なつらじゃあ、何がどう歪んだのか、分かりゃあしねえ」


と言った。彼の内で怒りはおさまっていない。妹が死んで三年も経たぬうちに後妻を娶った呂尚を。それを伝えに来た呂尚の顔が鯨面げいめんで真っ黒になっていたことを。


「また、ろくでもない事を言いに来たんだろう」


「流石、兄者。何もかもお見通しですな」


「これで三度目だ。突然、俺の前に現れて、ろくでもない事をお前が口走るのは。一度目は妹を娶りたいと言った時。二度目は後妻を取りたいと鯨面になって来た時。三度目は何だ? ようの身に何があったのか? 力づくで、どうにかしろって、言うんだろ?!」


「ああ、ご先祖様。血の巡りのよい、義心に満ちた兄を、不肖の私に賜わり、ありがとうございます」


「山の神よ、なぜ私から妹を奪った? この口先だけの男の手に引かれて、連れて行かれるのを黙って見ているしかなかった、わが身を呪うぞ」


「またまた、長兄のあなたが一番拳を振るったのを、忘れちゃいませんよ」


「父親から勘当されたのを黙っていただろう。知っていたら、殺してでも止めたものを」


「黙っていて良かった……」


とはいえ呂尚は、嫁取りに際して血だるまになっている。義兄たちが何度殴ろうが蹴ろうが土下座を辞めないので、ついにかくの妹が泣きながら、


「この人が死ぬのなら、私も死にます」


と呂尚の背に覆いかぶさり、黒曜石の小刀を、白い喉に突き立てようとした。肉親に対する脅しである。彼女は末娘だったため、老いた父親は、それですっかり折れてしまった。わが一族が敗北した日だったとかくは思っている。



 呂尚は義兄のかくに、南でいくさが始まっている、大戦おおいくさが始まるかもしれないという話を、新しく邑へ来た者が言っていると打ち明けた。


「何だって?! 人方じんほうの奴らが? そんな話、噂でも聞いてねえぞ。ちくしょう、騒ぎを広げたくねえから、あちこちで口止めしてやがるな。先代の王の人方遠征があったのは、十年……いや十二年前か。大人しくしてたと思えば」


「私は泰山たいざんに居て、遠征の話は聞き及んでおりましたが、大兄たいけいのように、身に迫った危うさを肌で感じていないのです」


「どうりで世間から浮いている訳だ」


世の中で、こうであるべきという規範が、呂尚に通じない事が多い。かくは苦い顔をしたが、泰山へ妹を連れて行ったお蔭で、いくさに巻き込まれなかったと思えば不幸中の幸いと言うべきだろう。


「私は泰山へ行って、人方じんほういくさが、どのように広がっているのか、商の小臣にお尋ねしたいと思っています」


(その黒い顔でか)


かくは思った。尋ねても答えてくれない気もするが、呂尚と泰山の繋がりの深浅しんせんまで彼は知らない。


「それで、私が泰山へ行っている間に、むらいくさに巻き込まれる事があれば、大兄に助けに来てもらいたいのです。邑から狼煙のろしを上げますし、使いの者も走らせます」


「一人で行ってたまるか。下の弟もだ。三人、皆引き連れて駆けつけてやる」


「ありがたいお言葉」


と呂尚は両袖へ左右ぐいちに両手を入れ、胸の前に掲げて、一礼した。


「……で、ようは、元気でやっているのか?」


かくは咳払いをして、そう聞いた。女きょうだいの子どもは、一族の跡目争いに関わらない分、手放しで可愛がれる稀有な存在である。


「お陰さまで、健やかに育っています」


「雨は十五、陽はとおだったな。雨はちゃんと成人扱いしているんだろうな」


「ハハハ、お会いすれば一目で分かります」


「嫌な言い方をしやがって。ということは相変わらず、知恵遅れのように、はしゃいで回っているのか」


「将来が楽しみで……」


呂尚が言い終わらぬ内に、角はガツンと頭を殴った。


他人事ひとごとのように言いやがって」


つつつ……、そうそう。兄者に見てもらいたい子が居るんです」


さあ、こちらへと、いざなわれたキョウは、馬車の立ち台(上蓋のない浅い箱)の隅に隠れていたが、どきりとして頭を上げた。髪と顔が車輪から弾かれた雪泥で汚れている。それは陰ってきた夕暮れの薄明かりの元でもはっきりと分かった。


「これは可哀想なことをした」


呂尚はそう言って、祭祀の長い袖でキョウの顔を拭い、髪も逆の袖できれいにした。祭祀の衣は絹である。かくは顔をしかめた。見れば杖を突いた、身寄りの無さそうな子で、その子の髪と顔の汚れを、何のためらいもなく絹で拭いたのだ。


ようが惚れたのは、これか)


と亡き妹を思い浮かべる。

 呂尚は義兄・かくの前にキョウを立たせた。角は、背の高い呂尚よりも頭一つ以上大きく、キョウは仰け反るように見上げる。すると角はキョウの頬を、皮の厚くなった手の平で掴み、首が抜けるかと思うほど、顔を上へ向かせた。落ちかけた薄日の中なので、よく見ようとして、やった事だった。

