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転生したら滅亡間近な王国でした ~小さな軍師の憂鬱~  作者:
零章 リブリア平原の戦い
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カンナエの戦いの再現①

 風が平原を渡る。

 太陽はまだ高い。

 その光を受け、地面に影を長く落とす。

 遠方に見えるはヴァルデリア本隊の列——

 

 数の圧を体感させる長い列だ。

 しかし、その列は一枚岩ではない。

 三分割された部隊の列が微かにずている。

 それが、進路の差がお互いの視線を決定づけていた。


 この魔術がある世界。

 だが、戦闘の基本は歩兵だ。


 圧倒的に攻撃力がある魔術師――

 だとしても、それは変わらない。

 なぜなら、先陣を切り射程範囲まで到達し攻撃を行おうとする。

 

 ――が、それは騎兵の射程でもあるからだ。


 それに、相手の弓や魔術師の的になる。

 そうなれば、例え強烈な一撃を放つ――

 が、それは、討ち取られることになるだろう。

 それは、ただでさえ希少な魔術師の損失となってしまう。

 だから、やはり、戦場の基本は歩兵にならざるを得ないのだ。

 

 ―――


 命令が静かに告げられた。

 それは、ナナミの声ではない。

 まだ、こどものナナミでは威厳などない。

 そのため、兵士たちも、まともに動かないだろう。

 ナナミの代わりに攻撃開始の号令は父。

 『ホルス・フォン・ヴァーミリオン』だ。

 威厳に満ちた声は遠くまでよく響く。

 さすが、初代からアリテイア王国において軍事の一切を担ってきた家系というところであろう。


 その号令で、歩兵が前進し始める。

 右翼の『蝙蝠部隊』も先行し相手の騎兵に疾風の如くに駆け寄り始めた。


 だが、その響き渡る号令の陰で、私は小さく唇を噛んでいた。


 幕は上がった――

 ここから先は、もう後戻りできない。


 これが、後の『リブリア平原』の戦いの幕開けだった。


 §§§


 その号令があがる少し前の敵本陣――


「……撤退だと? 何故、優勢な我が軍が撤退などをせねばならぬのだ。これだけの兵力差。我らが逃げ出す所以などないであろう」


 そう話すのはヴァルデリア帝国元帥『クラウス・ニフラム・アルテリウス・ヴァルデリア』。


 第一皇太子であり、第一位継承権者。

 この戦で、その地位を磐石にしようと目論んでいた。

 そんな彼が顔を紅潮させ軍帳を睨む。

 皇室の血が皺を寄せる。

 時期皇帝の玉座は目前だ。

 敗北など、一顧だにしない。


「ですが陛下――」


 副官ガクヒの声は静かだ。

 だが裏に含む危機の色は濃い。


「申し上げにくいのですが……兵站が狙われています。夜襲で糧秣が焼かれ、士気も削がれております。このままでは――撤退も選択肢に入ります」


 クラウスは一歩前へ出る。目が光る。


「そんなものは構わん。いまだ我が軍には一ヶ月はもつ糧がある。目の前の敵を叩き、王都へと押し入れば全てが終わるのだ。分かったか?」


 ガクヒは必死に続ける。


「夜襲の被害は深刻です。実際には、焼失等で既に十日分ほどしか残っておりません。いま無理をすれば補給線は断たれ、兵は短期間で疲弊します」


 場内に短い沈黙が流れる。だがクラウスの頬はさらに硬くなった。


「ならば食事を半分にすれば良い。二十日もてば十分だろう」


 ガクヒの側近の若き兵站官が顔を強張らせて叫ぶ。


「それでは兵が持ちませんっ!」


 クラウスの声が会場を切り裂いた。


「黙れっ! 我が名の下にある命令だ。おまえらは私の指示に従えばよい。私は元帥だ――命令に逆らう者は処罰する!」


「ですがっ……!」


 ――ガシャァァァン!?


 赤く紅潮させた怒りの形相を浮かべ、手に持った酒杯を力の限りに地面に叩きつけクラウスは怒鳴りつける!。


「うるさいっ! 黙れと申しておろうがっ! このまま敵と交えず、おめおめ退却などしてみろ。どのようなそしりを受けるかわかったものではないわっ! そうなれば――我が家の名は地に落ちる。立つ瀬がなかろうがっ!」


