第9話 王と勇者は写し鏡
あれから2日後、3人は馬車で王都へ向けて出発した。
黎人は獣人が気に入ったのか、なかなか離れようとせず、連れ出すのに苦労してしまった。獣人の方はほっとしたようだった。
馬車の中で考えを巡らせる煇に対し、奥に押し込められた黎人は不満そうにしていた。
「あっ!王都が見えてきた!」
セリアは3日振りの王都を見て、この作戦が終わればやっとコイツから解放されると少し安堵した。
城門は空いていた。どうやら歓迎されているようだ。
街の中に人影はない。建物は全て窓も扉も閉め切っている。住人のほとんどが去ったのだろう。
すぐに城へ着いた一行は馬車を後にする。
「勇者様お久しぶりです。どうぞお通りください」
門番は何も聞かずに煇たちを中へ通した。
「この様子だと何事もなく玉座まで辿り着けそうだな」
煇の言った通り、数少ない従者や兵士は一礼して彼らを止める様子はなかった。
玉座の間に着くと、王がいつものだらしない姿勢で鎮座していた。
「おぉ!ヒカルよ!やっと帰ってきてくれたのか」
王は立ち上がりながら歓喜の声を上げた。
「なあ、あいつはどうしたんだ?」
「あいつ?ズマルのことか?私は知らんぞ」
ここでようやく王はセリアと無能勇者の存在に気付く。
「なっ、なんでお前らまで居るんだ!」
セリアは怒りを隠しつつも冷静に答える。
「あなたたちの勇者様をお返ししに参りました」
「何だと!?おい!ズマル!どこにいる!」
反応はない。煇が口を開いた。
「居ないならそれでいい。色々聞きたいことがある」
「ここ数年間、王国の財政が悪化した原因はなんだ?」
「知らない!私は何もしていない!私は悪くない!」
「そんなことはないだろう。お前の名前で毎日のように骨董品を買い漁っていたよな」
「知らん!ズマルが勝手にやったことだ!」
「金が足りないからと税金を引き上げたことは?」
「知らん!ズマルに勧められてやっただけだ!」
「あんた、あいつがどれだけ金を使っていたのか知らなかったんじゃないか?」
「知らん!私は何も知らん!全部あいつが悪い!」
「ちなみにあいつが今何をしようとしているかは知っているか?」
「知らん!でもお前を連れてくるとは言った!そしたらお前の方から来た。どういうことだ!」
あまりの他責思考に呆れた煇は渋々ノートを開いた。
「あいつは魔族と人間のハーフだ。最初にお前と会った時からこの計画は始まっていたんだ」
王は一体こいつは何を言っているんだと言わんばかりに口をあんぐりさせている。
「な、いきなり何を言い出すと思えば。なんの証拠がある!」
無視して煇は話を続ける。
「あいつが買い漁っていた骨董品、主に魔道具だよな。中には魔族がらみのものも含まれている」
「だから何なのだ」
「お前は全ての物品を把握しているのか?お前が要らないと言ったものが何故捨てずにおいてあったのか考えなかったのか?」
「俺は何も知らない!部屋がいっぱいあるのだからいいじゃないか!」
「その部屋から持ち出されているものもあるんだが、それはどう説明する?」
「知らん!知らん!知らん!これ以上私に質問するなああああああああ」
セリアも呆れ切って王の話を聞いていない。黎人はというと玉座の間の扉の模様で遊んでいる。
「そうか、ちなみにあいつが俺を探していた理由は抹殺するためだ。お前の大事なコレクションを地下室に持っていくのを見てしまったからな」
「どういうことだ?あいつは一体何をしようとしている!」
ようやくか、と煇は呆れながら説明する。
「あいつの目的はな、魔族を復活させることだ。そのために骨董品集めと称し、魔道具や呪具を蒐集していた」
王はちょっとだけ玉座に座り、再び立ち上がった。
「今ズマルは地下にいるのか!今すぐ叩き出せ!」
そう叫んだ瞬間、下の方から声がした。
「もう遅いですよ」
下から轟音が響くと、王の前に魔族を連れたズマルが突如として現れた。
いつも被っていたローブを脱ぎ捨て、魔族としての顔を露わにした。
「ひっ」
王の顔が引き攣る。
共に現れた魔族は人間の2倍以上の高さで、牛のような角と顔をし、巨大な斧を持っていた。ズマルはそれよりは1回り以上小さいが、かなりの大柄だ。頭の2本のツノは折られた痕がある。
「遅かったですね。もう少し早ければこうならなかったでしょう」
煇は剣を構える。
「足手纏い3人居て勝てると思わないでくださいよ?」
「くっ」
歯軋りする煇に対し、セリアが前に出た。
「私だって戦えます!馬鹿にしないでください」
「そうかそうか。この前よりはまともな装備になったみたいだし、少し遊んであげようか」
ズマルは大きな魔族に目配せをする。セリアに体よりも大きな斧が襲いかかる。
セリアは怯まずに回避する。
「このくらいは避けてくれないと困りますね。じゃあ私はあっちの相手をしますか」
ズマルは何やら怪しい呪文をブツブツと唱え始めた。
「ちっ、面倒だな」
煇はセリアと黎人の姿を確認し声をかける。
「俺が隙を作る。その間に逃げろ!」
「このくらいなら倒せます!任せてください」
「やめておけ、あっちは隠し球をまだ用意している。あいつを囮にしてでもここは一時退却だ」
「で、でも」
迷うセリアを見てズマルは片手間に魔法を放つ。
「きゃっ」
「余所見してはいけませんよ。あの勇者は戦う気がないようですから相手に加わってあげましょう」
ズマルは杖を大きく掲げ何か強力な魔法を発動しようとしたその刹那――
「今だ!伏せろ!」
煇は待っていましたとばかりに閃光弾を投げつけた。
「くっ、小癪な」
煇は扉と戯れていた黎人の首根っこを掴んで脱出する。セリアもそれに続いた。
2人は城の中を走る。
「街中にも伏兵がいるかもしれない。城を出たらとにかく逃げるぞ」
「はい!」
しかし、城の前には先ほどと同じ斧を持った牛の魔族が居た。
「ミノタウルスって奴か……」
二人の間を割るように巨斧が振り落とされる。
「ちっ、とにかく王都を出て合流地点で待ってろ。俺は適当に撒いて離脱する」
「で、でも」
「足手纏いだ。さっさと消えろ!」
煇はセリアを追おうとするミノタウロスに爆竹を投げつけ挑発した。
「おい!こっちだ!」
セリアは振り返らずに走って王都の外を目指す。
「あいつが居たらアレを使えないからな。まあこいつは大丈夫だろう。言葉通じないし」
すると勇者は持っていた剣を突然地面へ放り投げた。
「対等な条件で勝負しようか」
煇はそう言い放った。そうすると魔族の斧が地面に落ちた。ミノタウロスは拾おうとするが拾えない。
何が起きたのか理解できていないようだ。その隙に黎人を抱き抱えて逃げる。
「こいつ連れてたらやっぱ無理だわ」
煇はセリアが逃げやすいように、途中にいた魔族を挑発しながら城門を目指す。
冒険者協会なら人が残っているかもしれない。そう思い煇は寄ってみた。しかし中は魔族の溜まり場になっていた。
「伏魔殿だったか」
そう思った矢先背後に先ほどのミノタウロスがやってきた。斧は持っていない。そのまま煇たちの方へタックルしてきた。
突然の出来事に煇は黎人を突き飛ばし間一髪のところで回避する。
「くそっ」
大きな音を立てて冒険者協会の建物が崩れた。その音に釣られ周りから魔族が集まってきた。
そして黎人を完全に見失ってしまった。
* * *
一方ズマルはこの状況を城から見て楽しんでいた。
王が話しかける。
「お前がやりたかったのは、これなのか?」
「いいえ、まだ始まったばかりですよ」
王はズマルの返事に首を傾げる。
「お前は魔族を使って世界征服でもする気なのか?」
「何を言ってるんですか、そんなわけないでしょう」
「じゃあ何をするんだ」
「何って王も望んでいたことじゃないですか」
王は表情を強張らせているが、思考回路が追いつかずにフリーズしている。
「女神の抹殺ですよ。あなたもあんな勇者を呼んだことを憎んでいたでしょう?」