 茶色く波打つ髪、眼窩の深い目と鳶色の瞳、日に焼けては居るが、肌の色も黄色みが少ない。怯えたようにすぼむ唇は、ますます小さくなった。


「こいつが、どうした」


異人ではないかと角は思い、手をキョウの頬から離す。


「親きょうだいとはぐれた子で、姜族だと言うのですが、見覚えはありませんか?」


呂尚は、みなし子だと言わなかった。言えばキョウが傷つく。角は鼻から長く息を吐いて、


「知らんな」


と言った。姜族は多い。西の果てから東の果てまで、大小まばらに住んでいる。暮らしぶりも様々(さまざま)であった。狩猟で生計を立てる一族も居れば、農耕の民もいる。角は牧畜を生業としていた。


「父の名は?」


と角は問い詰めるようにキョウに聞く。少年は震え上がって何も言えなくなった。


「どうした、おしなのか?」


けいよ。この子は、自身の名も明かせない子です。深い訳があるようなのですが……」


「父の名も言えんようでは話にならん」


角の言葉を聞いたキョウは、自身が消し炭のようにこの世から吹き飛ぶ惨めなものになったと思い、涙を浮かべ、ぱたぱたと流した。


「ち、……父は、薬を、取りに行っていると、母は、言って、ました」


「薬などはどうでもいい。父の名は分からんのだな?」


角はキョウにとどめを刺した。ものごころ付いた時には、父は不在で、母にいつ帰って来るのかと問うたびに困った顔をされた事をよく覚えている。

 父親不明の子どもは、母親ともども後ろ指を差されて除け者にされるのが世の習いであった。望んでそうなった訳ではないにも関わらず。


「分かり……ません……ッ」


キョウはかくの目を睨みながら言った。それは自分の所為ではないと険しげに声を振り絞って。大人しい少年にとって、それは珍しい事であった。余程、悔しかったのだろう。呂尚は、この目であざみの棘を摘んだのかと思った。



 やがてすっかりと日が暮れてきたので、呂尚と付き人の二人、そしてキョウは、かくの張った天幕の一つに泊まることになった。夕食は女手おんなでが無いために、ごく簡単な煮料理になったが、角が客人をもてなそうと薄切りにした牛肉を持ってきた。それは共に煮炊きすると格別の味となり、主従ともども、旅の疲れを充分に取ることが出来たのだった。



 翌朝、呂尚とキョウが馬車に乗り込み、薄姑はっこを去る時が来た。城郭のあるゆうは、まだ先にあり、遠目に高い城壁がそびえ立つのが見える。姜族の中でもかくは、ゆうの内で寝起きすること無く、貴重な牛が盗まれないよう、牧人と共に邑の外で天幕を張って暮らしているようだった。


 「それでは大兄、どうぞお元気で。狼煙のろしで駆けつけてくださるとのこと、よろしくお願いいたします」


「うむ」


と角は、呂尚の言葉に答え口を真一文字にして頷いた。両馬が今か今かと発つ気でいる。蹄を幾度もかいていた。いざ我が邑へと呂尚が幾重もの綱を馬の尻に当てようした時、かくの野太い声が辺り一面に響き渡った。


「そこのガキ! 耳の穴かっぽじいて、よく聞きやがれ!! 俺の先祖は、遥か西に住んでいたが、人狩りに遭い、商人しょうひとに斉へ連れてこられた奴僕だった。いくさ大功たいこうを上げ、恩賞により奴僕の身から抜け出したのだ。お前もいくさこうを立てろ。それしか父のおらぬ身を立てるすべは無い!!」


キョウは、かくから突き放されたものの言い方をされたので、まさか激励げきれいを受けるとは思いもよらず目を丸くした。馬車の立ち台に杖を抱いてしゃがんでいたが、慌てて立ち上がる。


「ありがとうございます!」


「声が小せえ、何を言ってるんだ?!」


「ありがとう、ございます……ッ!!!」


杖を胸に押しつけたキョウは馬車の立ち台から落ちるのかと思うほど身を乗り出して、角へ礼を言った。


「兄者、なかなか粋なことをなさいましたな」


「うるせえ、雨に俺が来ると伝えておけ。首を洗って待ってろと言っておくんだ。陽は嫁ぎ先の話をするからな!」


どうやら角は、嫁入り支度まで手伝うつもりらしい。他家に余計な口出しをするなと妻女から叱られるだろう。呂尚は笑みを浮かべながら馬車を発たせた。



 付き人が二人、馬車を挟んで左右に駆けて付いてくる。健脚の彼らは使いの者としていくさが起こった時のために、邑へ置いて行かねばならない。呂尚が泰山へ行く時は、別の付き人を連れて行くつもりである。



 青白く絞るように染まる朝空の中を、白い大鳥おおとりが遥か彼方へと飛んでいく。呂尚は馬車を走らせながら白い息を吐きつつ、吉か凶かと思った。鳥は人の魂を運ぶとされている。どこかで死者が出たのか、それとも祖霊が導いているのか、誰にも分からなかった。

出来れば、男塾系のキャラに「やあやあ我こそは〜(以下略)!」と名乗りを上げて戦って欲しいと思っています。

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