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第6話 名実ともに呪われた勇者

 朝日が昇ってくる。一睡も出来なかったセリアは勇者の寝る切り株に近付く。意外と寝顔は可愛いのかもと一瞬思ってしまった。だいぶ精神的に疲労が来てしまっているようだった。


 勇者のお腹がピーピー鳴っている。城を出てから何も口に入れていないのだから当然だ。どうやら自分の腹の鳴る音で目が覚めたらしい。なんて呑気なやつだろうか。

 勇者はモゴモゴ口を動かしてセリアに食べ物を要求する。


「これでいい?」


 持っていた干し肉を渡そうとするが、勇者は手で払い除けた。


「あっ!もったいない」


 次は青い果実を渡す。勇者はその酸っぱさに耐えきれず吐き出してしまった。


 少し考えたセリアはパンを見せてみた。王都を出る時に荷台に置いてあった紙袋にはいくつかのパンが入っていたのだ。すると勇者は頭を横に振った。

 どういうことだろう。仕方ないので別のパンを出してみた。半分に割って中に甘いクリームが入っていることを見せてやった。


 すると勇者は頷き、手を前に差し出したと思いきや引ったくって行った。

 勇者は中のクリームが付いた部分だけ齧り付くし、外側の味のない部分をその辺へ捨てた。なんとも汚いやつだ。


 唖然としたが、自分が食べるためのパンではなかったので、そこはまあ良しとした。ただお腹を壊さないか心配に思ったが、とにかく何か食べさせて今日のうちに街へ到着することが先決であった。


 甘々のパンを食べたからか、今日の勇者は割とご機嫌だ。昨日よりはマシな足取りで街道を進んでいく。意外と内臓は丈夫らしい。


 今日もモンスターが現れる。スライムだ。

 スライムは初心者殺しの意外と侮れない相手だ。だがセリアの敵ではない。

 昨日の反省を生かし、勇者が視界に入るようにスライムと戦うことにした。ゴブリンと違い、スライムは勇者には目もくれなかったので楽々倒すことができた。スライム以下なんかお前。

 全く相手にされていなかったことに気付かなかった勇者。おそらくスライムを雑魚モンスターだと思っていたのだろう。ともあれ昨日のように勇者が失禁せずに済み、セリアは一安心した。


 町が近づいてきたのか、モンスターの姿が少なくなってきた。外観が見えてくる。

 町の入り口周辺は木箱や樽が散乱し、見るからに荒れている。建物自体はしっかりしているが割れている窓が多く、ラクガキのようなものが目立つ。明らかに治安が悪そうだ。


 2人は町に入る。遠巻きに見ると大きな子供と若い母親のようにも見える2人は好奇の目に晒されていた。


「なんだあれ?ガキか?」


「母親にしては若いけど、どこで拾ってきたんだ?」


「ゴブリンにでも孕ませられたのかよ」


「ゴブリンのお手つきかよ。興奮するぜ」


 酷い言葉がいくつも聞こえてきたが、無視して町の中心部まで向かうことにした。


 浮浪者の1人が酒瓶片手にセリアへ近づく。


「おいおい嬢ちゃん1人か〜困ってるんならいいとこあるぜ〜」


 そしてすぐ後ろに小さな人影があることに気付く。


「ん?ガキがいるのか?若いのに大変だねぇ〜」


 セリアは無視しようと思ったが、立ち止まり勇者を正面に立たせる。


「ご存知ないんですか?彼は勇者様ですよ」


「ゲェッ!これが勇者様〜?あの噂のォ!」


 浮浪者は色々察して離れていった。噂はいったいどこまで広がっているんだろうか。


 町の中心部まで行った2人は、まず宿を探すことにした。治安が悪いだけあって相部屋の安宿ばかりだ。個室のある宿を片っ端からあたり、ようやく1部屋だけ見つけることができた。ただし1人部屋だが。


「1泊5000Eだよ。ベッドは1つしかないけど問題ないね?」


 宿屋の主人にはそう言われたものの、コイツと同じベッドはおろか、同じ密閉空間にだって居たくない。日が沈むまでは外で情報収集し、寝る前まで食堂で時間を潰すことにした。ちなみに金額だが当然ぼったくりだ。


 部屋に荷物を置き、宿の外へ出る。相変わらず視線が痛い。買い出しも兼ねて色々聞いて回ってみるが、あまり成果はなかった。お金にはまだ余裕があるので情報を買うという選択肢もあっただろうが、そこまで頭は回らなかった。


 宿に戻ってきた2人は食堂で夕飯を食べながら時間を潰すことにした。宿泊客以外も当然やってくるため、ガラの悪い連中も来ていたが、他は冒険者が多いため問題を起こすような感じではなかった。


 隣のテーブルの客が何か話をしている。冒険者の2人組だろうか。


「知ってるか?あの魔族に呪いを掛けられた一家の話」

 セリアは呪いという言葉に反応して聞き耳を立てる。


「魔族倒して終わったんじゃなかったのか?なんかあったのか?」


「実はな最近、その一家が奴隷商に売られたって話があってな」


「なんでだ?助けたのって勇者じゃなかったか?」


「わからんな。なんか考えがあってのことだと思うが」


「あの勇者もよくわからないからな〜。新しい勇者のことはもっとよくわからないけどな〜」


「その新しい勇者、この町に来ているらしいぞ」


「え?本当に?」


 その言葉を聞いたセリアは、手元の勇者の頭を押さえ、顔が見えないようにした。


「どうだろうな。居たら騒ぎになっていそうだけど」


 セリアは隣のテーブルの方を向き声をかける。


「あの!その奴隷商ってどこに居ますか?」


「どうした?話聞いてたのか?」


「はい!えーと良くわからないんですが、その人って呪いに詳しいんですか?」


「さあね。何か知っているかもしれないが、勇者の意図がわからないからなんとも言えないな」


「あっ!その勇者様って前の勇者様のことですよね?」


「そうだよ。最近はこっちで活動してるな。王から逃げ回っているらしいけど」


「ところで君の連れだけど、顔色悪いよ?大丈夫?」


 勇者はセリアが目を離した隙に、食べ物を喉に詰まらせ真っ青になっていた。


「ウッウッウッ」


「あー、ごめんなさい!トイレ借ります!」


 彼女は彼を連れてトイレへ駆け込み、詰まっていたものを全て吐き出させた。

 片方だけスッキリした顔をし、テーブルに戻ってきた。


「手間のかかるお子さんだね〜」


 トイレに駆け込んでいた間に空き瓶が増えていた。ぼちぼち酔っ払っているみたいだ。


「この子は私の子供ではありません!」


 セリアは力強く否定した。子なんてとんでもない、年齢的には真逆だ。


「事情は知らないけど大変そうだね。これ奴隷商の場所ね」


 もう1人の冒険者が、ここから奴隷商までの道順を書いた紙切れをセリアに渡した。


「ありがとうございます!」


 これで明日の予定は決まった。うまくいけばコイツとおさらばできるかもしれない。


 さて、あとは寝るだけだ。離れすぎると呪いが発動してしまうので、ベッドをドアの近くまで移動させる。勇者は廊下にでも置いておけばいいだろう。どこでも寝れるのだから。申し訳程度に毛布と一緒に勇者を部屋の外へ追い出す。今日はこれでぐっすり眠れる。若干いびきは聞こえるが壁越しな分、昨日よりはマシだ。


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