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第29話 偽物を屠るための"光"

 偽物の女神との決戦に向けて、煇たちはムーウの話を聞いていた。

 

 その勇者、つまり偽物の女神は、女神が一番最初に呼び出した勇者らしい。魔力資源の枯渇に恐れた女神はゼット帝国を衰退させたかったようだ。

 しかしムーウによるとそれも織り込み済みだったらしく過剰な心配だったようだ。


「それだけが女神の理由ではなかったと思う。ただ我々も少々やりすぎた面もあったのは否めない」


「なにかの禁忌に触れてしまったとか?」


「そんなのは既に通り越している。そもそも我々は女神への信仰を否定していたからな」


「その程度では、女神は何もしてこなかった。だから問題はなかったはずだ。女神は人々の営み自体には関心がない」


「色々あったんだな」


 今日は一旦休んで、明日偽物を引きずり下ろすことにした。

 偽物を引きずり出したところで、勝算は正直ない。女神さえ殺せる彼女の能力は未知数だ。はっきり言って出たとこ勝負。

 とはいえ女神側もこれだけ自分に都合の悪い情報を出されては何もできない。詰んでいる。どこかの誰かみたいに引きこもって、頭が悪いけど強大な力を持った勇者が見つかるのを待つくらいしかないのだ。


* * *


 偽物のほうは、どうせ勇者たちは何もできないだろうと高をくくっていた。


「どうせ私には手は届かない。また配信でもしてやろうかしら」


 女神は金色のウィッグを握りしめ、下界の様子を眺めていた。



* * *


 作戦の当日になった。


「よし、じゃあ始めるか」


「おい、偽物の女神!お前本当は勇者だったんだってな。お前だけそんなところにいるなんて不公平じゃないか?こっちに降りてきて正々堂々勝負しろ!」


 何も起きない。


「ダメだね」


「ダメみたいだな。ムーウ、どうしてだ?」


「そう言われても、私も君の能力を正確に把握してるわけじゃないからね」


「どうすればいいんだ……」


「困ったね。正直もう放っておいてもいいと思うけど。しばらく何もできないだろうし」


「確かにそうだが、一発くらいぶん殴ってやらないと俺の気が収まらない」


「ずいぶんイラついてるね」


「そりゃそうだろう。こんなところに呼び出されて散々な目に遭わされた挙句、つかの間の幸せも脅かされた。そしてその正体が俺達を日本で虐げてきた存在の可能性がある。それくらいの権利はある!」


「まあまあ、少し落ち着いて」


 MPhoneをいじっていたムーウが何かに気付いた。


「女神の配信、今日あるみたいだよ。ちょっと試してみたら?」


「これでダメなら、今回は諦めるしかないか」


 意を決して、煇たちは偽物の配信を待つことにした。


 そして、しばらくして女神の配信が始まった。


「アルカ大陸の皆さん。こんばんは」


「昨日現れた者の流言飛語に惑わされてはいけません」


「あれは憎き魔族の生き残りです。真っ先に滅ぼすべき対象です」


「あの者を抹殺したものには、永遠の命と大陸の全ての富と財宝を与えます」


「なんだよ大陸の全ての富と財宝ってw」

「こんなの騙される奴いる?」

「あの勇者、雑魚だから簡単に殺せるぞ。永遠の命だけでもお釣りが返ってくる」



「わけのわからないことを言っているな。配信が終わらないうちにもう一回試してみろ」


「ああ」


 煇はもう一度試した。偽物の女神の配信映像が乱れ、集落の広場の映像が映し出された。


「は?ここはどこ?」


 偽物の女神は焦りを隠せない。


「ようやく顔を拝めたな。偽物の女神」


「顔を見てはっきりと思い出した!お前は最初の勇者、モリノユメカ!」


 黎人の体を借りたムーウが叫んだ。


「お前はぁ!死ねぇ!」


 白い光が黎人の胸のあたりを貫いた。


「うわあああああああああああ」


 彼にまとわりついていた黒い瘴気は雲散霧消し、ムーウの気配が一瞬で消え去った。

 偽物は女神の宝具を使って黎人の体から邪悪なるものを排除したのだ。


「あれ?おれはなにを……」


 黎人はすぐに正気を取り戻した。


「ぎゃははははは、これで邪魔者はいなくなった!私の勝ちだ!」


「クソッ!ムーウ、消えちまったか」


「あとは凡百の勇者だけね。あ、ゼロもいたか」


「どこかで聞いたことのある名前だと思ったら、伝説のフェミニストじゃないか!そして活動家の」


「なんで女神はそんな人を勇者として呼んだのだろうね?」


 話をしている2人をよそに、偽物は左手を腰に当てて、大きく息を吸い込んだ。


「私は被害者で弱者よ!あなたたち強者は私を庇護し敬いなさい!」


「くっ、なんだこれ」


「力が入らない!」


 2人の全身から力が抜けていく。敵対する意思を持つだけで気分が悪くなっていき、罪悪感で満ち溢れてくる。

 目の前の彼女を傷つけてはいけないと、そんな思考が勝手に頭の中へ流れ込んでくる。

 

 しかし、黎人にはなんの影響もなかった。


「はははははは、こいつら、動けなくなってる!」


 黎人は2人を見て笑い、はしゃいでいる。


「え?なんでこいつだけ動いてるの?」


「お前が女神か?おれはおまえを許さない!」


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