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第4話 勇者ちゃん係

「新しい勇者、人間じゃないんですってよ」


「あまりにも弱くて城の外へ出れないらしい」


「最近城に勤めていた人たちが減っているのは新しい勇者のせいなんですって」


「この国はもう終わりだ」


「前の勇者が居た時はまだマシだったのに」


「そんなお披露目すら出来ないなんて。本当はまた逃げられたんじゃないの?」


 新しい勇者の噂が王都中に広がり、近隣の街や隣国アズーロへ引っ越しを進める民たちが日に日に増えていた。


 こんな状況の王国に今日、1人の冒険者がやってきた。


「大丈夫ですか?」


 冒険者にしては小柄な少女が、老婆の担いでいた荷物を荷車へ載せた。

 城門には王都から出ていく人々でごった返していたが、彼女は理由を知らなかった。

 色々おせっかいを焼いていたら、人混みの反対側までたどり着いた。


 ようやく冒険者協会についた彼女は、掲示板を確認する。


『勇者の仲間募集 90,000E』


 掲載されて1週間経っているが、怪しすぎて誰も請けずに残っていたその依頼を迷わず取った。他にも何か細かいことが書かれていたが、彼女はよく見なかった。


「おいおい、それを請けるのか?」


 奥の椅子に座っていた偏屈そうな冒険者が話しかけた。


「え?何か問題があるんですか?勇者の仲間ですよ!」


「お嬢ちゃんここら辺じゃ見たことない顔だけど、この国は初めてか?」


「はい、今日到着したばかりです」


「悪いことは言わないから辞めておいた方がいい」


「なぜですか?こんなに報酬が高いのに」


「その勇者ってのがとにかくヤバいやつらしくてな」


「実際に会ったんですか?見てもないのにそういうことを言うのは良くないです」


「いや召喚されてから暫く経っても披露目されないから、おかしな噂が出てるんであってな」


 やんちゃそうな冒険者が近づいて来て大声で言う。


「それに王城からの依頼は大体碌なことになんねーよ」


「でも私にはお金が必要なんです」


 やる気なさそうな初老の冒険者は彼女の格好をジロジロ見ながら呟く。


「見るからに金なさそうだもんな」


 使い古しの麻のシャツに、申し訳程度の胸当て、短剣だけは手入れが良くされているが、ブーツは傷だらけだ。


「とにかく話を聞きに行ってきます!受付の方はいませんか?」


「受付ならこの前出て行ったぞ。直接城へ聞きに行きな」


「ありがとうございます!」


 彼女は奥にいた冒険者に頭を下げ冒険者協会を後にした。

 明らかにおかしな状況だったが、疑うことを知らない彼女の頭の中は勇者と報酬のことでいっぱいだった。


 城へついた彼女は、やる気のなさそうな兵士に声を掛ける。


「なんだ?客か?」


「掲示板を見て来ました。勇者の仲間を募集してるんですよね」


「そういえばそんなの出してるって言ってたっけ。勝手に入っていいよ」


「ありがとうございます!」


 兵士は彼女の名前も聞かず城の中へ通した。

 中へ入るとフードを目深に被った男が現れた。


「おまえは誰だ?」


「勇者の仲間の募集を見て来た冒険者です。セリアと言います!」


 その言葉を聞いてズマルの声色が一変する。


「あっ、その件でしたか。どうぞどうぞ、すぐにでも契約をしましょう」


 ズマルはセリアを連れて執務室に向かった。


「さあ、ここにお掛けください」


「し、失礼します」


「えと、勇者様はどこにいらっしゃるのですか?」


「後で連れてくるのでお待ちを。まずは契約を進めましょう」


 そう言いながら懐から袋を取り出した。


「これが前金です。報酬金額の半分、45,000Eになります」

 こんな大金を見たことがないセリアは目を丸くした。


「え?先にこんなにもらっていいんですか?」


「勇者と旅に出るんですからね。これは餞別です」


「そうですよね!私お金ないからどうしようと思ってました」


「そうでしょう。では契約成立ということで」


「えと、他にも仲間はいらっしゃるんですか?」


「勇者以外はあなただけですよ」


「そうなんですか?私だけで十分なんてずいぶんお強いんですね。噂は嘘だったんだ!」


 兵士が執務室のドアをノックしている。


「ズマル様、あいつ物置から出てこないんすけど」


「無理矢理にでも引っ張り出して来い!」


「嫌っすよ俺。その娘連れて行けば出て来てくれるんじゃないすか?」


「——仕方がない。俺が連れてくる」


 ズマルはソファから立ち上がった。


「セリア様、勇者様を連れて参りますのでお待ちください。」


