第65話 二人の夜――心の中で
ジークの背中が、胸に当たっていた。温かかった。
体の冷えは、収まっているようだった。よかった。
視線を上げると、雨は止んでいた。
どんよりと曇っていて、日の高さが分からない。ただ、昼にはまだ入っていないだろう。
焚き火は消えていた。枯れ木も、もうなかった。でも、暖はとれた。
頭痛も、体のだるさもなかった。ただ、変な体勢で固まっていて、動かそうとすると関節が軋む。
それに合わせて、ジークがもぞもぞと体勢を変えた。
生きてる。俺も、彼女も。
「……変態」
短い沈黙があった。
「……ごめん」
レンドルは小さく呟いた。
でも、悪い気はしなかった。
「……どうしてレンドルは、わたしを助けてくれるの」
少しして、ジークの声がした。
「バルザードが雇った冒険者って言ってた。でも……銀狼相手に、わたし一人を助けにきたりは、しないと思う」
「……俺にも、よくわからないんだ」
「……」
「ただ、きみの……恥ずかしくなるから、言いづらいんだけど」
「……」
「初めてきみに会ったときから、銀色の眼を見ていると、目が離せなかったんだ。どうしてかは、分からない」
「……」
「一目惚れしたとか……そういうのじゃないんだ」
「……どこかで、見た?」
「そう、それなんだ。え……!?」
「……私も、そんな気がするの」
「な……」
「わたしも、あなたの……紅い眼を、知っている気がするの」
「……」
「わたしね、夢の中で、ぼんやりとなんだけど、呼ばれる」
「……呼ばれる?」
「手を引かれて」
「……」
「抱き寄せられて――夢から覚める」
「その人は……燃えるような、紅蓮の瞳なの」
猿神たちと戦うときに、カルドラの言っていた言葉と重なる。
彼女が見た紅蓮の瞳は、星の民の戦士のことなんじゃないか。
長い沈黙を流すように、強い風がふいて、樹洞に重い空気が入り込んできた。
焚き火の灰が、飛ばされた。
色々と考えていると、ジークの寝息が静かに聞こえてきた。
「きみの口から、名前を聞くためにきた。それだけなんだ」
でも、聞きそびれてしまった。
そう思って目を閉じた。
(……星を巡ったのか)




