第64話 二人の夜――生きるために
レンドルは利き腕を、左手で掴んだ。
激痛が走る。ひびの入った骨が軋む。その痛みで、無理やり目を開けた。
――ジークを助けるために。消えない炎よ、俺を導いてくれ。
手のひらに、青い光の粒が集まった。小さな炎が、そこに燃える。
炎がわずかに揺らめいた。その揺らめく方向へ、足を踏み出した。
暗い。雨が降り続いていた。
手のひらの炎が、揺らめいて消えた。
だが、焚き火の光が見えた。すぐに消えた。その方へ歩いた。
枯れ木を焚き火に積み、火をつけた。
呼吸が苦しかった。頭が重い。腕の痛みがひいていない。
「ジーク」
声が掠れた。
彼女の胸が、わずかに上下していた。
薬を飲ませなければ。でも、このままでは飲ませられない。
まず傷口だ。手に持っていた薬草を、石でゴリゴリと擦り潰す。利き腕が使えない。左手だけでは力が入りにくかった。それでも潰した。
ジークの肩の傷口に薬草を塗る。
「うぅ……」
小さな声が漏れた。生きている。それだけで、頭の中が少し落ち着いた。
銀狼の刃を包んでいた布を、肩になんとか巻いた。
あとは、薬を飲ませるだけだ。
水が要る。水筒はない。川まで戻る体力があるかどうか、もう分からない。
――籠手だ。
籠手を外して、外に出した。雨水が溜まっていた。
薬草を入れようとしたが、まだ粗かった。もっと細かくしなければ飲めない。
眠い。瞼が落ちそうだった。
(ジークを助けるんだ)
もう一度、石で擦った。もう一度。もう一度。
これでいい。
「ジーク」
肩を揺らした。反応がない。
「ジーク、起きてくれ」
瞼が、少しだけ動いた。
この薬をこぼしたら終わりだ。
口を開けさせる。少しだけ。籠手を傾ける。
「ジーク、飲むんだ」
口の端から、こぼれた。
「ディネットを助けるんだろ。飲むんだ」
返事はない。
レンドルは少しのあいだ、そのままでいた。
「……ジーク、許せよ」
一息おいた。
「変態って言われても、構わない」
口に少量を含んだ。そっとジークの口に自分の口を当てた。
少し、喉が動いた。
もう一口。
また、少し動いた。
それで、限界だった。
残った枯れ木を焚き火に足した。
上着を脱いだ。
濡れていたところも、いつの間にか乾いていた。
ジークを引き寄せ、背中から抱き込んだ。冷たかった。その冷たさが、腹に、胸に伝わってきた。
上着をジークの体にかけた。
意識が、切れた。




