表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

第2話 異世界へ行けば上手く行くと思っているのか?

 無職引き篭もり40歳の柴崎黎人は実家の2階で10年以上引き篭もり生活を続けていた。


 彼の人生はずっと挫折続きだった。

 性格も頭も容姿も悪い彼は学校で虐められ、親のコネで見つけてもらった就職先ではたらい回し。そんな彼が引き篭もってしまうのも必然か。


 座敷牢とも言えるその場所は、彼以外の立ち入りを許さず、酷く異臭を放っていた。しかし稼ぎもないので物で溢れて汚れているというわけではない。黄ばんだ布団や枕、10年物の衣服が散乱しているだけだ。


 さて、そんな彼が一日中何をしているのかというと、主にスマホを弄っているだけだ。やることはエゴサーチとエロコンテンツ漁りくらいしかない。


 一時期インターネット上で活動していたこともある彼は、未だに自分のことを好いてくれる女子がいると妄信している。もちろんそれは全てネカマだったし、当人もそれを身をもってわかっているはずなのに。

 その活動が上手くいかなかったのも全て悪質なアンチのせいだし、自分の人生がうまくいかないのもアンチのせい。自分のしてきたことは全て棚に上げて俺は悪くないと思い、いまだにアンチへの復讐心に燃えている。女性ユーザーへのセクハラ・嫌がらせに枚挙にいとまがない彼だったはずだが、それすらも全てアンチのせい、ネカマのせいなのである。


 お盛んのように見える彼だが、長年の引きこもりと偏った食生活、運動不足により不能であった。


 ある日、両親が妹夫婦のところへ行くというので数日家を空けることとなった。

 彼はいつも通り、布団に包まり、バッテリーが劣化しきった5年落ちのスマホを握り締め日課に励んでいる。


 今日は邪魔するものは居ない。時間を忘れ『仕事』に没頭していた。

 勝手にエゴサーチして気分を害し、発狂する。数少ない彼を讃える言葉に大はしゃぎする。どうみても皮肉なのに。

 毎日こんな様子なので、家と家の間隔が広いド田舎ではあるが、近所では奇声が聞こえる家として認知されているようだ。両親も含めて村八分一歩手前。


 さすがの彼も疲れたのか、スマホの充電をしたまま布団の中で眠りについてしまった。

 劣化して、充電しっぱなしのスマホ、それを布団の中という熱が篭りやすい環境においたらどうなるだろうか。当然発火するだろう。

 中で火が燻り始めたが、彼が気付くわけがない。なぜなら、どんな場所でもすぐ寝れることが彼の数少ない特技だからだ。


 そして火は布団へと燃え移る。窓の隙間から入ってくる海風が火の勢いを強くする。彼が起きる気配はない。

 そして部屋の二酸化炭素濃度が上がり、彼は意識が途切れてしまったようだ。

 炎は2階全体へ広がり、座敷牢を焼き切ったところで消防団が到着し、鎮火した。その光景は、まるで彼だけを焼くためだったと言わんばかりだった。


 彼が目覚めると、そこは見たことのない場所だった。


 でっかい椅子に座った自分と年齢も背丈も変わらなさそうな偉そうなオジサンとフードを目深に被った妙にガタイのいい怪しい男、兵士もいたが、彼にはメイドくらいしか目に入らなかった。

 普段なら目に入った女性に悉く興奮してしまうところだが、自分の置かれた状況をまだ理解できていない彼はフリーズしていた。

 部屋の内装からして普通なら異世界だと気付きそうなものだが、彼にはそんなことを考える脳味噌の容量なんてなかった。


 オジサンとフードが何か話しているが、言葉が理解できない。しかし、自分の悪口を言っていることだけは察した。その洞察は長年の勘なのか、思い込みの激しさから来たものなのかはわからないが。


 剣をぶら下げた男が近づいてくる。黎人は切られるのではないかとビビって腰が抜けそうだった。

 しかし男は剣を前に差し出してきた。男は固まっている黎人の手を掴み、柄を握らせようとする。

 黎人はそれを掴もうとするが手に力が入らない。500ミリのペットボトルすら持つのがやっとの彼が剣なんて掴めるはずがない。


 男が手を離すと、大きな音を立てて剣を落としてしまった。そしてその音に自分で腰を抜かして尻餅をついてしまった。

 槍、短剣、弓と次々と武器を渡されたが、結果は同じだった。偉そうなオジサンとフードの男が何かを言うたびに新しい武器が出てくる。まるでバラエティ番組の罰ゲームのようだと思った。

 いろいろな武器を渡されたが、彼が扱うことは出来なかった。俺は何も悪くない、こんなもの渡してきて何がしたいのか。彼にはこれらの行動が理解できなかった。


 フードとの会話を続けるオジサンの顔色がどんどん悪くなっていくが、彼にはそんなことはわからない。そして急に声を荒げ始めたので、恐怖で身が震えてしまった。

 家でも学校でも職場でもよく怒鳴られていた黎人は色々と思い出してしまったようだ。頭の中がいっぱいいっぱいの黎人はボーッと突っ立ていた。


 その後も何か話していたようだが、何を言っているのかわからない。少しターゲットが逸れたと思ったのか、彼はちょっとだけ安堵していた。


 少し落ち着き、彼はようやくここが日本ではない場所だと認識し始めたようだ。

 ではどこなのだろうか。彼の乏しい語彙の中から『異世界』という単語がおぼろげに浮かんできた。アニメやネット小説で流行っていたやつだ。彼はそれらすらまともに見ても読んでもいなかったが、自分は選ばれし者だと、好き放題できると妄想も股間も膨らませ始めた。

 異世界で無双してやる。ハーレムを作ってチートでアンチに復讐だ。そんな無茶苦茶な考えが頭の中を駆け巡る。


 そして2人のメイドが近づいてくる。そういう展開なのだと思った彼は期待に胸を膨らませる。メイドたちは言葉が通じない彼の腕を掴んで無理やり連れていく。触れた服の感触だけで彼は興奮し息が荒くなる。


 外へ連れ出された彼は長い廊下(彼にとっては)を歩かされ客室へ通された。

 豪華なベッドを見た彼は、可愛いらしいメイドさん達との甘々な日々を妄想し始めたのであった。


 当然、現実世界の時と同じような目に遭うわけだが、3秒先すら読めない彼にそんなことわかるはずもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