 今の会話は聞こえていたが、なんの話かセリアにはいまいち理解が及ばなかった。


 「(物置?なんのことだろう)」

「はい!お願いします」


 ズマルは兵士に耳打ちし、庭の物置へ向かった。


「勇者様ってどんな人なんですか?」


 セリアからの突然の質問に兵士は戸惑った。


「なかなかすごい人だと思いますよ。俺には真似できないっす」


 あまりに具体性を欠いた回答に、セリアは困惑してしまった。


 そのあとはお互い会話もなく、ズマルが勇者を連れて戻ってきた。

 しかし勇者と思しき姿は見えない。妙な臭いはするが。


「勇者様を連れてきたぞ」


「よく連れて来れましたね」


 兵士は嫌味たっぷりに言った。


「お前馬鹿にしているのか?」


「違いますよ。さすがはズマル様だと」


「まあいい。手筈通りに頼むぞ」


「あー、了解っす」


 兵士はひっそりとセリアの真後ろへ移動した。


「これが我が国の勇者です」


 ズマルが横へずれると、その醜い男が姿を現した。


「えっ?」


 セリアはその姿を見て驚愕した。誰が見ても勇者には見えない。どこで拾ってきたゴブリンだろうか。先ほどからしていた異臭の正体はコイツだったのか。明らかに自分よりも小さく弱そうな姿に酷く落胆した。


「あの、お金はお返しするので、なかったことにしてもらえますか?」


「掲示板に書かれた依頼内容をきちんと読んで契約されてますよね?」


「えーと、契約を破棄する場合は報酬の10倍の金額……ってそんなの払えるわけないじゃないですか!」


「ですよね〜」


 セリアは少しだけ考えた。王国から出たら勇者を放り出せばいいと思った。


「わかりました。やりますよ」


「おお、そうですか。それはありがたい」


 そこへ王がやって来た。


「なんだ?勇者ちゃん係が見つかったのか?」


「ええ、今日でアレともオサラバです」


「そうかそうか。いやー散々迷惑をかけてくれたからなコイツは」


 聞いてもいないのに王はペラペラ喋り始めた。


「召喚された時は驚いたぞ。ステータスは全部0、スキルがないから言葉も通じない。武器は何も扱えないし魔法も当然ダメ」


 それからずっと勇者の話を続ける王。一同の顔はどんどん青ざめていく。


 そして話が終わると王はセリアへと近づき、握手をしようとした。

 その瞬間彼女はこの部屋から抜け出そうと足を踏み出す。


「どこへ行くつもりかな?」


 ズマルが声を掛けるとセリアは後ろにいた兵士に羽交締めにされた。

 そしてズマルは怪しい呪文を唱え始める。


「離して!こんなのと一緒に旅なんて嫌!」


 彼女は必死に抵抗するが兵士はなんとか抑えている。

 ズマルが唱え終わると、彼女の右肩に怪しげな紋様が顕れた。


「残念ですが、貴女は彼から逃れることはできませんよ」


「えっ?」


「呪いをかけさせてもらいました。彼から離れる、もしくは彼が死亡したら貴方も死にます」


 兵士は力を緩めセリアを解放する。セリアは慌てて部屋の外へ出るが、酷い頭痛に襲われしゃがみ込んでしまった。


「それ以上離れない方がいいですよ。死にたいなら構いませんが」


「くっ」


 王が口を開く。


「このまま新しい勇者のお披露目と行こうか。よし馬車を出せ」


 2人は兵士たちに連れられ馬車の荷台に乗せられた。


「念願の勇者の発表だと言うのに城前に誰もおらんな。まあいいか」


「えーと、このゴブリンみたいなのが新しい勇者だ!名前は読めない!わからん!終わり!」


 2人を乗せた馬車は一目散に城門を目指す。


「あれが勇者?」


「今回のは女の子だったのね」


「違うそっちじゃない。あの小人みたいなのが勇者だ」


「ねえなんか臭わない?」


「臭い、こっち来ないで」


「気持ち悪い!ゴブリンよ!」


 興味津々に見ているものもいたが、大半は一目みた瞬間に逃げ出していた。


 城門の外へ着くと――


「ここまでだから、あとは知らん」


 そう言って御者は荷台ごと2人を捨てて颯爽と城内へ戻った。城門はすぐさま閉じられる。荷台に置かれていた紙袋の中には申し訳程度の食料があった。城の者が気を遣って置いておいたのだろうか。それを手にセリアは立ち上がり、城門の方へ振り返る。

 今日、外へ出るはずだった民たちのブーイングが聞こえてくる。それは当然、勇者に対するものも含まれていた。


 街の外に2人。絶望に立ち尽くす女冒険者と、物置暮らしから解放され異世界ハーレム生活が始まると夢想している愚かな要介護勇者の冒険は始まったばかりだ。


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