「クラウス陛下……」


 その様子を見て兵站官をガクヒは手で制する。


「分かりました。そのように処置いたします」

「閣下……よいのですか?」

「いいのだ。もう決まったことだ。では、陛下。我々はこれで」


 ガクヒは物申したい兵站官を伴い一礼をし、天幕から退室した。


「……ふぅふぅ……これだから、下賎の出はっ!?」


 何もかも思い通りにならないことに苛立つ。

 そのままクラウスは不服そうに吐き捨てた。

 その後、不遜な態度のまま無造作に椅子に座り直す。

 そして、あたらしい酒杯に酒をそそごうとした時になくなっていることに気づいた。


 それすらも癇に障り、さらに苛立ちを募らせた。


「おい、酒だ。すぐにもってこい!」


 近場に控えていた侍女が慌てて頭を下げる。

 クラウスは鼻で笑い、吐き捨てるように言った。


「まったく……私の周りには、つくづく使えぬ者ばかりしかおらぬのかっ!」


 §§§

 

「閣下よいのですか? 我々はこのままでは……」

「わかっている。われわれは間違いなく敗北するであろう……そこで出来ることはただ一つ。出来るだけ多くの兵を無事に祖国に返えれるよう祈るだけだ……」


 ――ザッ!


 ガクヒが話していると、近寄ってくる足音に気づく。

 その足音の主はガクヒたちが気づく前に口を開いた。


「ほっほっほっ……『北方の賢狼』と呼ばれた『ガクヒ・ヨアヒム』もあろうものが、未だ戦闘も行われないうちから、なんとも弱気な発言ですな。下手をすれば反逆罪に問われかねませぬぞ」


「なっ! われわれは、ただ行く末を案じているだけだっ! 反逆罪などと……」


 反逆罪と言われ焦り、反論する兵站官を腕でガクヒは腕で制する。


「行政官殿の仰られることはもっとも。ですが、戦場では、なにが起きるかは分かりませぬ。もしもの時のために速やかに安全に陛下をひいては兵を撤収させる算段は必要でございましょう? その中には、あなた様も含まれるのですが……」


 ガクヒは冷静に受け答えをする。


「ぬぅ……口だけは達者な……ならば、そのようにならぬよう全力を尽くすがよかろう! ふんっ」


 行政官は少し視線を逸らし、短くため息を吐きつつ、その場を後にした。


「ふぅ……いったか」

「はい……ですが、一体何を考えているのですかね。陛下もあの者も兵士をなんだと思っているのでしょうか?」

「いうな。それこそ不敬罪に問われるぞ」

「はっ! 申し訳ございません……ですが」

「言いたいことは分かる。陛下もあの者も兵士を政治の道具としか思っておらぬ……それに巻き込まれる方は溜まったものじゃないがな……ふふ」

「閣下……」


 それはあなたも、その一人なのではないですか?

 そう思ったが口をつぐんだ。


「さぁ、そろそろ始まるな。いくぞ」

「はいっ!」


 ガクヒは犠牲が少なくなるよう願い、自身の部隊へと戻るのだった。


 §§§


 『イクシード(蝙蝠)部隊』にて――


「全員傾聴!」


 ――ザッ!


 イクシード隊員は副隊長ケーヘンヒラーの言葉に整列し耳を傾ける。


「隊長からのお言葉がある」

「ふふ。大仰だな。ええ、ケーヘンヒラー」

「はっ! 恐縮です」


「ふふ。さて、諸君。今こそ、我らを追い出した“ありがたい”帝国に恩返しをする時だ。思うところはあるだろうが、思う存分、仇で返してやろうではないかっ。なぁに、遠慮はいらんぞ……ふふふ。と、言っても、そんなヤツはいないだろうがな。だがっ! 一言言っておく!」


 その一言に全員が息をのむ。


「愛する女がいるなら女のために。いなくても、まぁ……なんだ、生き残れ」


「「「はははっ!」」」


 笑いが連鎖する。

 重苦しかった空気がわずかに軽くなった。


「隊長はいるのですか?」

「ああ、いるぞ。とびっきりのヤツがな。あの子が平穏に暮らせるためにも、必ず生き残るさ」

「「「おおおっ!」」」


 そこへ、急遽編入された魔術騎兵の魔術師が口を開く。

 馬を操る蝙蝠部隊の隊員にしがみついていた。


「あ、あの、わたしたちはこの部隊は初めてなのですが……」

「ああ、安心しろ。必ず生きて戻してやる。命に代えてもな」

「そ、そうですか……」


 魔術師は小さく安堵の息を吐いた。

 が、不安を隠しきれない。


 その時、出撃の合図がかかる。


「さて、諸君!? 緞帳は引かれた! 存分に演じようではないかっ! いくぞっ!」


「「「おおおおおおおっ!」」」


 はスターのその一言で士気が一気に上がる。

 隊員たちは互いに顔を見合わせ、刃に光を宿した。

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