表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀と氷のジークリンデ【旧作】  作者: 四十早
第2章 星の民と竜の加護
65/72

第63話 二人の夜――凍える体、燃えぬ炎

 レンドルはふと、目が覚めた。

 少し寝よう、そういって眠りについたのを覚えている。


 焚き火はまだ燃えている。だが、炎が小さくなっていた。

 外を見ると、空はまだ暗い。雨音は続いている。


 ジークは、膝を抱えたまま眠っていた。


 よかった。


 レンドルは枯れ木を足そうと手を伸ばした。その時、樹洞の奥、ジークの背中側の根から、細い水の筋が伝い流れているのが見えた。雨が土を染み込み、根を伝ってジークの背中へと、静かに滴り続けていたのだ。


 これでは、身体が冷えてしまう。


 レンドルはゆっくりと近づいた。つんと、嫌な臭いがした。


「ジーク、手を触るぞ」


 冷たい。ひんやりとしている。指先だけでなく、腕も、肩も、芯から冷えきっていた。

 根から伝った水が、ずっとジークの背を濡らし続けていたのだ。体全体が冷え切っているのも、当然だった。


 肩口の包帯に目をやる。血が滲んで、帯が変色していた。

 触れると湿っている。


 レンドルはジークの肩をそっと揺らした。

 崩れるように、ジークが横に倒れた。


 顔が蒼白だった。

 額に手を当てると、熱い。


 肩口に顔を近づけると、臭いが鼻先をかすめた。レンドルは腰の短剣を引き抜き、包帯を断ち切った。


「く……何が深くないだ。……俺は、あの言葉を信じすぎていた」


 銀狼の大きな口に噛まれて、大丈夫なはずがない。

 牙を砕いただけで、たまたま助かっただけじゃないか。

 俺はなんて浅はかな―――いまは後悔じゃない。


 深く、息を吸う。


「ジーク、起きろ」


 一瞬、まつ毛が揺れた。うっすらと目が開く。だが、光がない。


「……ディネット……待ってて……薬草を……」


 意識が混濁している。


 くそっ。ポーションなんかないぞ。どうする。

 ――だめだ、焦るな。冷静になれ。


 今、ジークが薬草といった。ルリア草だ。傷にも、解熱にも使える。


 雨は止んでいない。枯れ木も残り少ない。行くしかない。


 レンドルはジークの外套を手に取り、頭から被った。傘代わりになる。短剣を握り、外へ出た。

 青き月が雲に隠れている。光がない。何も見えない。


 レンドルは指先に魔力を集める。昨夜、ジークに教わったばかりの火の魔法。小さな炎を灯し、地面を照らした。


 ルリア草を探す。手のひらのような形の葉、とジークが言っていた。


 見つからない。どこに生えているのか、もっとちゃんと聞いておけばよかった。


 足元を照らしながら進む。何度か炎が消えた。雨が当たると、魔力の操作が乱れる。


 ――あった。


 手のひら形の葉が、根元の陰に固まっている。

 そうだ――毒草がある、とジークは言っていた。見た目はほとんど一緒だと。


 どう見分ける。


 思い出せ。……確か、苦みがある、と聞いたような気がした。あるいは、それは母さんに飲まされたときの味の記憶か。どちらか分からない。


 試すしかない。


 一枚摘んで、口に含む。噛む。苦みがない。

 吐き出す。


 違う。これは偽物だ。それとも俺の記憶が間違っているのか。


 川のそばで口を濯ぎながら、別の株を探す。何枚か摘んでは試した。苦みは出ない。

 だんだん、視界がぼやけてきた。頭が重い。めまいがする。毒草のせいか。


 ――ジークを助けるんだ。


 ふらつきながら炎を灯し直し、足元を照らした。


 ベリーだ。


 赤い実が、根元に固まっている。

 ジークが言っていた。ベリーはルリア草と一緒に採る、と。


 足元を見ると、その隣に手のひら形の葉が生えていた。


 頼む。


 一枚摘んで噛む。苦みが、舌の奥に広がった。


 これだ。


 急いで数枚摘む。症状が出始めている自分のために、一枚をそのまま噛みながら、残りをまとめて握った。


 さあ、戻ろう。


 あれ。


 どちらへ行けば、戻れるのか。


 炎を灯す。木々が揺れている。どこから来たのか、分からない。樹洞はどっちだ。ジークはどこだ。


 レンドルは、その場に膝をついた。


 意識が、遠ざかっていく。


 火は消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