第八話
祝辞にかこつけた、身の潔白の証明が終わったナナミ一行。
今は、王城で案内された部屋で休んでいた。
王都へいくならば、ついでに王都見物をすることとなっていた。
そのために、宿泊するために用意された部屋だった。
部屋へ案内されると、ナナミは少しギョッとした。
それは、絵具のような緑色の壁。
深い森を思わせる色合い――
だがナナミは、思わず眉をひそめる。
「……この色、ヒ素じゃないよね?」
王城の財力を思えば、高価な染料でも不思議じゃない。
たぶん、違うと思いたい。
そう思うのだが……
この壁が少しだけ落ち着かなかった。
それを除けば、豪奢なカーテン。
燭台の明かり。
葡萄酒の香り――すべてが歴史博物館の中にいるようだった。
いや、葡萄酒はここに置いてたらダメだろ……
と、突っ込みをいれていた。
ナナミは一人になりたいと、父とセバスチャンと別の部屋を用意してもらった。
あの人たちといると疲れる……
また、何を言ってくるかわからないしなぁ。
これで正解だよ。
「はぁぁ、つかれたぁぁ」
――ポフッ。
と、言いながらナナミはベッドにの転がった。
今回はあれで良しとしよう。
少なくとも分かる人には分かったはず。
今はこれでいい。
これ以上は逆に怪しまれる。
しかし……
あの娘はなんだったのだろう?
年の頃はわたしと同じか、少し上。
そんな感じに思えた。
あの娘……こっちをずっと見ていたな。
かと、言って何も話しかけてもこない。
ただ、見ているだけ。
わたしが移動すると、同じ距離を取り近づいてくる。
止まると、止まる。
一定距離以上には近づいてこない。
……なんなんだよ。
だから、隙を見て話しかけると――
「……ハヒョっ!」
と、言って全力で逃げられた。
もう一度、隙を見て話しかけても。
「あああの……そそその……フヒ」
と、言うと、また逃げられた。
気になってしょうがないじゃないかっ!
見た目は凄く可愛らしいのだけどね。
くりくりのお目目に、長い紫色の髪。
服装も凝っていて、青い衣装が似合っていた。
整った目鼻立ち。
あれは、きっと美人さんになる。
うん、間違いない。
けど……ワケが分からなかった。
………ま、いっか。
あの娘も帝国も気になるけど。
それよりも、明日は病弱な母にプレゼントを買って帰ろう。
こんな悪ガキだった子にも優しく接していた母上。
この子も、母親の前だと大人しくて良い子だった。
「………」
うっ……なんか泣けてきた。
こんな、わたしと入れ替わってしまって……
母はどう思うのだろうか?
わたしは、どう接すればいいのだろうか……
体が病弱なため、余計に罪悪感を感じてしまう。
………考えたところで、どうにもならないな。
今は、自分ができる範囲を……す……る……スゥ。
ナナミは柔らかいベッドに吸い込まれ夢の中へと落ちていくのだった……
§§§
――次の日。
父とセバスチャンに連れられて、王都の街へと連れられてきた。
「……父上……これは止めてほしいのですが……」
「何故だ? ナナミよ。良いではないか。ワシは楽しくてたまらん。それに、ナナミも見晴らしがよいだろう」
「いえ……それはそうなのですが……ほんと、止めて……恥ずかしすぎますっ!」
「ああ、ナナミ様が恥ずかしがっておられる。尊い!」
「………」
セバスチャン……
誰に毒されたんだっ!!
いや、問題はそこじゃないっ!
これは、ほんとに恥ずかしいっ1
道行く人がこちらをずっと見てくる。
中には「お父さん、ボクもあれやってぇ~」。
とか、父親にねだる子も出ているよっ!
もう、お分かりだろう……
そう、わたしは父に肩車をされている。
半強制的にっ!
王城から馬車で街についてから、降りるとすぐにセバスチャンに担がれて、ヒョイっと父の肩に乗せられたっ!
何やっちゃってくれたんだよぉぉぉ……
もう、ほんとにこの二人はぁぁぁ。
ああ、もう言っても聞かないから、もういいや……
「分かりましたよ。好きにしてください。けど、母へのプレゼントは買いに行きますよ。いいですねっ!」
「分かっておる。あやつと初めて入った店に向かおうではないか……」
母クララベルの名前が出た瞬間、父の表情に寂しさが走る。
口に出した言葉にもどこか哀愁が漂っていた。
「………」
なんだかんだ言っても、父上も母のことが気になるのだな。
もしかして、暗い雰囲気をさせない為に、陽気に振舞っているのかも知れない。
この時のわたしは、そう感じてしまった。
「なぁははは。だが、面白い話もあってな。あいつが――」
少しでも明るい話題にしようと父が話し出す。
「父上……」
ほんとに……素直じゃないな。
「よし、その店に行く前に、まずは腹ごしらえをするかっ!」
「えっ?」
「それは、よいですね。このあたりは素晴らしい店が多ございます。この「るぅぶ王都」によりますと――」
なにその本っ!
なんか、懐かしい名前だなっ!
というか……この人ほんとに何者?
そして、セバスチャンに促された☪4、0が付いた店。
『古城の森亭』へと入るのだった。
ここは「森鶏の香草ロースト」。
「王都産葡萄酒で煮込んだ鹿肉の赤ワイン煮込み」。
「虹鱒の柑橘ソースがけ(キトルパラディ風味)」。
などがオススメみたいだ。
あれ?
この「キトルバラディ」って昨日飲んだヤツかな?
ちょっと楽しみだな。
と、扉を開けるといきなり店の中はクライマックスだった……




