瀬戸真奈
瀬戸真奈は、
久しぶりに夜の街に出ていた。
仕事帰り。
特別な用事はない。
ただ、
無性に外の空気が吸いたくなっただけだった。
——あの子のことを、思い出したから。
日向灯。
昔、
自慢の親友だった。
人気者で、
成績も良くて、
「いい子」で。
でも、
ある日から壊れた。
理由は、
真奈は知らない。
知ろうとしなかった。
⸻
ネオン街の端。
大型ビジョンにニュース速報が流れている。
少し離れた場所で、
遠い目をした男性が立ち尽くしていた。
「……俺は何も知らない」
そう呟いて、
爪を噛む。
「陽斗! 仕事戻るぞ!」
呼ばれて、
はっとしたように顔を上げ、
男は慌てて走り去っていった。
その背中を、
真奈はなぜか目で追ってしまった。
⸻
次に目に留まったのは、
幸せそうな美男美女の夫婦だった。
記者会見の映像。
確か、
旦那が奥さんの友達と不倫したとか、
そんな噂が流れていたはずだ。
でも、
画面の中の二人は、
あまりにもお似合いで、
嘘なんじゃないかと思えるほどだった。
(いいな……)
最初から、
勝ち組なんだろうな。
灯も、そうだった。
可愛くて、
綺麗で、
頭も良くて。
少し、
疎ましくなるくらいの勝ち組。
⸻
ふと、
顔色の悪い青年が目に入る。
明らかに具合が悪そうで、
放っておけなかった。
「大丈夫ですか?」
「え? あ、はい……」
「病院、行きます? タクシー呼びます?」
「大丈夫です。夜に出た自分のせいなんで」
目が合う。
——妙に、
瞳が明るい。
見透かされそうで、
真奈は一歩、後ずさった。
「ましろ、家まで送ってくれない?」
青年は、
真奈以外誰もいない空間に向かって、
そう話しかける。
そして、
とぼとぼと夜の向こうへ消えていった。
⸻
そろそろ、帰ろうか。
そう思った、その時。
「灯……」
その名前に、
足が止まる。
声の方を見る。
「なに」
「さっきの当たった男、タイプ?」
「ふふっ、バカ」
タトゥーの男に抱き寄せられて歩く女。
首元には、
これでもかというほど主張するお揃いのタトゥー。
絶対に、
近寄らないタイプ。
いつもなら、
視線を逸らして終わるのに、
今日は目が離せなかった。
——女が灯と同じ名前だから?
それとも、
似ているから?
でも、
灯はあんな服を着ない。
あんな馬鹿そうな男とも付き合わない。
あんな風に、
笑ったりもしない。
二人は、
人混みに消えていった。
真奈は、
また歩き出す。
——今戻れば、声をかけられるんじゃないか。
——灯だったんじゃないか。
そんな考えが、
一瞬、頭をよぎる。
⸻
「久しぶり」
声をかけられて振り返る。
同じ学校にいた子。
親しくもなかったのに、
なぜか顔だけは覚えている。
「友達、守れた?」
不意に、
そう聞かれた。
「……誰のことですか?」
「分からないなら、まだ大丈夫」
女は、
それだけ言って去っていった。
杏樹。
名前だけが、
妙に耳に残る。
⸻
真奈は、
灯にメッセージを送ろうとして、やめた。
——もう、
届かない気がしたから。
夜の街は、
何事もなかったように光っている。
この夜が、
誰かにとっての分岐点だったことを、
知らないふりをしながら




