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第3話 どこへ行ったって人間の本質なんて変わらない

 王城の客室という豪華な座敷牢を手に入れた彼だったが、スマホがないくらいしか転生前と違いがないように思えない。

 勝手に食事が出てくるのは変わらないが、可愛いメイドさんがお世話してくれる。前とは違ってバカ息子ではなく勇者様として扱ってもらえるのだ。

 スマホはなくても妄想はできる。実行する相手もいる。彼にとっては恵まれた環境なのかもしれない。当然それがずっと続けばの話ではあるが。


 さてそんな彼の1日だが、朝はメイドさんが起こしてくれる。夢という名の妄想から目覚めた彼はすぐさま彼女に卑猥な目線を向ける。わずかでも肌の露出がある場所を舐め回すように視線を向ける。狭い瞼の間を上下左右に踊る眼球を見てメイドはドン引きしている。


 次は自分ではベッドから降りれないことを身振り手振りでアピールし、メイドに布団を避けさせて体を起き上がらせてもらう。当然彼は体が触れる時は力一杯密着しようとする。力強さは全く感じられないが気色の悪さと異臭、不潔さで彼女は朝だけでストレスでいっぱいだ。


 持ってきた朝食を食べさせようとするが、彼の偏食は激しい。砂糖をふんだんに使った甘ったるくて柔らかいパンくらいしか食べない。他のものも食べようとするが、齧ってすぐ吐き出してしまう。

 まるで幼児の世話をしているようだ。しかしソイツはゴブリンのような見た目をした40歳の立派な大人である。


 次は部屋の掃除だ。なんとも言えない臭いのする部屋の窓を開けて換気をする。一晩で黄色いシミができてしまったシーツを外し洗濯をする。ただしその黄色いシミはお漏らしではない。汗なのか涎なのか、それともどこかから滲み出る体液なのか。当然洗濯など無力なので捨てることとなった。

 物がないので食事のもの以外は汚れはしない。ただし彼が溺愛するベッドだけは例外だった。


 やることがないので寝て飯食って糞してメイドが来ればセクハラしての生活である。

 当然こんな生活が続くはずもなく、次の日には別のメイドが来て、その次、さらにその次には自分の母親くらいの年齢のメイドが来た。

 もちろん日に日に扱いは雑になっていく。俺は勇者様だぞ!とアピールしてみたいが、日本の成人女性の平均に劣る彼の身長と体力では、異世界の女性になんぞ勝てるはずもないのだ。


 日に日に部屋の悪臭が増していき、とうとうそのメイドすら来なくなった。そして仕方なく兵士が渋々対応するようになった。

 これまでは男が部屋に来ても入れなかったが、飲まず食わずには耐えきれなかったようだ。


 そして彼が召喚されてからおよそ1週間がたった。


「陛下、もう私たちは限界です。この1週間で私以外のメイドが全て退職しました。」


「なぜだ?あの勇者のせいか?」


「そうです。早くあの勇者、いえあの化け物を城から追い出してください」


「そうか。でも使えないメイドが居なくなって良かったじゃないか」


「使えないとはどういうことでしょうか?」


「客の世話も出来ないメイドなんぞ要らないだろう。何か間違っているか?」


「あれは客ではありません。モンスターや災害の類です」


「全く勇者様をそんなふうにいうなんて失礼なやつだ。父の言いつけだったから雇ってやっていたが、もうお前もクビにしてやろうか」


「それで構いません。この国はもう終わりです」


「そうか。ならさっさと出ていけ」


 メイド長はカチューシャを外し床に叩きつけて玉座の間から出て行った。

 王は、父と自分を幼少から知るものが城から消えて少しニヤついていた。


「さて、勇者の扱いだがどうしたものか」


 兵士の一人が手を挙げて発言する。


「非常に申し上げにくいのですが、あの客室はもう使えません」


「なぜだ!?」


「部屋にあの勇者の匂いが染み付いてしまって、ベッドもシミだらけです」


「は?この狭い城に使える客室はあそこだけなんだぞ!どうするつもりだ」


 見かねた老執事が話に加わる。


「他の客室を片付ければ良いのではないでしょうか?保管している骨董品類を売却すれば財政の足しにもなりますし」


「それはならん。私の大事な趣味だ」


「左様ですか」


「ズマル、どうしたらいい」


 待ってましたと言わんばかりにズマルが口を開く。


「庭の物置で飼いましょう。最低限の食事だけ渡して放っておけば勝手に根を上げるでしょう」


「もうなんでもいいから早くアイツを城の外に出してくれ」


 兵士たちに命じ、勇者を客室から引き摺り出して庭の物置へ連れて行った。

 豪華な部屋での生活に慣れきってしまった彼は内心嫌がっていたが、圧倒的に体格が勝る相手に抵抗する気も起きなかった。

 中から開けられないように外から鍵を掛け、通気口も人が通れない様に塞いだ。

 兵士が1日2回食事を運ぶだけの最低限の世話に留めた。しかし彼は申し訳程度の藁の上でさえ爆睡していた。


 さらに1週間後。


 城下ではあの勇者の噂で持ちきりになっていた。

 一方、執務室では王の怒号がズマルに降りかかっていた。


「なぜあの勇者の情報が漏れているんだ!」


「落ち着いてください。状況を整理しましょう」

 ズマルが宥める。


「勇者召喚をしたのは2週間前です。勇者召喚の儀が行われることは事前に告知していました」


「勇者召喚から2、3日以内にお披露目をするのが通例でした。しかし今回は1週間経っても何も情報すら出てきません」


「国民が不審に思い、よくない噂が飛び交うのは当然ではないでしょうか?」


 王は不満げに漏らす。


「では民たちは我々を信用していないということか?」


「そうです」


「なぜだ!全てお前の言う通りにやっているのに!なぜいつも上手くいかないんだ!」


「そんなことはないでしょう。いつも貴方の我儘で捻じ曲げられておりますよ」


「ふざけるな!俺は王だぞ!逆らうのか!それに前の勇者はどうした!いつになったら見つかるんだ!」


「前の勇者ですか。居場所は掴んだのですが、しま……ではなくて中々姿を表さないもので。避けられているんでしょうか」


「なぜお前はいつもいつも他人事なのだ。昨日はアズーロ王国からの書簡も来るしどうなっているんだ!全部お前の言う通りにやっているのに!」


「まあまあ落ち着いてください。とっておきの秘策を用意しておりますので」


「これがあればアズーロだけでなくイロイの連中にも一泡吹かせることができます」


「そうなのか?それは本当か?期待していいんだな?」


「ええ、もちろん。ただし邪魔が入らなければですが」


「まあいい。それよりあの勇者はどうするべきか」


「これ以上隠してはおけないので、お披露目して外へ追い出してはいかがでしょうか?」


「あれをお披露目するのか?いい恥晒しじゃないか。それにあんなのを外に出したらすぐ死んでしまうだろうに」


「なので今冒険者協会に募集を出しているんですよ。勇者の仲間にならないかと」


「でもこんなに悪い噂が立っているのに受けるやつなんているのか?」


「世の中そんな馬鹿が1人2人はいるもんですよ。そこから先も考えておりますのでお任せあれ」


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