第1話 オールゼロ
セナン王国、セナン城玉座の間。
1ヶ月前に女神から勇者が召喚されるとお告げがあり、国王と臣下たちが集まっていた。
「よし、勇者召喚の儀を始めよ」
「承知しました」
召喚術士があらかじめ用意していた魔法陣に1本線を書き足した。
魔法陣が光り輝き始める。
あたり一面が光に包まれ、現れた影は成人男性とは思えない大きさだった。
周囲はあまり気に留めなかったが、それは光が晴れた瞬間に翻った。
「これが勇者か?弱っちいゴブリンにしか見えないぞ」
国王がそう発すると、臣下たちがソワソワし出した。
分厚く歪んだメガネと著しく小さく醜い目口、ぺったんこの鼻。
髪は短いのに清潔感は微塵も感じられない。そして手も足も短く細く、ちょっぴりお腹が出ている。
服は浮浪者かと見間違えるほどのヨレヨレのポロシャツとチノパンだ。
「陛下、見た目だけで判断してはいけません。ちょっと見てみましょう」
召喚術師ズマルはそう言って、召喚された薄汚い勇者に鑑定魔法を使った。
「ス、ステータスが全て0!?」
予想だにしなかったのか、つい口を滑らせてしまった。
「女神が遣わした勇者なんだろ!そんなわけあるか!」
カッとなった王は懐からモノクルを取り出しそれ越しに彼を見た。そして表示されたのは――
『Lv:40
体力:0
筋力:0
魔力:0
知能:0
器用さ:0
俊敏さ:0
スキル:』
「うん?この魔道具とうとう壊れたのか?」
旧ゼット帝国時代に作られたというその魔道具を舐め回すように見ながら王は訊ねた。
「いえ、私の鑑定の結果と同じです。スキルもありません」
「どういうことだ?こんなことあり得るのか?」
ズマルは顎に手を当てながら答えた。
「ステータス隠蔽のスキルがあるのかもしれません。他国でも事例があります」
「もしくは、何かをきっかけに力に目覚めるのでは」
「でももうLv40だぞ?Lv0ならわかるが」
「そう言われましても困りますよ。とりあえず何か武器を持たせてみるとか試してみては?」
「そうか。それならやってみよう」
「おい、そこのお前。勇者様に剣を」
王は一番近くにいた兵士に声をかけた。
面倒だなと思いつつその兵士の男は勇者の前へ出る。
「ど、どうぞ。こちらを」
兵士が剣を渡そうとするが、勇者の握る力が弱く、大きな音を立てて落としてしまった。
勇者は何を考えているのかわからない。まるで夢でも見ているかのような表情をしていた。
「ダメみたいだな。他も試してみるか」
短剣や槍、弓矢を試したが同じような結果だった。
武器が全てダメとなると、残された手段は一つだけだった。
「魔法もダメなのか?」
王は彼に尋ねるが、何を言っているのか理解できていないようだった。
なんなら自分に話しかけているのかもわかっていなさそうだった。
「ずっと気になっていたのだが、コイツは言葉が通じていないのか?」
「ええ、翻訳スキルがありませんからね。通じないでしょう」
「通じてないにしても察しが悪すぎるんじゃないか?どうなっているんだ」
「知能0ですからね。仕方ないでしょう」
王は頭を抱えながら嘆く。
「どうすればいいんだ。こんなお荷物勇者」
ズマルは声のトーンを少し落とし、答える。
「我が国は今、勇者不在ですから、次が用意できるまで城に閉じ込めておきましょう」
「こんな勇者の存在が表沙汰になるくらいなら隠しておいたほうが良いかと」
「ふん。そうだな。そうしよう」
ズマルの意見に頷きながら王は言い、すぐにまた口を開いた。
「おい、勇者様を客室へお連れしろ」
2人のメイドは恐る恐る勇者に近づき、その腕を取った。
同じ人間とは思えない彼を間近にして首を傾げながら、玉座の間を後にした。
その時、彼の息が妙に荒かったのを誰も気に留めていなかった。
彼がいなくなると王は話を再開する。
「しかし前の勇者はどうした?いつ見つかるんだ?」
「いえ、それがなかなか尻尾の掴めないやつでして」
「クッソ!勇者に逃げられ、新しく召喚したのがアレではまたアズーロの奴に責められるではないか!」
「あの国も口だけなのに。どれだけ我が国は舐められているんでしょうか」
王は急に一旦落ち着きを取り戻したかのように口を開く。
「おい。ズマル以外は出ていけ」
残っていた従者と兵士たちは黙って出ていき、玉座の間には2人だけになった。
「次の勇者召喚はいつになるんだ?」
「わかりません。王の元にお告げが来るのですから私にはわかりませんよ」
王は深くため息をつく。
「全く、どうすればいいんだ。クソ女神はなんてものを寄越すんだ。前のは消えるし今回のは何だ?間違えたのか?」
「まあまあ落ち着いて。少し様子を見てみましょう」
「お前はなんで他人事なんだ!お前が前の勇者を逃さなければ、あんなゴミすぐにでも始末してやるのに!」
「ですが陛下、前の勇者は力こそそれほどではなかったもののなかなか頭が回るやつでした。扱いにくくはなかったですか?」
「ぐっ……」
「この新しい勇者であれば、陛下の思い通りに操ることができるでしょう。前の勇者の捜索も含め、1ヶ月だけお時間をください」
「わかった。いいだろう。しかし本当に何とかなるのか?コイツは」
「とっておきの方法がありますよ。まだ秘密ですけどね」
「そうかそうか。期待して待っておくとしよう」
王は1人玉座に残り、しばらく宙を眺めていた。期待を膨らませているのかもしれないが、無理だろう。




