第27話 ようやくの出番か
「てっきりリムジンでも用意してるのかと思ったが」
出口の先は首都サイキョーの外れにあるトイレだった。そこには1台の装甲車が置いてあった。
「ずいぶん準備がいいね。運転は頼んでいいのかな?」
「ヒカルさんは後ろで隠れていてくださいね」
アクセルを強く踏み込み、アイツのいる集落を目指す。このスピードなら昼間には到着するだろう。
* * *
「ここか」
「だいぶ小さい村みたいだね」
車を降りて、中を歩く。黒服が立っている異様な馬小屋を見つけ、すぐにアイツの根城だとわかった。
「お待ちしておりました。大統領から連絡は頂いております。どうぞ中へ」
2人は馬小屋の中へ入る。
「くっさああああああああああい」
ついヒカルは大声を上げて叫んでしまった。
「熟成されるとこのくらい臭いのか」
アイツの臭さを知っていた煇は先に鼻をつまんでいた。
「やっと来た!おまえら遅い!」
「どうでもいいが、臭いから外で話さないか?」
馬小屋の外へ出ると黎人は今の窮屈な暮らしを説明し始めた。一日中監視される。インターネットは制限され、電話しかできない。1日2時間の労働を強制される。あとはいつもの通り、おれは悪くない、魔族を倒したのは自分だとアピールし始めた。
「1日2時間程度で音を上げるなよ」
「全部、自分で巻いた種だよね?」
「おれは悪くない!こんな世界来たくなかった!呼んだ奴が一番悪い!」
「まあ、それは同感だな」
「収穫なさそうだし、どうしようか?」
帰るわけにもいかない2人が悩んでいると領主が話しかけてきた。
「もしよろしければ滞在なさってください。ここには何もありませんが、ほとんど人は来ません」
2人は領主の好意を受け、しばらく滞在することにした。
そして縋る先を失った黎人はというと。
「誰かなんとかしやがれ!もう誰でもいい!魔族でもいいから、おれを助けろ!」
その日の夜、黎人の影が少しばかり揺れた気がした。
次の日、暇だった煇とヒカルは集落の仕事を手伝うことにした。
「本当になにもないんだなここ」
「いいじゃないか。都会の喧騒から離れて、のんびり農作業するのも」
「こんなことしている場合なのかな……。まあ少しくらいいいか」
2人は不慣れな手つきで畑を耕していった。
そして黎人にも強制労働の時間がやってきた。
「いやだ!こんなことおれの仕事じゃない!おれはこんなことしなくてもいっぱい稼げる!」
黒服が馬小屋から彼を引き摺りだし、作業場へと連行する。
「お前の今日の仕事はこれだ」
黎人に任されたのは、石鹸の入ったパッケージにシールを貼る仕事だ。
「早く席に着いて作業を始めろ」
「いやだ!やりたくない!これつまらない!」
黒服は黙って彼の頭を殴りつけた。黎人は渋々作業を始めた。
「シールが曲がっている。やり直し」
黒服が検品をしている。90度曲がったシールを剥がし、黎人へ突っ返す。
「真面目にやれ。お前はその程度の仕事すらできない無能だと自覚しろ」
黎人は時折文句を垂れつつも毎度怒鳴られ殴られ、とりあえず2時間の作業を終えた。
「毎日2時間も働かされるなんて耐えられない!だれかなんとかしろ!」
黎人が作業場を出たとき、集落の入口にどこかで見覚えのある人物の姿があった。
「黎人!!!見つけたぞ!!!」
その男は黎人の元へ走って向かっていった。
「お、お前は!お前のせいでおれはこんな目に!」
「それはこっちのセリフだ!ふざけるな!」
現れたのは黎人とかつて同レベルの争いを繰り広げていたアズーロの勇者、ショウヘイだった。
あたりが騒がしいことに気がついた煇とヒカルもその場に駆けつけた。
「なんだ?ここは人なんて来ないところじゃなかったのか?」
「この人、ゼロの勇者と争ってた人だよね」
やってきた2人には目もくれず、無能2人は言い争いを続けた。
「おれは悪くない!お前がおれに嫉妬した!」
「お前なんかに嫉妬するわけないだろ!ステータス0のゴミめ!」
「お前だってデバフでステータス1桁だろ!」
見ていた煇とヒカルは呆れていた。
「これ、撮影しておいた方がいいかな?」
「やめてくれ」
茶化すヒカルに対して煇は本気で返した。
「やんのか!雑魚が!」
「かかってこいよ!最弱!」
2人が取っ組み合いを始めようとしたため黒服が止めに入った。ショウヘイの方を羽交い締めにし、縄で拘束する。
「いい加減にしろ」
「俺は悪くない!どうして俺がこんな目に合わないといけないんだ!」
「どうしてわざわざこんなところまで来たんだ?」
ショウヘイは黙った。
「お二方、申し訳ないのだが代わりの者が来るまで時間を要する。ゼロの勇者の監視を頼めないだろうか?」
「いや、それはちょっと……」
「MPhoneを取り上げて、集落から出さないようにしてもらえるだけでいい。お願いしたい」
「まあ、それならなんとか」
「感謝する。では私はコイツを連行する」
黒服はショウヘイを簀巻きにして引き摺って、ショウヘイが乗ってきた馬車に乗せた。
「おれの勝ち!あいつのほうが弱い!おれは勝った!」
勝利宣言をする黎人だったが、MPhoneを取り上げられ、馬小屋の中に完全に閉じ込められたのだった。
もう「だれかなんとかしやがれ!!!」と叫ぶ気力もなくなり、黎人は湿った藁の上で死んだように眠っていた。
女神でも魔族でもなんでもいい。そう思い始めた黎人をどこかから誰かが見守っていた。
翌日も黎人は馬小屋に閉じ込められていた。
「ほら、食料だぞ食え」
煇が馬小屋の扉を少しだけ開け、黎人に手渡す。
「こんなもん食えるか!おおきいステーキ!よこせ!」
我儘を言う黎人に煇はさっさと扉を閉じて閂をかけた。
「なんでこうなるんだ!誰かなんとかしやがれ!」
「ぜんぶ、ぜんぶ、この世界に呼び出した女神とかいう女のせいだ!お前が責任を取れ!」
その言葉の直後、黎人の背筋に覚えのある悪寒が走った。
「その言葉を待っていたぞ」




