第31話 弱さを力に変えて
「柴崎黎人、あなたは私を強姦しようとしましたね」
「自意識過剰だろ!クソババア!」
「あなたは死刑になるべき!」
決まった、そんな顔をした偽女神だったが、何も起きなかった。
「あれ?おかしい」
「そんなことで死刑になるわけない!おれでもわかるぞ!こいつ馬鹿なのか!」
「こいつにはなんで効かないの!」
ヒカルがようやっと立ち上がり、その疑問に答えた。
「それは彼があなたよりも明確に”弱い”からじゃないのかな?」
煇の口もようやく動き出した。
「そしてお前が被害者にはなり得ない。効くとすれば男という属性だけ。しかしコイツはその恩恵をまるで受けていない」
「ちゃんと調べておけば、彼を倒せたと思うんだけどね」
「自分自身を客観視できてないんだろう。こんな奴にすら相手にされないレベルだと」
モリノは焦りを隠せない。
「どうして?弱者男性は滅ぼされるべきなのに」
「能力が正直に発動してしまっているんだろうな。そうとしか言いようがない。お前の認知通りに発動するわけじゃないってことだろう」
「はははははは。でもコイツ1人じゃ私を倒すなんて絶対に無理。あんたたちは指を加えて見ていることしかできない!」
「それはどうだろうな」
「お前はそんな高いステータスと強力なスキルを持っていて不公平じゃないか?コイツはなんにもないんだぞ?」
煇は痺れた口から全力で叫んだ。
「は?そんなの効くわけないでしょ」
ヒカルは黎人のステータスを確認した。
「あれっ?少しだけだけどステータスが上がっている?」
『Lv:40
体力:1
筋力:1
魔力:1
知能:1
器用さ:1
俊敏さ:1
スキル:翻訳(赤字)』
「いや、0から1になっただけかよ!」
「そうみたいだね。偽物側のほうは変化ないみたいだけど」
そのとおり、偽物には効果がなかった。しかし、あまりにも不公平な状況からは一歩、前進はした。
わずかばかりではあったが、それが黎人の自信にはなった。
「今更そんなことが起きても何も変わらないでしょ」
「もうどうにでもなれ!黎人!今のうちにあいつをぶん殴れ!」
「うわああああああああああああ」
黎人は叫びながら偽女神の顔面へ拳を叩き込んだ、ように見えた。
「なんか当たった?」
あまりにも情けない一撃だった。そのへっぴり腰と細い腕から繰り出されたそれは、あまりにも弱すぎた。
それでも偽物の頬には触れた。
しかし、何も起こらない。偽女神は突如血相を変えて叫んだ。
「よくも私を殴ったわね!死刑よ死刑!」
「ふざけるな!被害者はおれ!全部お前のせい!死刑はお前!」
「女は顔が命!殺人罪!死刑!」
「お前の顔なんて誰も興味ない!知らない!」
「お前みたいな臭くて醜い奴に触れられた!痴漢よ!死刑!死刑!」
「おれは悪くない!悪いのは全部お前!」
「「何やってんだこいつら……」」
「なんか偽物のスキルの表示が乱れてるね。何が起きたんだろう?」
絶対的弱者。
加害者認定。
無垢なる断罪。
その文字列がところどころ、文字化けしていた。
完全に消えたわけではないものの、もう絶対ではなかった。
「無効化されたのか?信仰がなくなったからか?それとも黎人が何かしたのか?」
「うるさい!お前ら全員死刑!死刑!死刑!」
「死刑はお前!お前が全部悪い!謝罪しろ!慰謝料払え!」
2人は同じようなやりとりをしばらく続けていた。
しかしその言葉は誰にも届かない。世界から拒絶されている。
ただの喚き声にしかならなかった。
あまりにも低レベルな争いに2人は頭を抱えだした。
「ずっと2人でそうやってろよ。もう帰っていいか?」
「これ今まで全部配信されてたんだよね。もう誰も女神なんて信じてないしいいんじゃない?」
コメント欄には、もはや彼女を信じる者など誰一人いなかった。
「こんなのが女神やってたのか」
「これから一体なにを信じて生きていけばいいんだ」
「きっつ」「ぶっさ」「ばーか」「まぬけ」「あほ」
「おばさんやんけ」
「口悪いな」
「正体あらわしたね」
「こいつらお似合いだな」
「もう終わりだよこの大陸」
「死刑!死刑!死刑!」
「さっさとくたばれ」
「待ちなさい!私は悪くない!私だって被害者!全てはあの女神が悪いの!」
「もういい。あいつと一生そうやっていろ」
呆れた2人が帰ろうとした時、集落の周りに大量の車両が到着していた。
「ようやく終幕となりそうだね」
大統領府の監視班は、配信開始直後から状況を伺っていた。
偽物の能力が健在である間は手を出せない。迂闊に切り札を使えば自分自身へ跳ね返ってくるからだ。
能力が喪われる、その時が訪れるのをずっと待っていた。
大統領はサングラスを掛け、車両から降りた。
「この日をどれだけ待ち望んでいたことか」
偽女神の配信が突如止まった。
彼は異形の長銃を構え、偽物へ向ける。
それはかつての女神がばら撒いた宝具の1つだった。チャンスは1回切りの使い捨て。
「今回は直接、私自ら手を下させてもらうよ」
引き金を引くと、真っ白い光の線が偽物の胸を貫いた。
「ッ――」
声を上げる間もなく、偽物の体は粉々になり、跡形もなく消え去った。
「女神様、これで良かったのでしょうか?」
目の前の相手が突如として消えた黎人は、ぽかーんと口を開けていた。
「おれの、おれの慰謝料は?」




