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分岐  作者: りな


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黒川陽人

黒川陽斗は、

 自分が悪い人間だと思ったことはない。


 ただ、

 正しい人間だとも思えなかった。


 それは、

 昔からずっと変わらない。



Ⅰ.見ていただけの高校時代


 田中麗奈が壊れていく過程を、

 陽斗は確かに見ていた。


 挨拶が無視されるようになり、

 机の中が空になり、

 体育の後、頭から水をかけられた。


「冗談じゃん」


 そう言って笑う声。


 麗奈は何も言わなかった。


 陽斗は、

 その場にいた。


 でも、

 声は出さなかった。


 面倒に巻き込まれるのが嫌だった。

 自分の立場を失うのが怖かった。


 ――それだけだ。


大学は、無事に卒業した。


 何かを成し遂げた感覚はなかったが、

 失敗したとも思わなかった。


 今は、

 夜の町で働いている。


 ネオンは正直だった。

 誰も、正しさを求めてこない。


 いつものように常連の睦月が顔を出す

最近は高確率で同じタトゥーをいれた女性も一緒だ


消えない鎖のようにお互いに結びつけたタトゥーは

誓いでもあり、責任でもあり、愛でもあり

2人の関係は尊いとすら思えた。


数日後、

 昼間の大学。


 陽斗は、

 卒業証明書の再発行のため、

 母校を訪れていた。


 懐かしさは、

 ほとんどなかった。


 ただ、

 建物だけがそのまま残っている。


 学生相談室の前で、

 一人の男子学生が立っていた。


 俯いたまま、

 扉を見つめている。


 その隣に、

 白い服の少女がいた。


「悠」


 少女が名前を呼ぶ。


 悠は顔を上げる。


「……ましろ?」


 陽斗は、

 胸の奥がざわつくのを感じた。


 ましろは、

 “生きている人間の立ち方”をしていなかった。



Ⅳ.交差


「今日は、やめる」


 悠は小さく言った。


「夜が来るから?」


 ましろの問いに、

 悠は答えない。


 でも、

 それが答えだった。


 ましろは、

 優しく微笑んだ。


 ――優しすぎる。


 陽斗は、

 その笑顔に覚えがあった。


 誰かを包むための顔じゃない。

 離れられなくするための顔だ。



「見てるだけ?」


 背後から声がした。


 振り向くと、

 知らない女が立っていた。


 存在感が、

 妙に薄い。


「……誰ですか」


「杏樹」


 それだけ答えた。


 杏樹は、

 悠を一瞥して言う。


「夜、出たでしょ」


 悠は反射的に聞いた。


「……誰?」


「杏樹」


 それ以上は、

 何も教えなかった。


 ましろは、

 杏樹を見て、

 一瞬だけ表情を硬くした。


 ――分かっている。


 陽斗には、

 それが分かった。



 杏樹は、

 陽斗にだけ言った。


「止めなかった人はね」


 少し間を置いて、


「一生、覚えてる」


 責める声じゃない。

 でも、

 許す声でもない。


 杏樹は去った。



 知っている名前が、

 少しずつ消えていった。


 麗奈。

 光。

 栞菜。


 偶然だと、

 言い聞かせても、

 心は否定しなかった。


 陽斗は、

 今日も夜の町に立つ。


俺は何も知らない。

俺は何も見てない


必死に唱えながら



 ――何もしなかった人間も、

 物語の外には出られない。



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