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第32話 異世界へ行ったところで人間の本質なんて変わらない

 異世界へ行ったところで、その人間の本質なんて変わりはしない。

 黎人は黎人のままだった。

 他の勇者も、そう。

 偽物の女神、森野夢花も最後まで自分が被害者だと思いこんでいた。


 あれから、世界は変わった。

 偽物の女神は消え、勇者召喚システムは破壊された。

 召喚を試すものもいたが空振りだった。神託もないのでうまくいくわけもない。

 この世界ではもう誰も呼び出されることはない。


 女神信仰を放棄するものもいたが、信仰をし続けるものもいた。

 もっとも、勇者たちにとっては諸悪の根源でしかなかった。


 魔族たちの封印は解かれた。

 解放された魔族たちは少しずつ、自分たちの記憶と意識を取り戻していった。

 しかし、その姿はもとに戻らない。失った時間も、滅んだ帝国も。

 彼らはひとまず、人里から離れた場所で暮らすことにした。

 全ては偽物の女神が作り出した冤罪であった。だが、数百年続いた恐怖と憎しみをすぐに覆すことは、双方にとっても難しかった。


 でも、ムーウはどこにもいなかった。どこへ行ったのか、死んだのか、消えたのか、誰も知らない。


 * * *


 偽物の女神が倒された後、世界は至って平和だった。

 大統領は今回の件をもって辞任、政府は次の選挙の準備のために忙しくしていた。


 ヒカルは辞職間近の大統領のもとを訪れていた。


「大統領、一体あなたはどこまで知っていたんですか?」


「さて、どうだろうね」


「あまりにも準備が良すぎたのではないですか?」


「疑う気持ちはわからないでもない。私だって断片的な情報を集めていただけさ」


「自分たちに答え合わせをさせたと?」


「そう思ってもらっても構わない。しかし女神が偽物であることと、最初の勇者であることは当初からわかっていた」


「なぜそれをすぐに公開しなかったのですか?」


「そんなことを急に公にしても混乱を招くだけだろう」


「確かに。しかし、辞職する必要はないでしょう」


「辞職では足りないかもしれないな。重大な秘密を隠していたこと。偽物の女神を手に掛けたのは私であること」


「結局、誰かがやらなければならなかったのでしょう。貴方1人の責任ではないのでは?」


「たとえそうだとしても、責任は取らねばならない。そして、私自身の役目ももう果たしたと言えるだろう」


 ヒカルはその後も配信活動を続けた。

 初めの頃は今回の件の話が中心だったが、徐々に大衆ウケするような内容にシフトしていった。


* * *


 煇とセリアはユメと3人で平穏に暮らしていた。

 なにか憑き物が取れたようにあれだけ硬かった煇の表情は少し柔らかくなっていた。


「なあ、少し落ち着いたらムーウを探しに行こうと思うんだ」


「え?あの魔族の?」


「そうだ」


「えー!ユメもいきたい!」


「すごく危ないし、怖い人達がいっぱいいるよ?」


「でもおもしろそう!パパもいるしへーきでしょ」


「長くなりそうだし、俺1人で行くよ。また何かあった時のために鍛えておきたいしな」


「1人はやめなよ。せめて他の人を誘って行ったほうがいいんじゃない?」


「まあ、考えておくよ。調査隊を結成するらしいし、それに参加してみるのも手かもな」


* * *


 ショウヘイはアズーロ城の客室にいた。

 彼は黎人に凸したあと、国に返され客室に軟禁されていた。


「俺はなにも悪くないのに」


「でも上げ膳据え膳のここにいれば何も苦労しないし、まあいいか」


「でもやっぱ許せねえわ」


 今日もMPhoneを片手にインターネット上で煽り、荒らし回る。

 黎人とは違い動画を作ったりすることはない。ただ怨嗟の声を広大な魔力波の海で叫び続けるだけだ。



* * *



 黎人は相変わらず、馬小屋にいた。


「おれが世界を救ったんだ!2回も!なんでこんな扱いなんだ!おかしいだろ!」


 今日も1人で叫んでいる。MPhoneは相変わらず取り上げられたまま。1日2時間の強制労働はなくなったものの、集落の外へ出ることは許されない。もっとも彼1人で外へ出ても、どこにもいけないとは思うが。

 

 不思議なことに彼を見物しに、集落へ観光客がたまに来るらしい。

 大半は動物園感覚だったが、本気で彼を哀れむ者もいたらしい。だが、現物を目の前にするとそんな気は失せてしまうようだ。


「おれは悪くない!悪いのはお前ら!世界を救ったのはおれ!謝罪しろ!慰謝料はらえ!」

「おとさん、助けてぇ!」

「おかさん、助けてぇ!」

「ああああああああああああああああああ」

「おれは悪くない!おれは悪くない!全部お前らが悪い!なんでおれだけこんな目に!」


 一通り叫んだ黎人は、疲れて藁のベッドの上に横になった。


* * *


 異世界へ行ったところで、人間の本質なんて変わらない。

 世界は変わった。

 勇者召喚は終わった。

 女神の名を騙る者も消えた。

 それでも黎人は、今日も馬小屋で自分以外の誰かを責めていた。

 ショウヘイはインターネットで怨嗟の声を上げ続けていた。

 それ以外の者たちは元の生活へと戻っていった。


 けれど、勇者たちはもう、元の世界には戻れない。

 死んだ者は、帰ることはできないのだ。


 おしまい。

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