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第8話 奴隷商に買取拒否される勇者

「ほら!あんたはこっちよ」


 奴隷商は小さくて醜い方の勇者を檻に入れた。空いている檻が多いにも関わらず、すでに女獣人がいる檻にだ。

 黎人は嫌がるどころか興奮しているようだった。


「その檻に入れて大丈夫なんですか?」


 セリアは奴隷商に尋ねた。


「いいのいいの。この子、なかなか売れなくて困ってたのよね。国があんな状態だから、さっさと在庫を空にしとかないと」


「さて、まずは状況を整理するとしよう」


 勇者は奴隷商から受け取ったノートを開いた。テーブルの上にはランプが1つ、2人の顔をほの暗く照らしている。


「最初にズマルの正体だが、あいつは魔族と人間のハーフらしい」


 年齢不詳、王国に来る前の経歴は不明。最初は古物商として活動しており、そこから王に接触したと書かれていた。


「えーっと、その人は何をしようとしてるんですか?人間への復讐?」


「まあそれもあるのかもしれないが、目的は魔族の復活だ」


「!!!」


「すでに奴は魔族の召喚に成功している。表沙汰にはなっていないが、近年ほとんど活動が確認されなかった王国周辺で魔族の目撃情報があった」


「そして極め付けがこの前の呪いを掛けられた一家の事件だ」


「それって具体的に何があったんですか?」


「そうだな。まず、ズマルは王国各地で魔族召喚の実験を繰り返してたんだ」


「そして、その副作用として近くに住んでいた一家が呪いにかかってしまった。しかし呼び出された魔族を倒しても呪いは解けなかった」


「どうして解けなかったんでしょうか?」


「呪いを掛けたのはその魔族ではないからな。やはり元を断つ必要がある」


「それでズマルを?」


「そうだが、それはおまけにすぎない。あいつの真の狙いは旧ゼット帝国の復興だろう」


「それって昔にあった超大国ですよね?魔族と何か関係があるんですか?」


「かの国は元々魔族が作った国だったらしいからな。だがなぜか魔族によって滅ぼされたことになっている。真相はわからんが」


「うーん。よくわからないですけど、そんなこと本当にできるんですかね?」


 勇者はノートのページをめくる。


「ああ、そのために税金を上げ、金を集めていたようだな。財政状況が悪いが、ほとんど王の散財ということになっている」

 ここ数年の王国の財務状況が書かれたページをセリアに見せつける。数字を追うだけで胃が痛くなるような内容だった。


「それって何か買い集めてたんですかね?」


「あの王は骨董品集めが趣味らしいからな。ズマルがそれにかこつけて魔道具の類を買い漁っていたのだろう」


「それとこれに関してはズマルが城の地下に集めているのを確認している」


「まあ、そのせいで追い出されて命を追われる羽目になってるわけだが」


「でもそれってお手柄じゃないですか!煇さんが見てなかったら今頃もう魔族に乗っ取られていたかもしれません」


「どうだろうな。既に城が魔族の手に落ちているかもしれない」


「ちょっと、そんなこと言わないでくださいよ!」


「まあいい。そんなことになる前に止めに行くべきだな」


 檻の中で獣人にちょっかいを掛ける小ゴブリンを尻目に作戦の話を始めた。


「あの子のおかげであの獣人もいい顔をするようになったわね」


 奴隷商は顔を歪ませる獣人を見て楽しそうにそう言い放った。


「でも奴隷としては売り物にならないわね。アンタ」


 作戦は単純だ。

 あの使えない勇者を囮にして正面から堂々と城に乗り込む。魔族が既に城を占領していた場合は囮は置いて撤退する。

 城が変わりなければ簡単に玉座の間までは辿り着けるはずだ。大半の従者は王とズマルのことを良くは思ってないからだ。当然煇との面識もある。

 そして王とズマルの前で全てを打ち明ける。それだけだ。


 シンプルだが、リスクは山ほどある。魔族の状況次第では真っ向から戦うことになる。城の規模は小さいとはいえ、魔族が潜んでいれば袋の鼠になりかねない。それでもやるしかない、ということは2人とも理解していた。


「あんな奴が囮になるんですか?」


「どうだろうな。とはいえ魔族もアレを見たら一瞬怯むだろう。色んな意味で」

 セリアは妙に納得してしまった。確かに、あの見た目と臭いは何かを麻痺させる力がある。


「囮というよりは……害虫駆除みたいな話ですね」


「物は言いようだな」


 煇は薄っすらと口角を上げた。笑ったのかどうかよくわからない角度だったが、セリアはそれを笑いと解釈することにした。


 作戦決行は2日後、早朝に馬車で王都へ向かう。行きとは違い2、3時間で着くだろう。

 煇は共和国への手紙を認め、奴隷商に渡した。


「これを例のルートで送ってくれ。それとあの情報は間違い無いんだな?」


「ええ、承知したわ。昔の仲間からの情報よ。信頼していいわ」


 奴隷商は金ピカの指輪をじゃらじゃら鳴らしながら、手紙を胸元に仕舞った。


 一方セリアはというと、要介護勇者の居ない日常を謳歌していた。と言ってもこの町で出来ることなんてほとんどないが。

 作戦前の装備の手入れ、街道沿いでの肩慣らし。短剣の刃を石で研ぎながら、自分がここまで来た経緯を振り返った。高額報酬に釣られて依頼を受けて、あの勇者の顔を見た瞬間に絶望したこと。呪いをかけられて、あの人の傍から離れられなくなったこと。


 1匹で居るゴブリンを見てアイツのことを思い出してしまった。そっくりだ。体格も、目つきも、全体的なオーラも。

 もしこの作戦が成功したらアイツはどうなってしまうんだろうと、ふと思った。呪いが解ければ、もう一緒にいる理由はない。それでいい。当然そうすべきだ。でも何となく、頭のどこかにひっかかっていた。


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