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第30話 身も心も醜いあいつの正体

 森野夢花は、いつも被害者で弱者で虐げられてきた。

 ブサイクな自分とアイドル並の容姿を持った妹を小さい頃から比較され、コンプレックスの塊だった。


 そんな彼女が対抗できる手段は勉強くらいしかなかった。国立大学の人文科を専攻した彼女はフェミニズムについての研究に没頭した。当然デモやNPOの活動にも力を入れた。


  若くして著名なフェミニストとなった彼女が繭の外で受けたのは盛大なバッシングだった。当たり前である。男女平等の名に平然と男性差別を行い、私たち女性は無条件で被害者だと。たとえ加害者になったとしても、それは社会が悪い。そしてその社会を作り出した男が悪い、と。そういうロジックの元、主張をしていたからだ。


 彼女は、ある日のデモ活動の最中、警察の警備車両を体1つで止めに入り、下敷きになって死んだ。

 彼女は、伝説となった。いろんな意味で。


 最初の勇者となった彼女は、女神から直接、ゼット帝国を弱体化させて欲しいと頼まれた。

 女神は流行りだからと、自分なりにこのシステムを作ってみたらしい。

 自身のステータスを見た彼女は酷く不満を覚えていたが、仕方ないので従ってみることにしたのだ。



 彼女が涙を浮かべて「私は傷付けられた」と言えば、相手は加害者になった。

 彼女が「怖い」と口にすれば、周りの者たちは素直に言うことを聞いた。

 彼女が弱者や被害者になりすますことで世界を、人々を欺いた。

 

 彼女はその能力で簡単に帝国を乗っ取ることができた。

 日本での言動をそのまま繰り返せば誰も逆らうことはできなかった。あまりにもあっさり終わった。

 そして更なる搾取と差別を彼女は続けた。しかし、やりすぎた故にその能力の効力は薄れてきてしまった。


 困った彼女は女神に頼ることにした。女神は彼女を救うべき存在であると信じていた。だが女神は断った。

 彼女は能力を使った。女神でさえ、いや女神だからこそ、その能力には抗えなかった。

 泣きわめき、怯え、助けを求める勇者を信じさせられてしまった。

 それは演技でない、彼女の本心であった。彼女自身もその考えと能力に脳を支配されていた。

 女神はあっさりとその権能を彼女に渡してしまった。


 こうなったらもうやりたい放題だ。ゼット帝国民を徐々に、本で読んだ悪魔の姿に変え、理性を奪い、暴れさせた。

 大陸中は滅茶苦茶になった。そして、その魔の手が彼女に及びそうになった時、悪魔たちを異空間へ閉じ込め、鍵を掛けた。

 女神は彼女から権能を取り戻そうとした。しつこい女神は彼女にとって邪魔だった。だから殺した。女神は最後の力で自らの宝具を世界にばら撒いた。そして女神の権能も世界から失われた。


 それから彼女は世界を支配した。信仰には興味がなかったが、民たちが勝手に信じた。勇者召喚を続けるには都合が良かった。

 弱い魔族を少しずつ大陸に放出し、脅威を作り出した。魔族を滅ぼせる勇者が現れるまで延々と繰り返した。

 しかし、そんな都合のいい勇者は現れることはなく数百年もの時が経った。


* * *


「おれはお前を許さない!」


「直接見ると本当に気持ち悪い!なんて醜い存在なの!」


「近寄らないで!」


 黎人は無視して一歩一歩近づく。


「おまえが!おまえが!よばなければ!おれは!おれは!」


「なんなの!こいつ!」


 黎人は彼女を目前としたところで止まった。


「あれ?能力が効いた?」


 いや、黎人はただ止まっているだけだ。次の言葉が出てこないだけだ。

 注意が逸れたからか、煇たちは意識を取り戻した。


「ど、どうなっている!?」


「やっと頭が回るようになったね」


「おい!モリノ!お前は自分がなにをやっていたのか、わかっているのか?」


「何って私は私のしたいことをしてただけだけど?」


「ふざけるな!この世界の人も巻き込んで、日本で死んだ者の宿命すら弄ぶのか!お前は!」


「そんなこと私には関係ないし。やったのは女神でしょ。私は悪くない」


「きっかけはそうかもしれないが、その後は全てお前の意思によるものだろう」


「うるさい!私は被害者よ!」


「被害者なわけあるか!お前はれっきとした加害者だ!」


「あなたたち男性には私の気持ちはわからない!私がどれだけ虐げられてきたのか!」


「んなもん知るかよ。男でもコイツはお前よりも弱いし虐げられてきたと思うぞ」


 煇は黎人を指さした。


「おれのほうが被害者だ!被害者ズラするな!このクソ女!」


「いいぞ!もっと言ってやれ!」


「あはははは、何を言っても、やっても無駄よ」


 モリノは急にその場にしゃがみこんだ。


「誰か助けて!男たちに襲われそうなの!」


「は?」


 その刹那、3人とも頭の中が真っ白になった。

 彼女を傷付けてはいけない、そんな考えが頭の中に強制的に現れた。

 そして、それがそれぞれの体にも影響を与える。


「ぎゃああああああああ」


 黎人が股間を抑えて叫んだ。

 煇は口が開けなくなった。ヒカルはその場で崩れるように倒れた。


「ど、どうなってるの!?」


「弱者で被害者である私に君たちが勝てるわけないでしょ」


「とりあえず、この醜いのだけは始末しておこうかしら」


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